第29話 無実の罪
読んでくださりありがとうございます。この大臣……。いやな予感がします。
「……左様でございます」
静まり返った部屋の中でカルヴィンのその声が不気味に響いていた。やはり何か仕掛けては来ると思っていたが、こうも正面から対抗して来るとはアレックスも思っていなかった。
結論から言えばカルヴィンの話はデタラメも良いところである。ウォルトンはビアンカを脅してアレックスを暗殺させようとした張本人であり、投獄されたのもそれが理由である。それは投獄させたアレックスが一番知っているのだ。
だが王様からすればどうだろうか。王様からすればカルヴィンの話が初めて聞く話である。もしカルヴィンの話を信じてしまった場合例え真実であろうともアレックスの話が無碍にされる可能性が出て来るのだ。
そしてアレックス側が出せる証拠はビアンカが脅されていたという事実なのだが、特に文書等には残っておらずビアンカが言っているだけのことである。証拠としては少しばかり弱いのだ。
……もしこの状態で、アレックスはビアンカの罪を庇いウォルトンに罪を被せたのだとカルヴィンが主張してきたならばどうだろうか。そうなれば事態は逆転してしまう。本来証拠になるはずなのに自分の首を絞める結果になってしまうのだ。故に言葉選びは慎重にしなければならない。
「……アレックス。この話について言いたいことはあるかの?」
「……ウォルトンは昨日の深夜に私を暗殺しようと企てておりました。故に投獄したのであり、無実の罪ではありません」
「いいえ、王子の言うことはデタラメでございます。牢獄では無実の罪を訴えるウォルトンの悲痛な叫びが聞こえておりました」
アレックスの言葉にすぐさまカルヴィンはそう応戦して来たのだ。間違いなくカルヴィンは投獄されたウォルトンを助けるために行動しているのだ。ウォルトンが投獄されていては色々と都合が悪いのだろうがアレックスからすればカルヴィンに好き勝手に主張されるわけにはいかない。だがカルヴィンはさらに畳みかけるように口を開いたのだ。
「……それに王様。私は無実の罪を叫ぶウォルトンから恐ろしいことを聞きました。王子暗殺自体は本当のことだが、実行犯は騎士隊隊長ビアンカであると。ですがそれを知った上で王子は奴を庇っておるのです。どうか無実の罪のウォルトンを釈放し、罪を被せた騎士隊隊長および王子に厳正な処罰をお願いいたします」
「何をデタラメをっ! 副隊長はここにいるビアンカを脅して……」
「……もう良い」
静かな低い声が辺りに響いた。声の主は王様である。かつての王様から聞いたこともない低い声にアレックスとカルヴィンは思わず黙り込んでしまった。こうなれば何も言うことが出来ない。カルヴィンの主張は恐らく全て言い終わっていただろうがアレックスはまだ言い足りないことでいっぱいである。状況は限りなく向かい風であった。
「……昔似たようなことがあった。私は判断を間違い無実の罪を着せてしまったのじゃ。着せてしまったものをどうすることも出来ず今に至る。……それを私は後悔してあるのじゃよ。そしてそれが無実の罪であることに気が付いた時から私は、……もう二度とそんなことはしまいと誓ったのじゃ」
静かに王様はそう語り始めた。王様の言う昔とはいつの話なのだろうか。それが分からないアレックスは何とも言えない表情であった。逆に無実の罪を着せたことを後悔していると分かったカルヴィンは自分の勝利を確信したのだろう。首を僅かに上下に動かしていた。
「……つまり王様はウォルトンを釈放し、王子とビアンカに厳しい処罰をなさるのですね?」
「そうではない」
「…………は?」
したり顔で王様に聞いたカルヴィンは王様のその返答に思わず声が漏れた。慌てて口を塞いだが困惑した表情は隠しきれない。そしてアレックスとビアンカもまた困惑の表情を浮かべていたのだ。
「……アレックス。なぜウォルトンを投獄したか教えてくれるか?」
「……確かに大臣の言うように昨日の深夜私の部屋にビアンカが刃物を持って現れました。しかしその場には勇者候補であるマシューがいましたので私は殺されずに済んだのです。……この状況であれば投獄すべきはビアンカですが、私はビアンカが祖母であるシャーロットの命を盾に脅されていることを知っておりましたのでその後部屋までやって来たウォルトンを捕らえ投獄しました」
「……そうか、賢明な判断だ」
「……王様。先程手渡しました手紙を見ていただけますか?」
王様に否定されてからほとんど声を出していなかったカルヴィンだったが不意に口を開きそう言ったのだ。アレックスはその手紙の存在を知らない。故にその中に何が入っているのか全く見当もつかないのだ。……だが嫌な予感がすることは間違いない。アレックス側に風が吹いているにも関わらずそれを出して来たのだ。何かあるに違いない。
「……この紙か?」
「左様でございます。その中にはウォルトンが投獄されながらにして書いた手紙が入っております。私の話が決して間違っていないことがそれを見れば分かるはずです」
「……ほう?」
心がざわつくのをアレックスは感じていた。やはりただでは終わらないとは思っていた。王様が持つ手紙には何が書かれているのだろうか。だがそこには自分にとって都合が悪いことが書かれていると見て間違いないだろう。こちらも何か手を打ちたいところだがあいにくアレックスたちには挽回する手は無かった。
王様は手にした手紙を近くのテーブルに置いた。読まないのだろうか。部屋の中にいる全員がそう思った次の瞬間王様はどこからか紙切れのようなものを取り出したのだ。手紙のようにも見えるそれが何なのか、それはこの場にいる誰も知らなかったのである。




