第10話 書庫を良く知るもの
読んでくださりありがとうございます。マシューたちは天空の竜笛の手がかりを探しています。
「……天空の竜笛の竜笛は確か霊竜ウタカタの棲む城へ行くために吹く必要のある笛……だったか。でもエルヴィスはそう言う話がしたいんじゃないよな?」
「あぁ。僕が言っているのは形状とか大きさの話だよ。それが分かれば保管場所の当たりもつけやすいんじゃないかな?」
マシューたちが知っている情報は天空の竜笛を使うことで得られる効果であり、それ自体について何も知らない。天空の竜笛自体を知ることが帝都のどこに保管されているのかの手がかりになるのでは無いか。エルヴィスが言いたいことはつまりそういうことである。
「なるほど、確かにエルヴィスの言う通りかもしれないな」
「ちなみにニコラはその天空の竜笛を見たことは……?」
「無い。残念ながらね」
ニコラのそのきっぱりとした返事にマシューたちは肩を落とした。マシューたちの中で一番天空の竜笛を知っている人間はニコラである。そんな彼ですら見たことが無いのだ。ならば他の誰もそれ自体のことは知らないだろう。一応ポールに視線を向けたが何の反応も示さない。……知らないのだろう。
「……その情報が手がかりになるかは分からないが、見たことがあるかという話をするなら私よりも適任がいる」
「深緑の騎士団騎士団長のニコラよりも適任がいるのか? ……誰?」
「あぁ。神聖の騎士団に聖騎士として所属して、騎士人生の大半を書庫の警護で過ごした人物だ。……君たちもそう言われれば心当たりがあるだろう?」
神聖の騎士団に聖騎士として所属して、騎士人生の大半を書庫の警護で過ごした人物。他にもそうした人物は少なからずいるだろうがマシューたちが知っている人となると一気にそれは限られてくる。マシューはこの場所へ案内してくれた聖騎士の顔を思い出していた。
「……エリックか」
「そう、彼だ。今のところ天空の竜笛がある場所の候補は宮殿か書庫の2択。長く書庫の警護をしてきたエリックなら天空の竜笛のことを知っていてもおかしくはない。……聞いてみる価値は大いにあるだろう」
「……なるほど。それで私がここに呼ばれたのですね」
まさか中に呼ばれるとは思っていなかったのだろう。マシューたちをこの場所へ案内してから再び元の位置へ戻っていたエリックはポールによって呼び出され簡単に説明を受けたのだ。
「……さて、エリック。君は天空の竜笛について知っているか?」
「……残念ながら天空の竜笛は見たことも聞いたこともありません」
エリックのその言葉にマシューたちは一様に顔を伏せた。良い案だとは思ったがどうやら空振りらしい。そう全員が思った次の瞬間エリックが続けて口を開いた。まだ話は続いているらしい。
「……ですが、心当たりが無い訳でもありません」
「……と言うと?」
「話を聞く限りその天空の竜笛とやらはかなり貴重なものなのでしょう。それならば恐らく保管場所はかなり厳重なものになっているに違いありません。……書庫には閉架スペースと呼ばれる場所がありまして」
「閉架スペース?」
「貴重な資料を保存するための倉庫のようなものですよ。中身の資料が貴重な分閲覧も制限されていまして、手続きを踏まない限り閲覧することが出来ない場所なのですよ。……そして警護の際決して近寄るなときつく言われていた地下へと続く階段がその閉架スペースにはありましてね」
エリックの言葉にマシューたちは全員顔を上げて集中して聞き入っていた。話を聞く限りかなり重要な手がかりのように思える。閲覧するのに手続きが必要な場所から繋がる地下空間。どう考えてもその場所は書庫の中で最も厳重な警護がなされている場所であり、天空の竜笛が保管されていてもおかしくは無いだろう。
「私の知っている情報で天空の竜笛に関連していそうなものはそれくらいです」
「恐らくかなり重要な手がかりだろう。ありがとう、下がってくれたまえ」
エリックは軽く一礼をして出ていった。その姿を見届けていたニコラの表情は明らかに先程よりも明るくなっていた。
「……地下へと続く階段……か」
マシューは独り言のようにそう呟いていた。声に出していないだけでこの家の中にいる全ての人間が同じことを考え頭から離れないでいたのだ。閲覧が制限された閉架スペースから地下へと続く階段。その響きは何かが待ち受けていると思うには充分過ぎており、マシューたちの関心は完全にその場所へと移っていた。
「今のところは書庫に天空の竜笛がありそうだと言える。……かなりリスクは高いがな」
「……罠がありそう」
ニコラの言葉に思わずエレナはそう漏らした。エリックの話はあくまでも書庫に厳重な警護がなされている場所があるという話であり、書庫に天空の竜笛が保管されていると断定している訳では無い。もしその場所に保管されていなければマシューたちは逃げ場の無い空間に逃げ込む格好になり非常に危険なのだ。それ故に簡単に決断は出来ないのだ。
「あぁ、罠が仕掛けられている可能性もある。……その場所に行くとすれば何らかの形でその場から脱出する手段を持っておく必要がある。……これを使うとしよう」
そう言うとニコラは自分の収納袋から少し大きめの青い魔水晶を取り出した。いったい何の魔法がそれで発動されるのだろうか。




