他勇者達と天秤の噂
他勇者の軽い紹介も兼ねてます。
『スキル【料理人】獲得』
『スキル【付与師】獲得』
『スキル【魔力感知】獲得』
『スキル【魔力操作】獲得』
【料理人】
調理補助5。(一段階アップ状態)
料理補正5。(一段階アップ状態)
スキル効果により調理補助、料理補正が5に上昇。
【付与師】
魔力付与補正5(一段階アップ状態)
補助魔法の付与効果が三割上昇。(一段階アップ状態)
補助魔法の付与効果の持続時間を五割増加。(一段階アップ状態)
スキル効果により魔力付与補正6に上昇。付与効果が四割に上昇、持続時間倍増。
【魔力感知】
周囲の魔力を感知可能。(一段階アップ状態)
特定感知可能。
スキル効果により感知範囲拡大。
【魔力操作】
魔力を操作可能。
魔法の威力と速度調整可能。
魔法発動速度上昇。
ソリト達が都市に来て三日が経った。
行商二日目は予定通り職人区域南側で行い、薬の他に前日と同じで料理を販売。
しかし、今回は職人区域の職人達、ではなくその弟子を狙って販売していった。作業部屋に閉じこもっているだろうと予想してだ。
そして、予想通り完売まで持っていくことができた。スキルも【料理人】を獲得したので上々と言える。
他にも本職にはまだ届かないものの、簡易道具を揃え【金属加工師】を生かして宿でアクセサリーを幾つか作り売りに出した。
前日の夜中、明日も聖女として別行動を取らせて欲しいという事で部屋に訪ねに来たルティアが、偶然作っている様子を見て「もう少し凝るべきです!」とダメ出しを食らった。ソリトとしては遺憾ではあったがその通りだった。
ただ、ソリトは絵に関してやる機会がなかった事もあり仕方なく無骨なものにしようと思っていた。
クソビッチ、もといファルにプレゼントしたものを参考にでもすれば良かったのだろうが、自身に興味が無かった為にその辺に関して記憶が曖昧だった。
そこに、ルティアがデザインをしてみたいと言ってきたので、試しにやらせてみた。
結果、僅かだが売れた。出来映えはスキルの補正もあり見劣りはしないが初回という事もあり数も少なく、試験的な意味で価格は少し低めに設定した事も売れた理由の一つだろう。
お陰で、道具はすぐに使い物にならなくなったが、これが一番反響を呼んだ商品となった。
その時、アクセサリーを営む商人がデザインと今ある商品を買い取りたいと、話を持ちかけてきた。
ルティアのデザインを気に入ったらしい。
それを手札に、ソリトは了承する代わりに条件としてそちらのアクセサリー細工の技術提供を求めた。
ルティアは気にしないのかもしれないが、勝手にデザインを提供することにしたソリトとしては借りを作ってしまったようなもの。後で報告するつもりだが、何かあればその借りを返す事を一人で決めた。当然、ルティアの了承の有無を取ってからだ。
それから、残りのアクセサリーを買い取ってもらい、アクセサリー商の店の応接室で技術を教わる事になった。
アクセサリー商は中央都市だけではなく旅商人としても時々やっているためかなり名の知れた商人らしい。
また、自身の技術を大金や好条件を出されたとしても教える人ではないことで有名らしい、と準備で店の奥にアクセサリー商が行っている間に従業員達から恨めしがられながらソリトは説明された。
先ず教えられた内容は、魔力付与。
魔力付与はその物が持っている力の素質を制御し、解放するものだ。
別の物の魔力を付与して解放された付与効果をまた別の物に付与することも出来るらしい。ただこちらは難しい技術らしく、練習するなら魔力付与に慣れてからとソリトは念入りに言われた。
防具も同じ原理で、複数の効果があるものは複数の素材が使われているのだろう。ソリトが防具店から貰ったコート・ザ・ガードの装備効果もその類いと考えられる。
そして、最後に、魔力付与に加えて、アクセサリー商の持つ宝石の貴金属類をアクセサリーに加工する作業だ。
加工作業は魔道具を使っての作業となる。
道具は貴金属を柔らかくする為の物や研磨する為の物と数点程あり、それらを使って加工するのだという。
実践に作業を行ってみたソリトは【金属加工師】の加工技能補正によって数回でコツを掴めた。
「思った通り」
「どういう意味だ?」
「私の話は聞かれました?」
「ああ、恨めしそうにな」
「はは、でしょうね。まあそれだけあなたの技術に光る物があったというだけですよ。ただ、デザインが良いのに生かしきれていない。基礎が無いことは一目で分かりました。きっと伸ばせば光るが、教えるものがいない。勿体無いこの上無いでしょう!」
アクセサリー商が熱く語りだした。
嘘は言っていない気がした。が、商売敵が増えるのは同業者にとっては困るのではないか、本当は何か別の理由で騙そうとしているのではとソリトは疑い深く勘繰る。
「信じておられませんね。商売敵が増えるのは困りますが、それはそれで熱が入るものです。最近は商人や商会同士で契約して店の維持ばかり考える商人が増え、貪欲のある商人が減ってきているんです」
「駄目なのか?」
「駄目という訳ではありませんが、そうした商人達は片方の経営が危険な状態に陥った時などにすぐ使い捨てますからね。利益だけを得て捨てる。私は好ましく思わない」
自分に利益や価値があったかなど知りたくもないが、裏切られたからだろう。ソリトは不思議に共感しながらアクセサリー商の話を目を見ながら聞き続ける。
「だが、安く売ろうとも利益を得る貪欲さがあなたにはあった。その証拠にあなたは私に技術提供を求めた。疑いながらも。それで良いのです。疑わなければ商人などやっていけません!」
商売に関してかなり熱い商人らしい。こうも迫り来る姿勢の人間はどこぞの聖女と似たものがあり、ソリトはただ聞くだけで受け答えする気がなくなってきた。
「という訳で色々教えることにします」
一体何を教えるというのだろうか。変なやる気を出されてもソリトとしては困るだけなのだが。
結果的に安く道具を売って貰えたのでやる気を受け入れた。
ちなみに高度な物を作ろうと思うと他にも道具が必要らしいが、手を付けるにはかなり覚悟のいる危険な額らしい。
それからソリトはアクセサリー商から魔力付与も教わった。
魔力付与もまた数回でソリトは習得し、出来の良い物が出来た。というのも作業中に同時獲得した【付与師】【魔力感知】【魔力操作】の内の【付与師】と【魔力操作】のお陰である。遠くない内に付与された魔法効果を別の物に移すこともできるだろう。
スキルの効果も戦闘に役立つものでかなり良い。【魔力感知】と【魔力操作】が戦闘向きなのはおそらく単一、魔物のスキルだからだろう。
「基本はこんなところでしょう。後は自力で向上させてください」
最後にアクセサリー商は宝石類の流通ルートと紹介状をソリトに提供した。今後の商売に役立てくださいとの事だ。
こうしてソリトはスキル獲得という大きな収穫を得て、アクセサリー加工と宝石細工技術と宝石類の流通ルートを得た。
それから一端宿に戻り、昼食を取ろうと食堂の方に足を運ぶとルティアがいた。
奥にいたので食堂の入り口手前に座ろうと思ったが、ドーラがルティアを見つけて駆けていった。
「ルティアお姉ちゃん」
「ドーラちゃんお疲れ様です」
「やよ!」
「ところでソリトさんは何でそんな離れてるんですか?」
細目でジッとソリトを見ながらルティアが尋ねる。
「なんだ聖女か」
「おっいたのか、みたいな反応ですけど気づいてましたよね?」
「聖女も昼食か?実は俺もなんだ」
「はい、美味しいのでじゃなくてですね、何をさらっと流してるんですか!?」
「おお」
「なにを感激してるんです!あと拍手をしないでください!」
「ドーラ昼食は宿のか俺のかどっちが良い」
「両方やよ!」
欲張りなと思いつつも、ソリトはキッチンの方に足を運びキッチンで働く従業員と話をつけて一部借りる。
「聖女に美味しいの聞いておけ」
「はいやよ」
「ドーラちゃんを出汁に使わないであげてください」
「ドーラ料理されるんよ!?」
「え、あ、違いますよ。私との会話を終わらせたくてドーラちゃんと話をするのは駄目というのを注意したんです」
「あるじ様はお姉ちゃんと話したくないんよ?」
「そういう気分なんだ」
「いつもですよね」
「分かってるじゃないか」
「中級魔法を跳ね返された感じです」
「自分の料理冷めるぞ」
「……そうでした」
不服そうに頬を膨らませながらルティアは料理を再び食べ始める。
それからソリトは自分とドーラの分の料理を作り、ルティアとドーラが座る席まで持っていき、ソリトは少し離れた所に座る。
「頑固者」
そう言いながらルティアがドーラを連れてソリトの正面に座る。
「お互い様だろ。ま、俺は付き纏ってはいないがな」
「付き纏ってません!今は協力関係ですから」
「で、その協力聖女は収穫あったのか?」
「ソリトさんって私に色々な聖女名付けますよね」
「呼びやすい」
「聖女の二文字が呼びにくいってあるんですか!?」
「呼びは四文字」
「ルティアも四文字です」
「いただきます」
「あのそこを無視されると一番困るのですがぁ…うぅ」
「お姉ちゃん良い子良い子やよ」
幼女に慰められる聖女のやり取りを見ていると姉妹のような印象を抱きながらソリトは食事を続けた。
「突然なんですがソリトさん、情報とは別でお願いがあります」
「何だ?」
「数日前にある村の方々が謎の貧血に陥っているのを一つの冒険者パーティが見つけまして、増血剤を欲しているそうです。それで一緒に行っていただけないかと」
「分かった行こう」
「…あの…いいのですか?」
ソリトが内容を聞いてあっさり受けたので意外という顔でルティアが確認で尋ねる。
「だから?頼んだのは嘘か?」
「いえ、ありがとうございます。嬉しいです」
「こちらこそ。増血剤がよく売れるそうだ」
「お礼くらい素直に受け取ってください」
仕方ないとでも言いたげにルティアが微笑を浮かべながら「本当に」と小言のように言葉を漏らした。
その後、コツコツと宿の主人であるチヤがソリトの隣までやって来てお辞儀をする。
「失礼致します。ソリト様、先程ギルドアルス支部の方からこちらに来て欲しいとの伝言を承りました」
どうやら情報が集まったらしい。
ソリトは昼食を切り上げてギルドへすぐに向かった。
ギルドに着いたソリトは受付に話を通してもらい今度はギルドマスターの部屋に案内された。
そこにはカナロアもいた。
「来たね、待っていたよ」
「それで、情報が集まったのか」
「そう考えてもらって良いよ」
「私も合間に集めて動きましたけどこれといって」
ソリトも範囲が狭いものの商人らしき人間が購入した際には聞いてみたがこれといって信憑性のある収穫は無かった。
その中で、ギルドとカナロアが集められたのは他の勇者達の行動と活動範囲についてだ。
【嵐の勇者】であるクロンズはクレセント王国から南西方面に向かいアポリア王国を目指しているらしい。
その間に村の悩みを解決したとか。短気そうなクロンズでは思い付かなそうなので、ファルか女性陣の入れ知恵だろう。
目的は不明だが、現在は国境を越えているらしい。
もしかすると、ルティアという聖女の存在がいる為に迂闊に手を出せないのをどうにかしようとしているのかもしれない。
だが、こちらから接触すれば冤罪ではないと認めるような物だ。あちらから接触してこない限り今は様子見とした方がいいだろうと、【思考加速】の中で考えながらソリトは他の勇者の事も聞く。
【日輪の勇者】
名前はグラヴィオース。太陽が昇っている限り攻撃力に関して最強と謳われているらしい。
現在は実力主義の武装国家アルマ帝国から北西に拠点を置いているらしいが、凶暴な魔物の生息している場所を見つければ拠点を変えているようだ。
【雨霧の勇者】
名前はシュオン。種族は狼牙族で、勇者の中では唯一の女勇者。
得た情報ではステラミラ皇国皇都周辺を回っているという事だが、この情報は定かではないらしい。神出鬼没とされ、突然現れて魔物から貴族の馬車を救っただの、裏で悪事を働いていた領主を証拠と共に国に突き出しただの、実際活動しているかどうかも不明らしい。
「【天秤の聖女】の方は?」
「かなりの目撃情報はあった。二月前アルマ帝国付近、一月前はアポリア王国で活動していたらしい。ただ最近の情報は無かった。すまない」
「そうか」
アポリア王国に一月前。活動しているかはともかく、当たってみる価値はあるだろう。
「私は最近この都市にいたっていう情報がありました」
「何時ですか!?」
机を叩き立ち上がったルティアが前傾姿勢でカナロアに尋ねる。
「あの、聖……」
「落ち着け聖女。お前が興奮してどうする」
「っ……すみません」
「改めて聞くがいつだ?」
「と言っていっても半月前です」
「門から出た情報とかはあるか?」
「兵士の人達の話だとステラミラ皇国方面の馬車に乗っていったそうですけど」
半月。一月前にアポリア王国にいたことを考えると望みは薄いかもしれない。だが、他に手掛かりがない以上はステラミラ皇国に足を向けるしかないだろう。
幸い、土地勘を持った聖女が今協力者としているのだ。当たる選択肢以外にないだろう。
方針が決まった。だが、その前にソリト達には行く場所があるので優先順位としてはその後になる。
「ソリトさん行きましょう」
「待て。その前にお前の用がある」
「……でも」
「お前が人の命を一人の冤罪よりも軽いと思うならそれで良いが、どうする」
正直ソリトはその村の人間がどうなろうと知ったことではない。だが、ルティアが自分の方針を変えてまで冤罪を優先するのをソリトはどうかと思った。
一人の人としては正しい選択の一つだろう。だが、聖女としての選択としては間違っている気がした。
止める理由はソリトには無い。だが、止めなければいけない気がした。
それに【天秤の聖女】が見つからなくても手段は他にもある。ただ…
「ふぅ……ソリトさんありがとうございます。皆様ありがとうございました。早く村に行きましょう」
それはソリトが世界の敵になる時だ。
大丈夫でしょう。




