表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マシューと《七つの秘宝》  作者: ブラック・ペッパー
第4章 隠された自由を求めて
142/234

第16話 騎士隊は忙しい

 読んでくださりありがとうございます。監視は分担して行うようです。


「……分担。つまり、王子の部屋とアクィラとの境界の監視を交代でやると言う意味だな」


「あぁ、そういうことだ」


「ならアクィラとの境界を先に見させてもらおうかな」


 ビアンカの分担の申し出にマシューは快く応え、最初にアクィラとの境界の監視を買って出たのである。ビアンカはそれに頷いてアレックスの部屋の方に顔を向けた。どうやらマシューの希望通りの順番に決まったようだ。


 マシューは心を無にしながらアクィラとの境界をじっと見つめていた。今自分が座っている床が崩れて落ちたらどうなるだろうか。決してそんなことは起きないのだが、マシューはそんなことばかり考えてしまっていた。


 今まで経験が無かった故に自覚していなかったのだが、マシューは高いところがどうやら苦手のようである。


 それではなぜ先にアクィラとの境界の監視を買って出たのか。それはもちろん交代するからである。どうせどこかのタイミングでやらなければならないのならば、せめて暗い夜は避けよう。そういう考えでマシューは買って出たのである。


 いずれ交代するのだから今は我慢だ。ゆっくりと沈みゆく夕日を横目にマシューは心を無にして境界を見つめていた。ゆっくりと時間は過ぎていった。何の動きも見られないまま夕日は完全に落ち、ルシャブランに暗い夜が訪れたのである。そろそろ腹が減ってくる時間。すなわちビアンカと役割を交代する時間である。


「……隊長、副隊長より伝言がございます」


 交代を待ちわびるマシューの耳にそんな単語が聞こえて来た。どうやら騎士隊は伝言の頻度が多いらしい。副隊長はウォルトンであり、今はアレックスの警護中のはずである。つまりウォルトンはアレックスの警護をしながらビアンカに伝言を寄越したのである。状況が上手く掴めずマシューは少し首を傾げた。


「……まったく私にも監視の役割があると言うのに」


 そんなビアンカの呟きが後ろから聞こえて来た。嫌な予感がする。マシューは背中に神経を集中させた。予感が当たっていればビアンカは自分に近づいて来るはずだ。出来ればそれは避けてもらいたいところである。


 しかし残念ながらビアンカはゆっくりとマシューのもとへ近づいて来たのだ。その気配を感じ取ったマシューは観念して後ろを振り返った。もちろん目の前にはビアンカがいるのである。


「……申し訳ない。騎士隊で緊急の案件が発生したようだ。今から私はすぐにその場所へ向かわねばならない。……恐らく次の交代の時間までには戻ることが出来ると思う」


 そう言うビアンカの顔は申し訳なさそうであった。ビアンカは騎士隊を率いる立場でありこうした不足の事態は皆無では無いだろう。先程感じた嫌な予感はどうやら当たっているようである。


「……分かった。だが監視はどうするんだ? ビアンカがここを離れるなら両方の監視は難しいぞ?」


「私が隊長の代わりに監視の役割を果たします」


 返答したのはビアンカではなく伝言が書かれた紙を持って来た若い猫である。武装しているところを見ると彼も騎士隊のメンバーであることはマシューにも分かった。


「……よし、それじゃあ君に今から交代の時間まで王子の部屋を監視してもらおう。恐らく何も無いと思うが些細な出来事も見流さないよう集中して監視に取り掛かるのだ」


 ビアンカが代わりに監視の役割を担う騎士に指示を飛ばしている。この状況でその役割は自分が担うから君はアクィラとの境界を見てくれ、と言い出せる雰囲気は無かった。そしてビアンカは忙しなく準備を済ませてどこかへ去っていったのである。


「……諦めるか」


 マシューはため息をつきながら誰に聞こえるでも無い声の大きさでそう呟いた。こんなことなら最初に王子の部屋の監視を買って出れば良かったとさえ思える。


 恐らくビアンカはこの場所には戻って来ないだろう。戻って来るとすれば交代の時間だとビアンカは言っていた。それはつまり監視の時間に戻って来ないことを意味しており、結局マシューはアクィラとの境界を見ることに全ての監視の時間を割くことになったのである。


 そして交代の時間がやって来た。予想通りビアンカは戻って来なかったのである。最早戻って来ないと確信していたマシューは逆に覚悟が決まったのだろうか。前半よりも集中して監視の役割を果たせたのである。もっとも集中しようがしまいが得られた結果は何の動きも無かったという結果なのだが。


「……あれ? ビアンカはいないのか?」


 マシューの背後からそんな声が聞こえて来た。その声の主はエルヴィスである。少し眠そうな声なのはさっきまで仮眠室で寝ていたからだろう。


「……残念ながらいない。どこへ行ったのかも知らないね」


「なるほど。……まあ、騎士隊を率いてるともなると色々と忙しいのかもね」


 そう言いながらエルヴィスは肩をすくめてみせた。そしてマシューはにっこり微笑みながらその様子を見ていた。何も知らない人からみれば何でもない仲の良い人間同士のやり取りに見える。実際この場にいた数匹の騎士隊たちは何の疑いも持たなかった。


「(……レイモンドから伝言だ。恐らく動きを見せるなら今日の深夜だ)」


「(……了解)」


 すれ違いざまにマシューとエルヴィスとの間で交わされたやり取りは誰にも気付かれることはなかった。そしてマシューは表情をまったく変えずに、自分に与えられた役割を果たすためアレックスの部屋へひとりで向かったのである。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ