行商勇者
中央都市のある西に向かう途中にある次の村まで半分という所で、ソリト達は休息を取ることにした。
「う……ソリトさんは…何であんなに激しい揺れでぇぇ………酔わないんですか?」
「だから知らん」
「………普通の馬車なら大丈夫なんです…普通のぉ…」
「ギュアア」
と、ルティアがダウンしているという事もあって休息は長引きそうだ。
そんなルティアの強がりにドーラが悔しげに口先で彼女の頬を突っつく。抵抗する気力を回復に使っているからか、突つきに反応せずただただ「止めてください」と宣うだけだ。
ソリトはというと、その間に行商をするに当たって、まずは薬と衣服を売ることにした。
食べ物がないか問われれば村と街から貰った食べ物やウルフ肉の干し肉があるので少しは売ることが出来るとは思うが、そこはドーラの腹次第なので視野にはまだ入れていない。
ルティアがダウンしている間にソリトは森や山から採取した薬草で調合して薬作っていく。
回復丸薬 品質 やや悪い→やや良い→良い 傷の回復を早める、塗り薬でも効果を発揮する。
治療薬 品質 悪い→やや悪い→やや良い 風邪、熱等の病を治療に効果がある。重病には効果が薄い。
解毒薬 品質 悪い→やや悪い→やや良い 体内の毒物の効果を消す作用がある。
栄養剤 品質 悪い→やや悪い→やや良い 疲労回復の効果がある。また、栄養補給効果がある。栄養失調、食欲不振時に効果が少しある。
ソリトは【見習い薬剤師】と【薬剤師】の二つのスキルを所持しているというのは良いものだと改めて実感する。品質が二段階も向上するのだから。
本来の質は後は技術が追い付けば問題ない。徐々に他の種類のレシピもやってき、品質によっては高値で売ったりすることも出来るだろう。
ただ材料の消耗が激しい。なるべくストックは作っておくつもりだが、なくなる前に山や森に取りに行く必要はありそうだ。
次にやっておくのは竜車の仕上げだ。まだ屋根部分は手を付けておらずで完成していないのだ。加工は済ませてある、後は一つ一つ外しながら木槌で打つだけとなる。
コンコン……。
屋根は風の抵抗を無くすために四角形から前方を円のように少し丸みを帯びた形に組み変え立てていく。後は雨が隙間から入り込まないように厚手の布を被せて完成した。
『スキル【木工加工師】獲得』
【木工加工師】
木工加工技能補正3。(一段階アップ状態)
筋力値5上昇。(一段階アップ状態)
スタミナ5上昇。(一段階アップ状態)
スキル効果により補正4上昇する。筋力値、スタミナ6上昇する。
完成した頃にはルティアも回復して起き上がっていた。
「行くぞ聖女」
「ソリトさんも休憩してください」
「竜車でする」
「分かりました」
それから暫くして着いた村でソリトは早速薬と服を売ることにした。
価格は相場よりも安価で売った。
良く売れたのは回復丸薬に治療薬そして栄養剤だ。これらは良く売れると思い多めに作っておいた。解毒薬の方は二本だけだが売れた。こちらは少なめに作っていたのでソリトの予想通りだった。
衣服に関しては子ども服が良く売れた。そこは親ということだろう。自分達の衣服よりも子どもを優先にしていた。
ただ子ども用は基準となる物がいなかったので裾直しをサービスで行い売った。
そのお陰で子ども服よりは少なめだが裾直しをしたことで大人用も売れるには売れた。
その間ルティアは聖女としての務めをしていた。勿論、販売の後にソリトはさせた。でなければ薬が売れない可能性があるからだ。
それからソリトは立ち寄った村で薬草を買い取り、移動中にでも調合する予定だ。布生地は売られていなかった為、村の人達から余った大きい生地を買い取れる分だけ買い取った。
それから中央都市に再び向かった。
村で宿泊でも良かったが進めるところまで進もうと途中で野宿することにした。その途中で魔物を倒したり、ドーラが飢えを訴え、餌をやりながら向かっていった。
「ソリトさん、女の子の服は可愛いデザインにした方が売れますよ」
「確かに聖女が良い例だな」
「ふふん、ですよね!」
ソリトは胸を張って誇らしげになる意味が良く分からなかった。
だか、確かに聖女の聖職者としての模様を可愛くデザインしているのは認める。
そもそも何故こんなデザインだったかソリトは思い出してみた。
「オーダーメイドだったか?」
「そうですよぉ。私のデザインしたものです」
「………考えてみるか」
「お手伝いしますよ」
「気が向いたらな」
「それ向かないやつですよね!」
「向くと思う」
「即答で返したのに!?」
「チッ」
ともかく、オーダーメイドは後々手を広げてみてもいいとソリトは思った。
「腹減ったから飯にする」
ぐるるるるる
ドーラの腹が唸り声を鳴らす。先程食べたばかりなのにまだ食らえる事に食糧がなくなるのではと不安が出る。
気が付くと、また体長が大きくなっているので尚ソリトの内心は煽られる。
「ギュアァァ」
「聖女はどうする?」
「いただきます」
晩飯に作ったのはシチューだ。ドーラの分も作るとなると量が多くなっていつもより手間がかかった。味が分からないからだ。
殆ど経験任せと言ってもいい。その分美味しくはしているはずなので何ともソリトは複雑な気分だった。
「美味しいです、ソリトさん」
「そりゃどうも」
「もぉドーラちゃんが話せたらきっと大絶賛ですよ」
「ふっ、それはあり得ないだろ」
微笑しながら言いつつソリトは味のしないシチューを一口運んだ。
「ソリトさん!?」
ルティアがソリトを見て叫んだ事でソリトも気がついた。無自覚に涙を流していた。
理由がなんなのか分かる気がする。気のせいかとも思うが確かめずにはいられず、ソリトはもう一口シチューを口に含む。
「味がする」
感じないはずの味がした。
突然味かするようになったかは分からないが、味がまた感じられるようになっていた。
「嬉しい気持ちが強く輝いてます」
そんな兆候一切無かったというのに一体何故?と思いつつも、感情の揺らぎが見えたルティアの言うとおり嬉しさが、ファルに裏切られてから全く感じることの無かった味がするようになった事への歓喜が勝っていた。
「不味いと感じていたのではなくて…味がしなかったんですか」
「お前気づいてたのか」
「前に言ったじゃないですか。美味しくないですか?ってその時にソリトさん誤魔化しましたから、一応そういうことにしましたけど」
確かに「そういう事にしておきます」とルティアは言っていた。
本当に勘づいていたとはあの時は思っていなかったが、その時に感情が見えていたのだと思えばソリトは納得できた。
「少し心配だったんです。食べてるときいつも浮かない顔だったので」
感情ではなく、顔に出ていたらしい。
「では、これからは美味しいものをたくさん食べましょう。せっかくの旅です。目的はともかく美味しいものくらいは美味しく楽しく食べましょう」
「そうだな」
「ギュアアア!」
ソリトは何となく分かった気がする。
だが、その気持ちは心の隅に隠し止めておくことにした。
「明日はなんですか?」
「気が早い。さっさと食べろ」
「今楽しく食べましょうって言ったばかりなんですけど?」
「分かった分かった。今日は味わわせろ」
「明日はしますからね楽しく」
念押しするように強調するルティアの言葉に軽くあしらうように了承して味わいながら黙々と食べていく。
味を失った時は有り難みを改めて実感し、味が戻った今は温かい気持ちに満たされる事を実感した。
「中で寝てください」
「魔物が来たら邪魔でしかない」
「……では交代で見張りをしましょう。それなら寝れますよね?」
「はいはい。とりあえず寝ろ」
「……おやすみなさい」
ルティアは竜車の中に入っていった。
翌日。目を覚ますと灰になった薪から煙が細く昇るのが見えた。いつの間にか寝てしまっていたらしい。
「おはようございまーす」
ルティアが竜車の中で眠たそうな呆け顔で起きてきた。
そこで見張りを交代するから起こして欲しいと言われていたのを寝ぼけている頭で思い出す。
起こさなかったらめんどくさそうなので起こすつもりではあったが間に合わないと悟る。
「朝じゃないですかぁ、交代しますってい………そそそそソリトさん!!」
突然驚きを見せたルティアが挙動をおかしくして名前を呼ぶ。
寝起きで大きい声がソリトの頭に響く。
「なんだよ?」
「とと、隣、両隣…に、にはだ……とどど」
「いや落ち着け?とな……うおぉぉ!」
両隣を見てソリトはその場を座ったまま後ろに這って下がる。
そこには白と黒の髪と小さな翼を持った裸の少女と金装飾された白と青のドレスを着た金髪少女がすやすや眠っていた。
「あるじさま〜」
「ますた〜」
そう呟きながらまぶたを擦って二人の少女はむくりと起き上がった。
どうも、翔丸です。
はい、新キャラです。
一人は皆さんの予想通りですよね?




