第39話 勝ち筋は掴み取るもの
読んでくださりありがとうございます。マシューは冷静になったようです。
レイモンドの言う通りである。なぜ自分は1人で悩み迷っていたのだろう。この試練が無事に終わったならばその時に打ち明ければ良い。小さく笑った後マシューの表情から迷いは消え去っていた。そんなマシューをマルクはどこか懐かしそうな表情で見ていた。
「……良い友を持ったものだな」
「ああ、……最高の親友だよ」
「迷いが消えた……か。これでようやく始められそうだ。お前の実力はこんなものでは無いだろう? さあ、お前の全力をぶつけて来い!!」
そう言ってマルクは剣を前に構えた。その表情はどこか楽しそうである。そしてそれを見ているマシューもまた小さく笑っていた。そうすることで余計な力が抜け、マシューはこの試練で最も集中力が高まったのである。
マルクが持っている武器はかなり長い。見たところかなり重そうだがマルクは難なく片手でそれを自在に振り回している。そのためマルクからの攻撃はリーチが長くそして的確なのである。そして攻撃は重く受け止めることは不可能と言っていい。
このことから考えるに、こちらから攻めるならば攻撃を受け止めるのではなく回避しながら接近し、最小限の動きで確実に相手にダメージを与えることが大切である。となると大きく重いウェイトソードはあまり適切ではない。マシューはウェイトソードを収納袋に仕舞って代わりにクラウンソードを取り出した。
「……先程の剣よりも軽くしたか。確かにそちらの方が良いのかもしれないが、少し脆そうだ。……壊れても知らんぞ」
「大丈夫。壊しやしないさ」
そう言ってマシューはクラウンソードを構えてマルクへ向けて駆け出した。だが先に構えていたマルクの方が攻撃は早い。マシューの攻撃が届く範囲のギリギリ外のタイミングを狙った薙ぎ払いがマシューを襲う。これをマシューは急ブレーキをかけることでギリギリのところでの回避に成功したのだ。
試練が始まって初めてのまともな回避になるがマシューはそれを喜ぶことなくさらに接近を仕掛ける。武器をクラウンソードへ変えた分近づかなければいけない距離も増えた。マルクはマシューが攻撃を仕掛け始める前に次の攻撃へと動き始めた。マシューは走りながらマルクから目を離さない。
マルクがどういう攻撃を仕掛けてくるのか。散々攻撃を食らったマシューは予想はある程度つけることが出来る。体の動きと今までの動きを照らし合わせマシューはたった一歩だけ横にステップを踏んだ。それだけでマルクが仕掛けてきた斬り上げに回避してみせたのだ。
ギリギリのところで回避に成功したマシューはそのまま流れるように片手でクラウンソードを振った。狙いはマルクの手首である。斬りつけると言うより叩き斬るという表現が似合う攻撃がマルクの手首に炸裂した。
「……やるな」
マルクは反撃をするのではなくマシューと距離を取ることを選択した。試練の祭壇の左奥にマルクが、そして中央にはマシューが立っている。たった2分の間に両者の位置関係がひっくり返ったのだ。
とは言ってもマシューが厳しい状況なのには変わりは無い。相変わらず肩で息をしており、顔色は少し白くなっていた。そろそろ体力の底が見えてきているのだ。勝負を決めるなら早く決めるべきだ。
頭ではそれを分かっていたがマシューの直感が今行くべきではないと警鐘を鳴らしていた。手首にダメージを負わせたことや祭壇の端に追いやられたことからマルクは少しばかり旗色が悪くなっているはずである。だがマルクはなぜか笑みを浮かべているのだ。マシューの直感はそれ故である。
「……何故畳み掛けない?」
「……何か隠しているだろう。今攻撃を仕掛ければ呆気なくやられてしまいそうだ」
「ふふ、……どうやら勘も鋭いようだ。そうだ。今の私はブラッドメイルによって大幅に強化されている。……アイザックから聞いただろう? ここからが本番だよ」
最早隠すつもりは無いらしい。マルクはおぞましい程の威圧感を放った。時の勇者の仲間である戦士マルク。実力は最早常識を外れている。勝つことは到底不可能だと思い知らさせるほどの威圧感をマシューは感じていた。
それでも尚、マシューは走り出した。例え勝ち筋が驚くほど細くともそれを掴み取れば勝ちである。到底不可能と思われても、可能性が少しでも残っている限り掴みに行く価値があるのだ。
マルクは剣を横に構えて薙ぎ払った。剣のスピードは倍速かと思われるほどに早い。それ故に回避が出来ても距離は詰められない。接近しようとした時には既にマルクは次の攻撃の構えが完了しているのだ。
先程と同じくマルクは剣を斬り上げた。この攻撃は横にステップを踏むことで回避出来る。全く同じ流れだがマルクとの距離が違うためマシューの剣はマルクに届かない。
ならばとマシューは左手で思い切りマルクめがけてクラウンソードを投げつけた。それはマルクにとって予想外の攻撃である。だがマルクは冷静に剣を上手く使ってクラウンソードを弾いた。その間マシューは低い姿勢でマルクの正面に潜り込んでいる。そして右手は収納袋に突っ込まれていた。
マシューはこの状況で収納袋からウェイトソードを取り出そうとしているのだ。マルクがそのことに気が付いたのはマシューの収納袋からウェイトソードの煌めきが見えた瞬間である。その煌めきの動きを見逃さないようマルクは瞬きせずに目で追いかけた。
目の前に迫るウェイトソードの鋒を寸前のところでマルクは回避してみせた。これはマルクがウェイトソードの動きを全く見逃さずに反応した証拠である。そしてマルクは笑って一言こう呟いた。
「……お見事」




