第21話 《幸運》のちから
読んでくださりありがとうございます。果たして【解呪】を無事に習得できるのでしょうか。
そう言ってエルヴィスは収納袋から分厚い本を取り出すと床の上に置いた。表紙には中級回復魔法と記されている。3人が古代樹の空洞で手に入れた中級回復魔法が覚えられる本である。これを使って【解呪】を習得すること。それがエルヴィスの切なる願いである。
「……なんか緊張して来るな。これで習得出来る魔法は【解呪】の他には何があるんだ?」
「【解呪】の他には、【範囲回復】、【大回復】、【自己治癒】、……あとは【回復地点】かな」
「5種類かぁ……。確率で言うと5分の1。……まあ、引き当てられない程低確率では無いか」
エルヴィスによれば習得出来る中級回復魔法は全部で5種類。3人のうち誰かがその5種類の中から【解呪】を習得出来れば目的は果たせるのだ。……だがエルヴィスは少しばかり渋い表情を浮かべていた。
「単純に計算すればそうなるんだけどね。……習得する魔法には偏りがあると言う噂もあるんだ。つまり3人とも【大回復】を習得するパターンも有り得ない訳じゃない。……だから【解呪】を習得出来るかは運だね」
「……なるほど、それで俺たちに頼んできたって訳だな。それで? 誰からこれを開くんだ?」
当然のことだがどの順番で回復魔法を習得するかも重要である。最初の1人で【解呪】を習得してしまえば他の2人の結果はどうだっていい。逆に2人が違う魔法を習得して最後の1人に託すことになる可能性もある。運命を託すと言う意味でも順番を決めるのは重要なことなのだ。
3人が話し合った結果、レイモンド、エルヴィス、マシューの順番で本を開くことに決まった。つまり先陣を切るのはレイモンドである。少し緊張しているのか硬い表情でレイモンドは静かに本を手に取った。
「……ふぅ、それじゃあいくぜ」
レイモンドは真ん中あたりで本を開いた。開いたページには【大回復】と記されていた。レイモンドがそれを視認した瞬間文字が浮かび上がったかと思うと頭に吸い寄せられるかのように入り込んだ。これで【大回復】の習得が完了したのである。
「……どうだった?」
「……残念ながら【解呪】じゃなかった。俺が習得したのは【大回復】だな」
「うーん、やはり偏りがあるんだろうか。……たった3人で【解呪】の習得は厳しいのかもしれない」
「そんなものやってみなきゃ分からないだろう? ほら次はエルヴィスの番だぜ」
早くも悲観的になっているエルヴィスは表情がやや青くなっていた。レイモンドが習得出来なかったことで確率が下がっているのだ。人数が減ればそれだけかかる重圧も増える。エルヴィスは1つ息を吐くとやや不安そうになりながらページをめくった。
「……はぁ、【範囲回復】……か。確かに有用な回復魔法ではあるけども、……正直嬉しくないな」
そう言ってエルヴィスはうつむきため息をついた。そもそも中級回復魔法が覚えられるこの本は貴重な本である。そのため習得出来る魔法は全て有用な代物なのだ。
だが3人がなぜ古代樹の空洞を攻略してまでこの本を求めたかと言うのは【解呪】の習得を求めた故である。例えどれほど有用な魔法を習得出来たとしても【解呪】の習得には敵わないのだ。
「……あとは俺だけか」
「頼むぞ、……マシュー」
最初からこうなる気はしていたのだ。マシューは出来ることなら最初に習得してしまって、レイモンドやエルヴィスに託したかったのである。だが、3人の中で一番幸運なのはマシューであり、そんなマシューが最後に習得するのは必然と言える。
覚悟を決めたマシューはエルヴィスから本を受け取ると1つ息を吐き、指でページをなぞった。そして何となく指が止まった場所で本を開いた。その行動には何の意味も無い。ただ何となくそれが正しいように感じたのだ。
マシューは開いたページに記された文字を視認した。たった 2文字がそれによって浮かび上がり吸い寄せられるかのようにマシューの頭に入り込んだ。
少しの間をおいてマシューは自分が習得した魔法が何であるかを脳で理解した。そして無意識のうちに拳が強く握られた。その拳を見た1人は思わず飛び上がって笑い、もう1人はただ座ったまま口を開けていた。そんな2人を見てマシューは小さく笑ってこう言ったのだ。
「【解呪】を、……【解呪】を習得出来たよ!」




