第35話 転移先は祭壇
読んでくださりありがとうございます。勇者に関する情報は実は少ないのです。
どうやらマシューとレイモンドの認識が間違っていたようである。確かに思い返してみればエルヴィスは時の勇者様に関する情報はそれほど言っていない。2人に教えてくれていたのは初代勇者など伝承の話ばかりである。2人はそれすら知らなかったためにエルヴィスが物知りだと思っていたのだ。
とはいえ物知りであることはどうやら間違いないらしい。アイザックがエルヴィスを見ながら微笑んで口を開いた。
「誰しも知り得る情報ではあるが知らない者がおることも事実じゃ。お主たちが象徴を手に入れようとしているのならば象徴がどういうものかも把握しておるのかい?」
「……ええと、初代勇者の装備品……?」
「ふむ、やはりそれも知っておったか。そのことを知っている者は限られてくる。……やはりクラーク家なら知っていて当然なのかの?」
「……追放された身なので」
「ふふ、わしなら決して追放はせんがの。……さて、話を戻そう。勇者について機密事項故にこの国にマルクがおることはあまり知られてはならないのじゃ。この国でそのことを知っているのは数人。国王とわし、そしてアンドリューとニコラ、それに祭壇の守衛を務めている者くらいじゃの」
「……なるほど」
「夜霧の森の泉でお主たちに会った時、君たちの目的はマルクにあるのではと考えていた。修羅の国に来る人はそもそも少ないのじゃ。しかもその少ない人の大半は騎士団関係者であることが多い。お主たちのような騎士団関係者では無い人物が尋ねてくることはかなり珍しいことじゃ」
「……それでマルクではないかと?」
マシューのその言葉にアイザックは微笑んだまま無言で頷いた。確かに修羅の国は危険な場所と言われており中々人が寄りつかない場所だろう。そんな場所にマシューたちが行くことは修羅の国側からすればかなり珍しいことであり、目立つ。
そしてそんな人たちがもし機密事項であるマルクのことを知ってやって来たと分かれば修羅の国全体が混乱してしまうだろう。それ故にアイザックはマシューたちをこの永遠に続く道へ連れて行ったのだ。マシューたちはなぜ自分たちがこんな場所に連れて来られたのかをここで理解したのである。
「……さて、次はこの手鏡を使って転移する場所がどこかを説明すれば良いんだな?」
「そうだな。それも説明してもらおう」
「この手鏡で転移出来る場所。それは試練の祭壇と呼ばれる場所じゃ」
「試練の祭壇?」
耳慣れぬ単語に思わずエルヴィスはそのまま聞き返した。どうやら固有名詞のようだがエルヴィスはそれが何を示しているのかを把握していない。それ故にアイザックの説明に首を傾げたのだ。
「……なるほど、あの場所は試練の祭壇と言うのか」
「ふむ、……まるで何度か見たような口ぶりじゃの」
マシューはそれに無言で頷いた。これから転移するであろう試練の祭壇を含めてマシューがそれらしき場所へ行ったのは3回目となる。3回目ともなれば想像するのも容易である。転移すれば恐らく似たような風景が目の前に広がるだろう。
「そこにお主の探す象徴はある。《勇気》の象徴獅子頭の兜。……わしら深緑の騎士団がこの国で守ってきた《七つの秘宝》じゃよ」
「……守ってきた象徴を手に入れてもいいのか?」
「正規の手段で手に入れようとしている者は止めない。これはグリフォーン結成当時から伝わるルールじゃよ。お主にはその資格がある」
そこまで言ってアイザックはマシューに向けて手鏡を差し出した。曇りなきその手鏡には覚悟を決めた男の顔が映っていた。
「質問は答えた。……さて、お主はどうする?」
「……その説明を聞いて転移しない選択は取らないかな。みんなはどうだい?」
マシューは確認を取るために後ろを振り返った。レイモンドにエルヴィス、そしてエレナはただ何も言わずに一度頷いた。それを見てマシューは満足そうに微笑みアイザックの方へ向き直り、そして手鏡に手を伸ばした。
最早慣れてきた感覚がマシューを襲う。数秒後、マシューは目を開けた。目の前には3度目となるマシューの想像通りの風景が広がっていたのだ。
――
試練の祭壇
――
マシューはしばらく試練の祭壇を眺めていた。マシューの目に映るのは数段の石段と石の床で作られた舞台。そしてその舞台の真ん中にただ立っている見覚えの無い人物である。鎧の色は黒であり、騎士団関係者では無さそうである。となると祭壇を守っている訳では無さそうである。ならばあれはいったい誰なのだろうか。
少し後ろがざわついているようだ。どうやらレイモンドたちも転移して来たらしい。マシューがゆっくりと振り返るのとエレナが声にならない叫び声を上げたのはほぼ同時であった。
「……え? 何て言ったの?」
「……パパよ。……あそこにいるのは間違いない! なんであんな場所に⁈」
「それは彼に役割があるからじゃよ。騎士団から任命された大切な役割……がな」




