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【反転顕現】

どうも翔丸です。

人によりますが残酷な描写に感じると思います。

 何が起こっているのかソリトは理解できなかった。


 教会へ向かっている途中にドーラが飛翔する姿が見られたので戦っていることは理解していたが、着いた瞬間に見た光景はルティアの首を片手で掴んだまま、ルミノスがルティアの細剣で姿が外見が変化しているドーラを突き刺していた。


 頭が真っ白になった。

 産まれてから三週間程しか経っていない純真無垢そうなドラゴン。基本従順だが、感情に忠実で、ワガママな食いしん坊で甘えん坊なドーラ。

 そんなドーラの日々がソリトの頭の中でフラッシュバックする。


 身体から細剣を引き抜かれると、ドーラがドサッと地面に落ちた。


 動かない。

 死んだ?

 何故……?


 そう思った瞬間、ソリトはファルに裏切られた時と似た痛みが心の中で貫かれる。

 それが絶望だと、同時に抱いた理由が育ててきたからこそ知らず知らずではあるもののドーラをソリトは大切に思っていたのだと今この瞬間理解する。


「ば…かに、しない、で!」


 ルティアの絞り出したような声に視線を上に向けると、首を掴まれているルティアが弱々しくルミノスに蹴りを入れている瞬間を放心状態で目にした。

 直後、抵抗が薄れ虚ろな瞳に変わっていくルティアを見たソリトは立ち尽くしている場合ではないという考えが過ったと同時に、いつの間にか突進して聖剣でルミノスの腕を斬り付けルティアを横抱きして助けていた。


「ソリト、さん」


 ソリトはルティアの弱々しい声に反応すること無く、ルティアを下ろしルミノスの前に出ていた。

 何をするでもなく再び立ち尽くす。

 しかし、内心は大切な存在が目の前で失われたことに対して怒りと憎悪が溢れソリトの心を覆い支配していく。


 ――憎イカ?――

(ああ、憎い)


 誰か分からない声が聞こえた気がした。

 ソリトはその声に無意識に答えた。


 ――ソレハ個カ全カ?――


 その声の問いを聞いたソリトは頭の中で、ファル、クロンズ、アリアーシャ、フィーリス、国王。彼等にされた事の記憶を一つ一つ思い出す。


(決まっている全てだ。俺から大切なものを奪うもの裏切るもの全て)

 ――チカラヲモトメルカ?――


 ドクンと心臓の鼓動が強く脈動した。

 この感覚は裏切られ【反転】した時と似ていた。だが、あの時よりも強く、深い。


『【反転】スキル確認。カースオルタスキルシリーズ解放』

『カースオルタスキル【反転顕現】を獲得』



【反転顕現/憤呪冰怒】

 全能力を上昇。

 スキルを一つ【反転】もしくは一段階アップ。

 所持する武器を【反転】。

 魔法未解放〝コキュートス〟


 タグに触れてもいないのに表示されたスキルに、ソリトは意思と関係なく無意識に、感情のままに、聖剣を握り、スキル名を心の中で告げる。


 ――【反転顕現/憤呪冰怒】――


「ソリトさん!」


 呼び叫ぶ誰かの声に反応した直後、ソリトに紅い槍が右目を貫き鋭い痛みが走った。

 貫通した瞬間、貫通穴から血が勢いよく噴出する。


「反撃も無しか。最後は無様だな」


 などと言っているがソリトは既に意識は失っており、体が前に倒れる直前だった。


『カースオルタスキル所持者の意識不明………スキルの発動可能』


 次の瞬間、ソリトは、否、スキルが身体を起こした。


「貴様何で…」

「WOOOOOOOOOOOOOOO!!」


 獣のような叫びを上げると、聖剣を抜いていく。すると、白い聖剣が黒い剣へと姿を変えていった。

【反転顕現/憤呪冰怒】は身体を屈めて敵の体に跳び付いた。

 飛び付いたスキルは左手で敵の首をへし折る勢いで横に曲げ、そこへ黒い聖剣の剣先を向ける。


「て…めぇ…」


 敵が抵抗して【反転顕現/憤呪冰怒】引き離そうと押し上げようとする。剣を突き刺そうとしたが腕を掴まれて止められてしまった。【反転顕現/憤呪冰怒】は敵を足場に前に跳び退き一旦距離を置く。

 直後、背後にいる敵の方へと唸りながら振り返り駆け出す。


「〝ツヴァイブ・ブラッドエッジ〟!」


 地面から数多の紅い槍が突き上がりながら襲い掛かり身体を串刺しにした。


「手こずらせやがって」


 そんな声が聞こえた。だが、【反転顕現/憤呪冰怒】は邪魔な槍をどうにかしようと黒い聖剣の刃を自身の体の方に来るように持ち替え、紅い槍に当て破壊した。


「な、ただ触れただげほぁっ!」


 敵が言葉を口にしていた時、身体から鋭利な形状をした氷が身体から現れ、口から大量の赤い液体が吹き出す。同時に氷が砕け散った。

 これは聖剣が【反転】した事による黒い聖剣の効果だった。


 剣種変更可能。

 物理攻撃命中時、カースフレアによる追撃効果発動。

 魔法無効化時、カースアイシクルによる反撃効果発動。


 【反転】した黒い聖剣の能力。

 今回はその中の魔法無効時の効果が働いたのだ。

【反転顕現/憤呪冰怒】は【自己再生(小)】を自身の能力で【自己再生(大)】へ更に一段階上げて身体を完全に再生させた。


「馬鹿な…」

「WOOOOOOOOOOOOOOO!」

「せ……精霊よ、我が声を聞き届け、血の牢獄の鎖で敵を縛れ〝ブラッドプリズン〟」


 紅い鎖が幾重にも【反転顕現/憤呪冰怒】を縛る。

 その間に敵が影の中に潜り込み始める。

 しかし、いとも容易く紅い鎖を破壊して、【反転顕現/憤呪冰怒】は頭を掴み影から引きずり上げて殴り付ける。


 敵も殴り返してきたが、腕を握り締めそのままへし折った。

 叫び声が聞こえたが、気にせず敵を少し引き寄せて、腕を掴んだまま引きちぎり、蹴り飛ばす。

 教会の壁に衝突した敵へと突撃して、敵の頭を鷲掴み、教会の壁をぶち破りながら祭壇の方までやってくる。


【反転顕現/憤呪冰怒】は再び敵を殴り付ける。

 数回殴った後、黒い聖剣を短剣へと剣種を変えて胸に突き刺しあばら骨ごと下に斬り裂く。

 むき出しの骨を掴み外側にへし折ると隠れていた心臓が剥き出しの状態となった。


 尚も【反転顕現/憤呪冰怒】は動く。

 ソリトの怒り、憎悪、殺意がスキルを動かしているのだ。

 短剣に変わった黒い聖剣がぐちゅと気色の悪い音を立てながら敵を突き刺す。直後黒い炎が敵の身体を包み込む。


『吸血鬼王ルミノス討伐により全能力が上昇します』

『吸血鬼王ルミノス討伐により全能力が上昇します』

『吸血鬼王ルミノス討伐により全能力が上昇します』

『吸血鬼王ルミノス討伐により全能力が上昇します』

『吸血鬼王ルミノス討伐により全能力が上昇します』

『吸血鬼王ルミノス討伐により全能力が上昇します』

『Lvアップ。Lv62になりました』

『スキル【鬼殺し】獲得』

『スキル【吸血鬼】獲得』

『スキル【狂戦士】獲得』


 敵はいなくなった。しかし止まらない。

 全て殺すまで止まることはないのかもしれない。


 その時、後ろから誰かに抱き締められた。

 とても優しい感覚に思わず【反転顕現/憤呪冰怒】は手を止める。


(この感覚……前にも)


 覚えのある感覚にソリトは意識を取り戻す。


『思い出して』


(……なにを)


 ソリトは尋ねる。


『耳を傾けて、温もりを感じて』


(傾ける。何に?温もり?何の?誰の?)


 とにかく、ソリトは耳を傾けて見た。直後、悲痛な声が聞こえた。


「帰ってきてソリトさん!!」


 その言葉に、何故か戻らなければいけないと思ったソリトは黒く冷たく感じた場所から這い出ようとする。

 怒りをおさめるわけじゃない。この優しい声の元に戻ってその声の主を安心させてやりたい気持ちの方が今は強かったのだ。


 ――ワスレルナ――


 誰かも分からない声の言葉が気に食わなかった。ソリトは自分の道は自分で既に決めている。従う気はないが、忘れない事は努々承知することにした。

 黒く冷たい感覚がスーッ引いていき、視界が開ける。すると目の前には食い散らかされたように骨が剥き出しになって内蔵が抉られているといった無惨なルミノスの姿があった。


「大丈夫ですから、ドーラちゃんも私も大丈夫ですから。終わり、ましたから」


 後ろにはぎゅっと自分を抱き締めるルティアがいた。


「聖女」

「ソリトさん。ソリトさん!大丈夫ですか」

「ああ、俺は……っ!」


【危機察知】で危機を感じたソリトはルティアを自分から引き剥がして抱き抱える。

 気が付けば、ルミノスの身体がボコボコと盛り上がっていっていた。

 ソリトはルティアを抱えながら直ぐに教会の外へ脱出する。

 直後、教会が爆発し爆炎の柱が立つ上がる。


「自爆か」

「そう、みたいですね。ゴホッ!ゴホッ!」

「おい!」


 よく見ると抱き抱えていたルティアの体は酷い火傷を負っていた。

 何があったのか全く見当が付かないソリトだが、今は回復させることに専念する。


「前にこいつは……そうだ。大いなる癒しを〝ツヴァイブ・ヒール〟!」


【回復師】で詠唱を省略して中級回復魔法を掛けるも治った気配がない。


『スキル【上位回復師】獲得』


 獲得した状況と【回復師】の効果を考えてソリトは魔法名だけを唱える。


「〝ツヴァイブ・ヒール〟」

「〝ツヴァイブ・ヒール〟」

「〝ツヴァイブ・ヒール〟」

「〝ツヴァイブ・ヒール〟」

「〝ツヴァイブ・ヒール〟」

「〝ツヴァイブ・ヒール〟」


 治るまで無詠唱で魔法を唱え続ける。

 それでも快復する前兆はない。

 ソリトは他に方法を知らない。もどかしく苛立ちを吐く出す。

 

「クソッ!」

「ソリトさん、落ち着いてください」

「喋るな」

「大丈夫です、お陰で楽になりました」


 と、ルティアは苦笑いでソリトに言った。

 確かに火傷した部分は消えている。楽になったというのは本当なのだろう。しかし、それはほんの少しだけだと思われる。

 紫かかった痣、それが何なのかは謎だが回復魔法を掛けても残っているものだ。

 ルティアの表情が晴れない原因もこの痣が原因だろう。

 原因が分かれば良いが。


「とりあえず、竜車に戻るからな」

「はい」


 竜車を教会から離しておいてやはり良かったとソリトは思った。そうでなければ今頃竜車は吹き飛んでいただろう。


「ところでドーラが大丈夫って言ったな」

「はい。気を失ってはいますけど、回復魔法を掛けて一命は取り留めました」

「そうか」


 よく解らないままソリトはルティアとドーラを肩の上に担いで一旦竜車に戻った。

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