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48.一念通天(2月2日夫婦の日記念)

登場人物:香梅、雨仔

 ここ数日、夫君が何かもの言いたげな顔をしていた。


 はっきり言えば良いものを。そう思いながらも、香梅(シャンメイ)は男に問いかけることはない。自分の願いを滅多に口にすることのない男は、もう少しその点において積極的になるべきだと女は常々考えている。あえて放置することにした。


 だがしかしである。こうまで時間がかかると、さすがに面倒臭くなってきた。香梅(シャンメイ)が背を向けている間は、じっと切なげにこちらを見つめているにも関わらず、ちらりと視線を向けた時にはそっぽを向いている。気配だけは敏感に察知するらしい。そして、今初めて女の視線に気がついたような顔をして小さく微笑むばかりである。


 女は苛々と爪を噛む。妓女時代からの悪い癖だ。せっかく塗った爪紅がみっともなくはげてしまった。思わず舌打ちをすれば、男の肩がびくりと震える。ええい、鬱陶しい。こうなれば一体あの男が何を言い出せずにいるのか、直接聞いてみるまでだ。


「一体、何だというの。鬱陶しいから、言いたいことがあるならさっさと言いなさいよ」


 女が啖呵を切れば、男が心底申し訳なさそうな顔をした。その顔が香梅(シャンメイ)は嫌いなのだ。もっと自信を持って、堂々としていれば良いものを。自分はもっとこの男を甘やかしてやりたいのだ。そう思い当たって、女は小さく鼻を鳴らした。


「手料理を食べてみたいなと思いまして」


 女は首を傾げる。急に何を言うのだろう。東国の女も、西国の女も、身分が高くなればなるほど自分で料理を作ることはない。この屋敷にも専門の料理人が何人もいる。皆、宰相に仕えるに相応しい腕の持ち主だ。兄嫁たちが自ら料理を作ると聞いて、高貴な人間の考えることはわからぬと思ったもの。先日東国から文が届いていたが、兄弟から惚気話でも聞いたのだろうか。


「楼主殿から、香梅(シャンメイ)殿の柏餅が久しぶりに食べたいと言われたのです。お上手なのですかと伺いましたら、食べたことはないのかと笑われまして。以前に食された手料理の数々を聞いておりましたら、我慢ができなくなりました」


 情報源はまさかの楼主。どこか気恥ずかしそうに言われれば、女とて悪い気はしない。それにあの男も人が悪い。夫君が羨ましがるのをわかっていて、女の手料理の話題を振ったに違いないのだから。


「どうせ爪紅もはげちゃったし、爪を切るの。ちょうど良いから、ついでに料理も作ってあげるわ」


 もっと可愛らしい物言いができぬものかと自分でも思う。こんな捻くれた自分だけれど、それでも男は嬉しそうに満面の笑みを浮かべるのだ。ああ、やっぱり絆されているなあと女は笑う。包子(バオズ)が蒸しあがるの待つ間、男が無心に蒸篭の前で待っているのを見ても、可愛いと思ってしまうのだから。


 その顔を見ていれば、もう少し頻繁に料理をしてやっても悪くはないと女は思う。例え、食事の後の甘味として女が食されることになったとしても、まあ仕方がないと思う程度には、既に夫君に甘い女なのであった。


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