第34話 相応の覚悟を
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腹を貫かれたガブリエルはその場を動けずにいた。余裕であったはずだ。退路を断ち相手を追い込んでからゆっくりとなぶるようにじわじわと追い詰める。それがガブリエルの戦闘スタイルである。自分の戦闘スタイルに自信を持っていた故にガブリエルは今の自分の状況が上手く掴めなかったのだ。
「……ぐっ、力が入らない。どういうことだ! まさか私の姿が見えていたとでも言うのか⁈」
「その通りだよ。俺にはあんたが武器を持って構えるまでしっかりと見えていたのさ」
そう言うレイモンドの手にある剣の柄にはキラリと光る小さな魔水晶があった。この魔水晶で発動出来る魔法は【魔法解除】。この魔水晶を発動させることでレイモンドは消えたガブリエルの姿を追うことが出来たのである。
「……この剣は特別製でね。アンガスが俺に託したものだ。……柄に触れている間だけ魔水晶に込められた魔法を発動することが出来る。この魔水晶に込められた魔法は【魔法解除】。対象は見たことがある魔法に限られる上に解除可能な魔法は一つのみと言う制限はあるが、お前を出し抜くには充分だったようだな。……マシュー! トドメは頼んだ」
レイモンドはマシューにトドメを委ねた。レイモンドは今剣の柄を握りしめて離さないでいる。もしこの剣から手を離したならば恐らくガブリエルは剣が刺さったまま【認識阻害】を発動させるだろう。それを防ぐためにもレイモンドは今手が離せないのである。
「……」
マシューは無言で手にしたウェイトソードを振りかぶり、ガブリエルの甲冑の隙間に狙いを定め斜めに斬りつけた。金属の壊れる感触と肉を斬る時特有の手ごたえをマシューは感じていた。
「……まだだ!」
例え腹を貫かれていようとも、たった一度の袈裟斬りでガブリエルが絶命することは無い。動こうともしないガブリエルに追撃を喰らわせようとマシューは再びウェイトソードを振りかぶった。
その瞬間、ゲートタウンからけたましい音量のサイレンが響いた。あまりの音量に思わずマシューは振りかぶったまま静止してしまったのだ。いったい何のサイレンなのだろうか。
「……私がただで死ぬと思うか? 騎士団長の命を取ると言うことはそれ相応の覚悟を背負う必要がある」
「……どういう意味だ」
「今鳴ったサイレンは私の身に何かが起こった時に自動で発動する仕掛けでね。これで例え私が動けない状態だとしても帝都に伝えることが出来る。……そして、君たちの情報は我が騎士団が把握している。最早逃げ場はどこにも無い。帝都中の聖騎士から追われる恐怖を知るがいい!」
そう言うガブリエルの表情は人が変わったかのように憎悪に塗れたおぞましいものであった。確かにマシューたちはこの男を追い込んだはずである。それなのになぜだか自分たちの方が追い込まれているかのような錯覚をマシューたち全員が感じていた。これが神聖の騎士団騎士団長の凄みなのだろうか。
「……そしてこの命は君たちにくれてやる程安いものでも無いのだよ。生殺与奪の権利はいつだって私が持つ!」
そう言うとガブリエルはおぞましい笑みを浮かべ口の中の何かを思い切り噛みちぎった。ガブリエルの口からドロドロの血が溢れ出てくる。どうやら舌を噛み切ったようだ。
ガブリエルは口の中で溢れる血を思い切り上に吹き出して自分の血を思い切り顔に被った。飛び散る血はマシューとレイモンドにもかかって来る。やがてガブリエルは腕をだらんと下ろし膝を折った。その姿から正気は微塵も感じられない。
レイモンドはそれを見て貫いた剣を引き抜いた。ガブリエルだったものは力無く顔から崩れ落ちた。それを見ながらマシューはゆっくりと武器の構えを解いた。
「……死んだ……ようだね」
「あぁ、そうみたいだな」
「……最後に言ったことは本当なのだろうか」
「さあな。……俺にはさっぱり分からない」
マシューはこれからのことを考えると頭が痛くなりそうだった。騎士団長が立ちはだかるとは思っていなかった。この状況を打破するためにはこうする以外の選択肢が見つからない。……だが、どこか間違っていたように思えてならないのだ。
「なぁ、マシュー。俺たちこれからどうすれば良いんだ?」
「……撤退しよう。その後で考えても遅くは無いはずだよ」
マシューはそう言って静かに紅玉の祠へ向かって歩き始めた。3人も無言でそれに続く。全員の頭の中はこれからどうするべきかでいっぱいであった。
それ故にマシューたちは気付かなかったのだ。血に塗れその場に崩れ落ちている死体の顔はまるっきり別人に変わっていたのである。そのことを知らぬまま4人はひっそりとその場を後にしたのだ。
これにて第5章が終了となり、次回より第6章が始まります。これからも楽しんでいただけると嬉しいです。




