第28話 このままでは手に入らない
読んでくださりありがとうございます。《正義》の象徴が見つかりました。
「これは……」
マシューの目の前には今にも動き出さんばかりの迫力を放つ巨大な竜の銅像があり、それに囲まれるようにして立派な剣がひとつ設置されていた。そしてそれらは全て台座の上にあるのだ。恐らくこれが試練の台座だと考えて間違いないだろう。
「案外階層は浅かったか。外観からすればもっと高い建物のように見えたがな」
振り返ると涼しい表情でこちらへ近づいてくるレイモンドの姿があったのである。他の3人も既に階段を登り終えたようで螺旋階段の終着点で息を整えているのか見えた。
「この階層は明らかに他の階層と雰囲気が違う。だから一番高い階層の可能性は高い。……と言っても違いはこの像があるかどうかだけどね」
「一番高い階層らしいと言えばらしいけどな。……原寸大かどうかまでは分からないが、この像は霊竜ウタカタの像であると考えて間違いない。少なくともこの像は図鑑の描写と一致するからな」
マシューとレイモンドは思い思いに自分の考察を口に出している。あくまでも考察であり真意のほどは分からないがそれなりに信憑性はあるだろう。あとは息を整えたニコラがそれを肯定してくれるかどうかである。
少し待つとようやく息が整ったようで3人とも像の近くまで近づいて来た。ニコラは腕を組みながら像をじっと見つめ、エルヴィスは全体を満遍なく見つめている。そしてエレナは中心にある剣をじっと見つめていた。
「……間違いない。これは霊竜ウタカタの銅像だ。そして中心にあるのは《正義》の象徴、聖剣クラウ・ソラス。最後の《七つの秘宝》だよ」
「それじゃあこれを手に入れれば全ての《七つの秘宝》が手に入るってことだな」
レイモンドは声のトーンが一段上がっている。レイモンドはマシューをずっと一番近くで見ていたのだ。感慨深いものがあるのだろう。
しかし反対にマシューは少しうつむき渋い表情である。今までの《七つの秘宝》にはそれを守る存在やそれを手に入れるための試練が存在していた。しかし見渡せどここにはこれを守る存在も手に入れるための試練も無さそうである。それ故に目の前にある《正義》の象徴が本物であるか不安に思っているのだ。
「……一応試練の台座には乗っているが、何か試練の類いはあるのだろうか」
「……無さそうだぞ?」
「試練の台座に乗っているのにそんなことはあるんだろうか。……俺が心配しすぎているだけなのか? ……それに」
「それに?」
「そもそもこの状態でこの剣は果たして引き抜けるんだろうか」
マシューのその言葉にレイモンドもニコラも唸った。聖剣クラウ・ソラスは台座を貫くようにしてその中心に突き刺さっている。そしてそれを囲うようにして霊竜ウタカタの銅像があるのだ。霊竜ウタカタの銅像は大きく、その銅像の胴の下に聖剣クラウ・ソラスはある。つまり単純に上から引き抜くことは位置関係上難しいだろう。
言い換えればこの像を何とかしない限りは聖剣クラウ・ソラスは手に入らないという訳だ。だが、その方法は見当もつかない。いったいどうすれば良いのだろうか。
「恐らくこのままでは《正義》の象徴は手に入らない。……だがいったい何をすれば」
「……確証は無いけど、やらなきゃいけないことならここに書いてあると思うよ」
「ここ?」
エレナの声にマシューは思わず顔を上げた。エレナは先程から熱心に聖剣クラウ・ソラスを観察していた。それ故に台座に刻まれていた文字に気が付いたのだろう。
少し誇らしげに指差すその先には確かに文字のようなものが刻まれているように見える。そしてそれは地下室で見たイーロ文字と同じものと考えて良さそうである。
「……これもイーロ文字なのか? ちなみにエレナはこれも読めるのか?」
「もちろん。……『スベテノシレンヲノリコエシユウキアルモノヨ。ソノフエノネヲワレニキカセン』。ここにはそう刻まれているわ」
「『全ての試練を乗り越えし勇気あるものよ。その笛の音を我に聴かせん』……か。つまり俺がこの場所で天空の竜笛を吹けば良いということか」
マシューは天空の竜笛を取り出し吹き始めた。心のまま吹くその音はやはり不思議と何かの旋律のように聞こえる。心地良いその調べは聞いているレイモンドたちの心を落ち着かせていった。
そして霊竜ウタカタもまたそれを聞いていた。銅像の目に光が宿る。薄い青銅が徐々に剥がれ落ちその中にある神々しい輝きが辺りに漏れる。マシューが天空の竜笛を吹き終わったその時、霊竜ウタカタは完全にその姿を現していた。
「全ての試練を乗り越えたものだけが奏でることの出来る調べ。それで私の封印は部分的に解かれる。……良き調べだ」
目の前の竜は静かにそう語り始めた。低く響くその声は威厳を感じ目の前にいる竜が霊竜ウタカタであることをマシューたちにありありと示していた。……しかし封印とはどういうことだろうか。




