プロローグ
お立ち寄り下さりありがとうございます。
どうぞよろしくお願いいたします。
「待ってくれ」
今やすっかり口癖となったこの言葉を、呟いていた。
そして、いつも通り、彼女はこの言葉を無視する。
「いざ、尋常に勝負!」
たった今、いきなり「決闘」を申し込まれて、なぜ「尋常に」勝負しなければいけないんだ!
僕は決闘を受けた覚えはない!
そんな僕の思いはやはり無視され、彼女は切れのある跳躍と共に、自分に飛びかかってきた。
条件反射で剣を抜き、彼女の攻撃を受け止める。
そして「決闘」は始まった。
彼女の攻撃を受けること、数合。
長引かせれば、彼女は魔力を最大限に込めて攻撃を繰り出すはずだ。
僕は間合いに飛び込んだ。
相手の首元に目掛けて、剣を突き出そうとしたその瞬間、
全身が警鐘を鳴らした。
地面を蹴って離れようとしたが、間に合わなかった。
彼女の剣から炎が放たれる。
宙で受け身を取りながら炎を避けたが、彼女が間合いを詰めるのが目に入った。
地面を転がり、距離を取ろうとしたが、それを彼女が許すはずがない。彼女は間合いをさらに詰め、剣を振った。
一切、迷いのない、無駄のない動きだった。
僕の首元の、まさに紙一重の距離で剣は止まった。
女性ではやや低めの、だが、凛とした声が響く。
「私の勝ちだ。あなたの命は私のものだ」
僕は試合の、いや、「決闘」の集中が途絶え、ぼんやりと彼女を見上げた。
鍛え上げられた、それでも猫のようなしなやかさを備えた彼女の体は、この瞬間も、美しい姿勢を取っている。
やや細めの瞳が、勝利の喜びを隠すことなく輝いていた。
くそっ
僕は心の中で悪態を吐いた。
こんなときでも僕はこの瞳に目を奪われる。
どこまで彼女に惚れているのかと、気が付けば笑い出していた。
お読み下さりありがとうございました。
この話は「恋の締め切りには注意しましょう」のスピンオフともなっています。ですが、できる限り独立した話としても成り立つよう書いていく所存です。
お付き合いを頂ければ幸いです。




