第29話 作られた入り口
読んでくださりありがとうございます。マシューは反省をしているようです。
焦りによって普段しないミスをしてしまう。それは誰しも有り得ることである。もちろんエレナのようにこれからのためにもっと深く知ることも大事だろう。マシューはエレナの結論をそれもひとつの結論とした上で自分も結論を出したのだ。それはいつでも冷静になるということ。これもまたひとつの結論なのである。
先程のサンダーバードとの戦闘において、マシューはサンダーバードの誘いに軽率にも乗ってしまった故に手の甲にダメージを負ったのだ。冷静になれば防げた防げたミスである。もう傷跡があったことさえ分からないほど完璧に回復した右手の甲を見ながらマシューは静かに反省をしていた。
ふと気が付くとレイモンドが何かを持った状態で近付いて来ていたのだ。その手にあるものを見てみると討伐した3匹のサンダーバードのようである。マシューが反省している間に討伐の証の採取を済ませて来てくれたようだ。
「悪い、助かったよ」
「もたもたしているとまたサンダーバードに襲われかねない。早く進もう」
「そうだな。……多分もうすぐ橋が目の前に見えてくる。その辺りからさらに進めば森へ入ることが出来る横道があるはずだ」
「よし、それじゃあ早く進もう」
4人は再び嵐馬平原を進み始めた。マシューの言う通り橋が見えて来た。目指す横道は橋の手前側にあるのであり、わざわざ橋を渡る必要は無いのだ。その上でマシューは改めて目の前の今にも壊れてしまいそうな橋を見ていた。
「……この橋を以前は渡ったんだよな。よく壊れなかったものだよ」
「あぁ、確かにそうだな。……ただ、渡った先で起きたことが衝撃すぎてあんまり印象に残ってないんだよな」
「衝撃? いったいこの橋を渡った先には何があるんだい?」
レイモンドの呟きにエルヴィスが反応した。改めて見るこの橋は非常に脆く今にも壊れてしまいそうである。そのため事情を知らなければこの橋を渡る以上の衝撃がその先に待ち受けているとは思えないのだろう。だがこの先で2人が遭遇した霊鳥イナズマはこの橋の脆さを軽く凌駕する衝撃を2人にもたらしたのだ。
「……この橋を渡った先で、俺たちは霊鳥イナズマに遭遇したんだ」
「……あぁ、なるほど。そう言えば霊獣種と遭遇したことがあるって言っていたね」
「今回は幸運なことに渡る必要は無い。目的は嵐馬平原の攻略じゃなくて修羅の国への到達だからね。さ、早く横道を目指そう。もうすぐたどり着くはずだよ」
4人は橋のところまでたどり着きその場所から右折したのだ。マシューの見立てではこの先に森へ入るための横道があるはずである。……なるほど、確かに横道らしいものが見える。その場所は目の前に広がっている森にぽかりと空いた通り道である。ここから森へ突入出来そうだ。
「……これがその横道か」
「獣道を想像していたんだけど、どちらかと言えば人為的に作られた入り口みたいだな。……本当にここを進めば修羅の国へたどり着けるのかい?」
エルヴィスは少し不安そうである。確かに目の前に空いた通り道は人為的に森の木を切り開いて作られたもののように見える。これほど分かりやすく道を作るのには何か理由がありそうである。
「……とは言っても道の無いところから森へ突入する訳にもいかないからなぁ」
「……確か深緑の騎士団と修羅の国は関係性が深いんだよね? ならこの入り口は彼らが修羅の国へ行くための入り口として作ったと考えられないだろうか」
「……なるほど、それはありそうな話だ。確かにいくら騎士と言っても無駄な戦闘は避けたいだろう。それならば森への入り口を整備しているのもあり得る話だ」
そう言いながらエルヴィスは何度も頷いている。どうやらこの道を進むことで納得してくれたようだ。これで修羅の国へ向けて進むことが出来る。……だがその前に確かめるべき情報がある。マシューはレイモンドの方へ振り返った
「レイモンド、この森で遭遇の可能性のあるモンスターを教えてくれ」
「任せろ。……ここ夜霧の森には数多くのモンスターが生息している。昼にはホーンボアやエイシェントディアが、夜にはゲッコウグマやウッディオウルが確認されている。気性という観点で言えば夜に遭遇するモンスターは遥かに気性が荒くなる。……それからこれはモンスターとは関係ない話だが、この森はその名前からも分かるように夜になると霧が立ちこめてくる場所なんだ。この点から考えてもなるべく夜になるまでにこの森を抜けておきたい」
レイモンドは収納袋から図鑑を取り出すことなくスラスラとそう言った。帝都を出発する前、緋熊亭の部屋の中でレイモンドはずっと図鑑を読み込んでいたのだ。もちろんそれは4人が安全に修羅の国へたどり着けるためである。それを知っているマシューは無言で頷いていた。
「やはり森を抜けるなら太陽がある時間だと言う訳だな。夜明け前に帝都を出た甲斐があると言うものだよ」
「ただし、それはあくまでも夜と日中を比べると夜の方がという話であって、日中の攻略は簡単という意味じゃない。気を引き締めて慎重に進まないとね」
マシューのその言葉に3人は真剣な表情で頷いた。既に3人は気を引き締めているようである。そのことを安心すると共にマシュー自身も気を引き締めた。地図によればそれほど長い森では無い。まだ太陽は真上に来ていない。この時間ならば日が落ちる前に修羅の国へたどり着けるだろう。
こうして4人は夜霧の森へ足を踏み入れた。そんな4人を木の上から見ている人がひとりいたのだ。夜霧の森の入り口であるこの場所は修羅の国へ繋がる道のひとつである。故にこの場所は監視場所のひとつとなっているのだ。木の影から鎧を着た男が顔を出し空中目掛けて緑の煙を打ち上げた。もちろんそのことを4人は全く気付いてはいなかったのである。




