第5話 エルヴィスの父親は……
読んでくださりありがとうございます。エルヴィスの父親はいったいどんな人物なのでしょうか。
「……何をだい?」
「僕の父親についてさ」
「……気にならないと言えば嘘になるが、エルヴィスが言いたく無いのなら俺らも詳しくは聞かないさ」
「そうか。……夜までまだ時間がある。君たちちょっと僕の家まで来てくれないか?」
そう言ってエルヴィスはまたゆっくりと歩き始めた。なぜエルヴィスは2人を家に招くのか。その答えは曖昧ではっきりとは分からない。……ただこの話の流れから考えるにエルヴィスは2人に自分の父親のことを話そうとしてくれているのではないかと2人は思ったのだ。それならばついて行かない理由はない。2人ともエルヴィスに続いてゆっくりと歩き始めた。
それからエルヴィスの家までの間マシューもレイモンドも、そしてもちろんエルヴィスも一言も発することなくただ歩いていた。だが不思議と先程よりも空気が軽いのだ。それはきっとエルヴィスが2人に歩み寄ってくれた故であり、エルヴィスが今抱えている悲しみを2人が何とか出来るのではないかという思い故であろう。
やがて3人はエルヴィスの家の前へたどり着きその足を止めた。そこは帝都の外れに建つ木造の一軒家である。エルヴィスが1人だけで住んでいると知った上で見るとその年季の入った木造の建物はやや違和感がある。この家にも何か事情があるのではとマシューはぼんやりと考えていた。
エルヴィスは鍵を開けて扉を大きく広げると何も言わずまっすぐ屋根裏部屋へ向かっていった。2人も何も言わずにそれについて歩いた。屋根裏部屋に入ってようやくエルヴィスが2人に振り向いたのだ。その表情はどこか辛そうである。
「……正直に言えば、僕は父親のことは話したく無いんだ」
「……だったら無理に話さなくても良いんだぜ?」
「なら話したく無いのが本音だ。……だが、いずれ分かるだろうと言うのもは事実。ならば僕の口から君たちに伝えるべきだと思ってね。……僕の父親の名前はガブリエル・クラーク。神聖の騎士団ユニコーンの騎士団長だよ」
「……騎士団長⁉︎」
マシューもレイモンドも同じタイミングで驚きの声を上げた。そしてこれまた同時に困惑の表情を浮かべたのである。
今までの話からエルヴィスの父親は騎士団に関わる人もしくは騎士団に所属している人であろうという予想はある程度ついていた。だが騎士団長ほどの大物が出てくるとは思わなかったのである。
そして名前に家名がついていると言うことはかなり地位が高い人物なのだろう。騎士団長となれば尚更である。そして父親の地位が高いと言うことはエルヴィス自身も地位が高いはずだ。……だが、ここで疑問が生まれるのだ。その疑問への答えが浮かばずに2人とも困惑の表情を浮かべているのだ。
「……エルヴィス、それのどこに隠す要素があるんだ? 聞く限りだと隠したいことのようには聞こえなかったぜ?」
「俺もそう思う。……それに父親に家名があるのならエルヴィスにだってあるはずだ。だが、自己紹介された時に家名は何ひとつ聞いてない。それはどうしてなんだい?」
「……ちょっと待ってくれ。そんなに聞かれても一度には答えきれない。1つずつゆっくりその疑問に答えていくからちょっと待ってくれるか」
矢継ぎ早に聞かれる質問にエルヴィスは両手でそれを制止した。エルヴィスは困惑と焦りと苦しみ、そしてほんの少しの喜びを含んだ複雑な表情をしていた。それが何を意味しているのか、マシューには分からなかった。
「……君たちの質問に答える前に僕からひとつ質問をしてもいいかい?」
「……なんだ?」
「……僕の父親が神聖の騎士団の騎士団長だということを疑わないのは何故だい?」
「疑う? どうして?」
レイモンドはこの部屋に来て最大の困惑を覚えていた。疑うという選択肢が無かったからである。それはエルヴィスの言うことを信じている証であり、レイモンドの目からそれがエルヴィスに伝わって来たのだ。エルヴィスの表情は相変わらず複雑だったが喜びの気持ちが少し強くなっているようにマシューには見えた。
「……ありがとう。……それじゃあ質問に答えていこうか。まず、マシューの質問から答えようか。マシューは僕の家名が無いことが知りたいんだね?」
「……ん?……そうなるの……かな?」
「その質問への答えは簡単だよ。それは僕がクラーク家から追放されているからだよ。だから僕には家名が無いのさ」
追放。
それは家名を持てるだけの有力な家の出身である人物が家名を名乗ることを剥奪されたことを意味し、家名を持つものとして一番の恥である。エルヴィスが自分の父親のことを隠したいと思う理由には充分過ぎる。
だが当のエルヴィスはそれを大したことではないという風にあっさりと言葉にしたのだ。ならばその理由は更に根深いものであろう。人知れずマシューは息を整えていた。
「追放……。いったい何をすれば追放されるんだ?」
「……少し昔の話をしようか。クラーク家は代々神聖の騎士団の騎士団長を務める家でね。僕と6つ上の兄は小さい頃から日夜訓練に励んでいた。……だが僕には騎士団長になれるだけの才能は無かったのさ。才能溢れる兄との差は驚くほど呆気なく差がついた。でも僕はそれをあまり気にしていなかった。兄は騎士団長になるべき立派な人だったからね」
「……だった?」
「あぁ、……立派な人だったよ。時が経てば騎士団長になるべき立派な人物だった。……だがある時その運命が狂ってしまったのさ。僕が10歳の頃のある日、兄が突然自殺したことでね。精神が壊れたかのような遺書が横にはおかれていたよ」




