不甲斐無い勇者
ご迷惑お掛けしました。
新しく投稿できました。
途中で作品放棄する意味も含めて、一応、あの後書き消しておこうと思います。
沢山の励ましの言葉、ありがとうございます。
「ところで、」
一分程で聖剣への説教を終えると、次いでルティアは振り向き、ソリトに声を掛けた。
「どうして、ソリトさん休んでないんですか?」
「……何を言い出すかと思えば……休んでるだろ」
ソリト達が来た東側だけは約五メートルの小さな崖となっている。そこに寄り添うようにソリトは背中を預けている。
二つの感知スキルは発動しているが、主に休息に意識を向けることになった為、今は単に警戒しているだけ。
「それは休息ではなく崖に背中を預けて立っているだけです。お願いですから…確り休んでください」
ルティアの言う通り、ソリトの休み方は休めるものではない。
ソリトも全身を預けて休みたいと思っている。
だが、ここで座り込んでしまえば立ち上がれない。
全身で呼吸をしながら、預けながらも倒れようとする体を押しとどめているのが今のソリトの状態。
貯水されている井戸水を汲み上げられない事と同じで、体力、精神力、魔力を絞り尽くしたというのが近いだろう。
要は、今のソリトに余力などない。
唯に、いつでも動ける体勢でいる状態で休息する。これがソリトの取れる最大の休息方法だった。
「あと、先程も言いましたが、警戒するのは構いません。ですが、その体勢では休まるものも休まりません!」
「万が一に備えて…」
「その万が一に備えて座ってでも休むべきです!ソリトさんが捕まったら意味がないんです!分かってますか!?私達は二の次です。絶対捕まってはいけないのはソリトさんなんです!その貴方が休まないでどうするんですか!!」
「あ、ああ」
「じゃあ、座ってください」
言われるがままに、ソリトは座るために崖から一度距離を取る。
「……ぁ」
座りやすい位置に足を出そうとした瞬間、唐突に視界が揺らいだ。
次いで、視界が黒く点滅する。
目の前の景色やルティア達が意識と共に遠くに消えていく。
意識を保とうと崖に手を付こうとした時、感覚が麻痺したように、ぐらっと、ソリトは根本から崩れ落ちる。
「ソリトさん!」
硬い石の地面に倒れる寸前で受け止めたルティアの声で、ソリトは何とか踏み留まれた。
「やっぱり、限界なんじゃないですか!ドーラちゃん、袋から毛布を出して敷いてください。リーチェ様は何か食べやすいものがないかもう一つの袋の中を探してください」
「りょ、了解なんよ!」
「はい」
ドーラとリーチェがルティアの指示で袋から毛布と食料を取り出して準備を整える。
「待てっ…少し目眩がしただけだ。それよりも……先に、進む」
「何言ってるんですかっ!そんな青い顔で無理を言わないでください!横になってください。無理に動いたら強制的に押さえ込みますから!」
最後に恐ろしい事を言って、ルティアは肩に腕を回して、数歩の距離にドーラが敷いた毛布までソリトを連れて行こうとする。
「今休んだ所で、まともに動けないのはわかってる。だからこそ、今進むべきだ。俺達がかなり奥にいるとしても、追ってきてるなら、自分の足で来る奴なんて、いない」
密林の中を馬や馬車で進むのは流石に難しいが、この密林には整理された林道がある。
途中までは馬や馬車で進めば、ソリト達を探索する時間の短縮が可能となる。
そして、その可能性は大きく、実行されている場合、ソリトの僅かな回復を待っていては手遅れになる。
「そうですが!でも」
「捕まったら駄目なんだろ?」
「……歩いたとしても皇国には着けません」
「分かってる。だから進路を北に変える」
皇国を目指しているのは密林の方へ走っていった時に【雨霧の勇者】シュオンにはバレているだろう。その時点で他の人間にも伝わったと想定しておかなければならない。
ルティアの言う通り、今の状態では今日中には皇国には辿り着けない。
数日掛けて着いたとしても、追い越されている可能性が高い。
そこで、一度雪山の連なる氷雪地帯を抜けてから再び西に進み、その先にある港町で船を借りて、皇国の港から入国する。
かなり遠回りになってしまうが、流石に氷雪地帯を何の準備もなしに登ろうとする者はまずいない。
これが今のソリトを連れて皇国に入国できる唯一の方法だ。
「それこそ駄目です!北は氷山地帯です!今のソリトさんの体では持ちません」
「極寒の中でも年中野宿出来るくらいの耐性がある」
幸いにもソリトは先のスタンピード殲滅中に【対寒耐性】を獲得し、スキル効果で【対寒無効】へと一段階変化している。
とはいえ、今のソリトの体調で山登りが出来るかは正直怪しい。
あと、もう一つ問題がある。ルティア達だ。
ドーラは聖剣からトカゲモドキと言われていたのはべつとして。ドラゴンがトカゲと同じく、寒さが大敵となる可能性がある。
他二人に関してだけはソリトの様に耐性スキルがない。
寒さに対策の無い状況で氷山を越えられるのは難しい。
この進路はソリト達にとって、メリットよりデメリットが格段に大きい。
「はっきり言って氷山越えはお前達には厳しい。どうする?」
「寒いのへーきなんよ。だから、あるじ様はドーラが守るんよー」
「その時が来たらな」
「まかせるんよ!」
「わ、私も出来る限りのサポートを致します」
「……分かりました。私も氷山地帯に行きます」
ドーラとリーチェはすぐに頷く中でルティアは渋々受け入れた。
本当ならドーラ、聖剣、聖槍にサポートにも回って欲しかったソリトだったが、自身の魔力残量が原因で不可能だった。
今は信用出来る出来ないに拘るよりも、協力者という利点を生かして手を借りるのが得策だ。
そう思っていた為、リーチェとルティアが了承した時、ソリトは少し肩の荷が降りた気がした。
「聖女、今回ばかりはお前のスキルに頼る。精神を回復するにはそれが手っ取り早いからな」
「協力者なんですから、存分に頼って…」
「行くぞ」
「え、ここで無視ですか」
ソリトはルティアの肩を借りて、三人と共に北の氷雪地帯を目指して歩き出す。
それから氷山地帯へ向けて進み、氷山が大きく見えてきた所で【危機察知】が危険を報せてきた。
【予測】を発動しながら辺りを見回す。
横に振り向いた瞬間、矢が目の前を通り過ぎていくのをソリトは視た。
「っ……左によけろ」
ソリトの力なき声でルティアと後ろから付いてきているドーラとリーチェが左に避けた数秒後、矢がソリトの背後を通り過ぎて行った。
近くに気配は無い。ソリトはシュオンの仕業だとすぐに理解する。
「だが、どうやってここを」
「ソリトさん、【雨霧の勇者】様は狼牙族です」
「獣人族は高い身体能力を持っていて、その中でも狼牙族は聴覚と嗅覚が優れていると文献で読んだ事があります」
ルティアとリーチェに言われてソリトは思い出した。いや、シュオンに狙われていた時、もしくは密林に入った時に、狼牙族の嗅覚に気付いておくべきだった。
極度の疲弊で思考までまともに働なくなって来ているらしい。
スキルがなければ今頃は重症。当たり所によっては死んでいたかもしれない。
自分の不甲斐なさに、ソリトは歯を強く噛み締める。
だが、今は悔しさに浸っている場合ではない。
シュオンがいるならばその近くにそのパーティとクロンズ達が連れていた騎士など他の追っ手がいるかもしれないからだ。
「ルティアお姉ちゃん、あるじ様をドーラに乗せて」
事態を察知したドーラがドラゴンの姿に戻り、ソリトとルティアの正面に回って、背に乗せやすいように屈む。
「ドーラちゃんが……ドラゴンに」
先程までドーラの隣にいたリーチェが放心状態になっている。
ルティアはソリトをドーラの背に乗せると、未だ放心状態のリーチェを抱き抱えて走り出す。
その後を追うようにドーラも低空飛行で氷雪地帯へ急ぎ向かった。
「………くっそぉ」




