第14話 警護の理由は
読んでくださりありがとうございます。シャーロットの作る料理は絶品です。
そう言いながらシャーロットは小さく切った茹で肉を口へ運んでいた。トンカツを食べているのはマシューだけである。それは猫にとって揚げ物があまり体に良くないためではあるのだが、結果的にマシューだけがそれを楽しんでいることになるのだ。それに気が付いたマシューは少しばかり気まずく思った。
「何、遠慮することは無い。どうせそれを食べたって私たちは美味しさがいまいち分からないんだ。美味しいと思うものがそれを食べれば良いだけのことさ」
そう言ってシャーロットはにっこりと笑ったのである。優しげなその表情は彼女の人柄を表していた。ビアンカもそうした表情を時折見せる。それ故にマシューは改めてシャーロットがビアンカの祖母であることを確信したのである。
マシューがお昼ご飯を食べ終わり一息ついたタイミングでビアンカとシャーロットも食事を終えたようだ。そして食べ終えたビアンカは早々に席を立ったのである。
「残念ながら長居する予定は無いんだ。お昼ご飯も食べたことだし私たちは城に戻ることにするよ」
その言葉に驚いたのはマシューである。交代の時間にはまだ大分時間が残っており今すぐにルシャブラン城に戻る理由は無い。それ故にこの家でゆっくり過ごしてから城に戻るのだと思い込んでいたのだ。だがビアンカはすぐに戻ると口に出しておりその上で既に立ち上がっている。そして首を傾げそうになっているマシューを強く見ていた。その表情は何も言わずに自分に従ってくれと言っているように感じられた。
「……仕方ないね。今日元気そうな顔が見れて良かったよ。……次はいつ帰ってくるんだい?」
「……それは分からない。出来る限り帰って来たいのだが、中々そうもいかないんだよ。……ごめんね」
「……そう。頑張りなさい」
「……ありがとう」
最後のその声は少し息がつまったのか声がひっくり返りそうになっていた。何かあるのかと問いたかったが言い終わるや否やビアンカはさっさと家を出てしまったのである。これでは聞くことは出来ない。城までの道のりが怪しいマシューはビアンカについて行くしかない。シャーロットに軽く礼をしてマシューは慌ててビアンカの後を追うようにビアンカの家を出たのである。
慌てて家を出たマシューはビアンカの姿を探した。幸いビアンカとの距離はそれほど離れておらず小走りですぐに追いつけそうである。早く追いつこうと小走りで進むマシューはビアンカの家の周りを警護する武装した猫たちとすれ違った。そう言えば彼らがどう言う存在なのかをまだビアンカから何も聞いていない。
少ししてマシューはビアンカに追いついたのである。この程度の小走りならば息を切らすことは無い。だがビアンカは横に並んだマシューに気が付くと驚いた表情を見せたのだ。
「……申し訳ない。そなたを置いて出てしまったな」
「気にしていないから大丈夫だよ。……ところでビアンカの家の周りにいた武装した猫について聞いてもいいかい?」
「……私の家の周囲を守る彼らなら騎士隊だよ。私は騎士隊を率いているがためにやることが多く中々家に帰れないのだ。今日のようにご飯に帰ることが出来たのはかなり久しぶりのこと。一人暮らしなら何の制約もないが、私には祖母がいる。祖母の身に何も起こらないように彼らは見張ってくれているのさ」
「……なるほどね。何も起こらないように……か」
「あぁ、そうだ。実際祖母が危険な目に遭ったことは今まで一度も無い。……優秀な騎士たちだよ」
そう言うビアンカの表情は全くの無表情であった。それは何も感じていないからなのか、それとも何か別の感情を隠そうとしているのか。表情だけではマシューには何の判断出来なかった。そんなことを考えているうちに2人は城に到着したのである。城の前に立っていた武装した猫が1匹ビアンカを見つけて近づいて来た。何か用があるのだろうか。
「……隊長、副隊長より伝言がございます」
「伝言か。……マシュー、済まないが先に行っておいてくれないか」
「分かった。……どこにいれば良い?」
「交代にはまだ早いからな。……そうだな、仮眠室で休憩しておいてくれないか」
マシューは城から出た時の記憶を思い返した。仮眠室から城の外へは簡単な道のりだったはずである。これくらいなら案内無しでもたどり着けそうだ。マシューはしっかりと頷いて城の中へ向かって歩き始めた。
……とは言ってもマシューはビアンカたちが何の話をしているか気になるのである。そこでマシューは少しばかり遅めに歩いて話の断片を聞こうとしたのだ。しかしビアンカたちの声はかなり小声でマシューには何にも聞こえなかったのである。聞こえないのは残念だがここで引き返すわけにはいかない。諦めてマシューは記憶をたどりながら仮眠室を目指したのである。
すんなり仮眠室にたどり着いたマシューはベッドの上に座りながら頭の中を整理していた。ビアンカの家の周囲を警護していた武装した猫たちは騎士隊で間違いないだろう。わざわざ騎士隊がビアンカの家を守る理由があるのかはマシューには判断出来ないが、少なくともビアンカが嘘をついていないことは分かる。ビアンカの祖母を守るためというは確かな理由のひとつで間違いない。
結論が出せたマシューだがビアンカが仮眠室に戻ってくる気配はいまだに無い。それならばとマシューは別のことについて考えることにしたのだ。マシューが考えていたのはアレックスの秘密の話である。




