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開廷

大変お待たせしました。

申し訳ございません!

「全く、ソリトさんもドーラちゃんも、遠慮する所ですよ」

「昼は遠慮する」

「ドーラは食べれるんよー」

「遠慮する場所が違います!ドーラちゃんは我慢です!」


 翌朝、ソリトは昨日起床したが、何も断食状態で眠りついてしまった為に体は食を求めていた。

 それは治療院全体に猛獣の唸り声の如く腹の虫が鳴り響かせ、睡眠中の本人さえ目が覚める程に。


 それからしばらくして、ルティアとドーラが慌てた様子で部屋に駆け付けてきた。

 音の中心が自身の空腹によるものだと説明すると、心配させないでください、と溜息を吐いてルティアが言った。

 その後、治療院の従業員に頼んで料理を作って運んできてもらったのだ。


 だが、一般的な朝食の量では足りず追加して、食べ進める度にソリトの食事の許容量(キャパ)は加速していった。

 その食事の光景は、配膳してくれていた治療院のナース達が食事量を呟く程だった。


「二週間分の食料を…」


 治療院ということで健康に気を使った料理にもかかわらず、その味は舌鼓を打つほどの美味しさだった為に止まれなかった。


 ただ、ソリト一人で二週間分を食べたのではない。

 ドーラの量と合わせてだ。


 ソリトが起きるまでの間の三日。ドーラは余り食事を取らなかったらしい。

 それでも、今は一週間分食べているのだから、もう心配はいらないだろう。

 だが、治療院には他にも入院している人達が当然いる。自重、適度というものは必要だ。


 唯に、ソリト達は刺々しい声でルティアに叱られていた。


 それでも尚心の中で、料理が美味しい事も原因の一つだ、という思いを抱いてソリトはルティアに言った。


「俺だって普段は食べない」

「いや、普通は五日も食べないで暴食なんてしたら体壊しますよ!」

「知ってる」

「知ってるんでしたら体を気遣ってください!!」

「お姉ちゃん怖いやよ」


 鬼気迫るルティアの声にドーラが萎縮しながらソリトに抱き付いてきた。

 その時、これは面白い流れだと感じたソリトは、ドーラの頭を撫でて慰める。


「ホント、お姉ちゃんは怖いなぁ。おい〜ドーラが怯えてるじゃないか」

「すみません…って何で私が謝ってるんですか。というかソリトさん楽しんでますよね!?」

「静かにしろよ。ここ何処だと思ってる」

「裁判所です、すみません…ってだからぁ!!」


 裁判所で地団駄を踏むルティア。というのも治療院は裁判所から直近の場所にあるのだ。

 その間に叱る事も出来たのだが、着替えた後に治療院内の厨房で自分が食べた料理の皿洗いを自分が始めた為に怒るに怒れなかったのだろう、とソリトは予想している。

 だが、それで裁判所内で怒るのはどうかと思うものの、それはそれで面白要素だった。


「お姉ちゃんは面白い」

「おもしろいやよー!」

「面白くなーい!!」

「弟子、いとをかし」

「イトオカシってどういうお菓子です!?」

「弟子真面目過ぎ」

「師匠まで…」

「ふふ、何だか楽し気だな」


 裁判所内の真ん中で、ソリト達が賑やかな会話を繰り広げていると、不意に裁判所の左から声を掛けられた。

 顔を向けると、左奥の階段を下りているシュオンが見えた。


「シュオンか」

「薄い反応だな。それより体はもう大丈夫なのか?」

「ああ、ただ聖女に罵られて精神はボロボロだ」

「外部内部精神共に健康です…!」


 体をフルフルと震わせ、怒りを押さえつけたような声で言うルティア。

 これ以上は危険だと【危機察知】が異常な反応を示す。直後、今すぐ終われさもないと終わるぞという、言葉が脳裏に過ったような気がしたソリト。

 何が終わるのかは分からないが、不穏な予感がしたので弄るのを止めて、すまん冗談だ、とシュオンに謝罪する。


 その瞬間、ルティアが諦めが入り混じった溜息を吐いた。

 すると、【危機察知】から反応が消滅した。

 危機は回避できたらしい。


「それにしてもシュオン様、戻っていたのですね」

「少し前にね。で、さっきまでアストルム女皇陛下達に会っていたんだ。グラヴィオース殿も来ているよ」


 ただ、シュオンとグラヴィオースのパーティメンバーは参加禁止という事らしく、外で待機しているらしい


「グラヴィオースね…」


 少々突っ走る面があり、問答無用で攻撃を仕掛けてくる。

 演説では熱い漢という印象を最初に抱いたが、今はそんな悪い印象に変わっている。

 余り会いたくないというのがソリトの本音。

 溜息を吐きながら、苦い顔を浮かべる。


「ソリトさん、ご本人の前でその表情は止めた方が良いですよ」

「努力する」

「もう…」


 ルティアは諦めたように、溜息を溢しながらソリトに注意する。その後、仕方ないですねと言うように、ソリトに弱々しく微笑む彼女を見て、ドーラがイチャイチャダメやよ!、と言いながら突然二人の間に入り、そんな光景にシュオンがクスクスと笑い声を漏らす。


 ソリトからすればイチャイチャしていない。こんな緊張感が無くて良いのかと逆に不安を抱いている。

 そして、裁判が行われるとは思えない正反対の雰囲気を出しながら法廷へと向かう。





「〝ルティア〟、ソリト。おはようございます」

「あ?…………………………………………【天秤】、お前か」


 法廷に入って早々、クティスリーゼがソリト達を見つけ、裁判所長官側の席に繋がる階段を下りた後、挨拶をしてきた。


 ただ、ルティアを呼ぶときの愛称が無かった為に違和感を抱いたソリトは、一瞬誰だが分からず、突然振られた挨拶に、は?誰だこいつ?、と訝しげな目を向け、十年も会っていない人物を思い出したように名前を呼んだ。


「昨日会った筈ですのに、もう忘れられているなんて……容赦ないですわ…はぁはぁ…これ、は…忘却プレイとでも呼ぶべきでしょうか」


 本来なら、存在を忘れられているのだから怒っても良いはずの場面なのだが、クティスリーゼは怒るどころか若干息を荒らせ、頬をほんのり染め上げて、何かを堪えるように自分を抱き締めて、もじもじと悶え始めた。

 忘却プレイとは何なのか聞こうかと思った瞬間、背筋が寒気に一瞬だけ襲われる。

 これは聞かない方が身のためだ、とソリトは訊ねるのを止める。


「あ…コホン。失礼致しました。昨日読んでいた小説に少々感化されてしまっただけですの。ですから、気にしないでくださいませ。特に、ルゥちゃんは」

「は…はい」


 ドーラやシュオン達とは別に、ルティアにだけ異様に圧が込めたような視線を向けて告げた。

 どうやら、クティスリーゼはルティアにだけは絶対に目醒めた性癖を知られたくはないようだ。


「さて。もうすぐ裁判が始まります。ルゥちゃん達は原告側ですので目の前の席に座ってくださいな」


 その言葉に従って、ソリト達は原告の席に腰を下ろし、クティスリーゼは階段を上がって戻っていった。


「聖女。【天秤】が裁判を仕切るのか?」

「はい。クティスリーゼは…」

「クゥちゃんですわ」

「…く、クゥちゃんは裁判を平等な目線で見る為に特別に裁判官として席を設けられるんです」

「それもそうか。てかあいつ地獄耳かよ」


 それから数分後、アポリア女王のロゼリアーナとクレセント妃のリリスティアが資料を持って法廷に現れ原告席に座った。

 そして、何故かステラミラ皇国の女皇ユリシーラがメイド服を着て原告席の側に立った。


「聖女。何で皇帝がメイドに扮してるんだ」

「私に聞かれても…」

「皇帝、何でメイドに扮してる?」

「ソリトさん大胆ですね」

「………」

「あ…久々の無視」

「私は皇帝ではなくルティア様のメイドですので同行は当然です」


 ユリシーラは表向きの理由を話す。


「本当の理由は」

「傍聴席だと他の方が畏縮するので」


 単純に人を気遣う理由だった。

 だが、本音と尋ねてもそれが本当の理由かは定かではない。とはいえ、それでは切りがない、とソリトはこれは以上は聞くことはなかった。


 それから、傍聴席にはラルスタや他にも大勢の人間が次々と法廷にやって来た。

 その中には少し前にアルスのオススメの観光地などを教えてもらったガイドのカナロアや防具で世話になったアランまでいる。


 だが、シュオンやグラヴィオース、カロミオの姿は見当たらない。

 シュオンはともかく、グラヴィオースは氷山での戦闘以外で絡みがない。というよりも今回の一件には何の関わりもないので傍聴席にいないのは当然と言えば当然なのだ。


 グラヴィオースに関しては公開裁判という事を知っていて裁判所に来たのかとソリトは思っていたのだが、どうやら違ったらしい。


「あっ!ソリトにいちゃーん!」


 そんな事を考えながら正面に向き直り、裁判が始まるのを待っていると傍聴席側から突然名前を呼ばれたソリト。

 パッと振り向くと、傍聴席向こうの扉から短髪で前だが、髪の端が跳ねたクセッ毛が特徴の少年が手を振っていた。


 少年はソリトが十歳の時に引き取られて孤児施設にやって来た子どもで、【調和の勇者】として王都に行く時は六歳。だが、今は十一歳らしい顔立ちと体格だ。他にも見覚えのある少年少女が六人いる。


 そして、その中心には修道服を来た老婆のシスターがいた。

 視線が合った次の瞬間、シスターに微笑みを向けられる。

 それよりもソリトはそのシスターと子ども達がこの場にいることに驚きを隠せず、反射的に立ち上がった後、そのまま目を大きく見開いた状態で立ち尽くして気付いていない。


「シスター……マリー」


 ソリトの口からぽろっと名前が溢れる。


 シスターマリーはファルと育った孤児施設での育ての親だった人物。

 その顔は五十代に見える風貌。

 本人によれば実年齢は七十代。

 そんな彼女は昔、クレセント王国の上位貴族令嬢だったらしい。現在は貴族社会の理由で王都から離れた後、辺境でシスターとして身寄りの無い子ども達を施設で養いながら共に生きている。

 その筈なのに、シスターマリーはこの法廷に子ども達とやって来ている。


 どういう事かとリリスティアに訊ねると、今回は公開裁判として開くらしく、シスターマリーと子ども達は近衛騎士団に命じて連れてきたらしい。

 続けて、何故連れてきたのかとソリトが尋ねれば、直ぐに分かりますという答えがリリスティアから返って来た。


 王族が単純に身内での裁判だからという理由で連れてくる可能性は低い。クロンズ側、もしくはクレセント王国国王グラディール側が関係していると考えるのが妥当だろう。そして、もしその予想が的中していた場合、おそらくそれは自分絡みで間違いないだろう。


「僕を誰だと思ってる!この枷をさっさと外せ!」

「何処なのよここは離しなさいよ!」

「あたし達が何をしたのぉ〜!」


 向かいの扉からファルとグラディールが大人しい中、クロンズ、フィーリス、アリアーシャが部屋越しでも聴こえる声量で喚き散らしながら、アルス兵達に首と手首に付けられた鎖付きの枷を引かれて法廷に現れた。

 三人だけの筈なのに、余りにも騒々しい声にソリトは考え事を止めて耳を塞ぐ。


「そこの三人の口を塞いでください」


 三人が法廷に入るなり、リリスティアはアルス兵に頼むように言った。

 そして、三人は言葉に従ったアルス兵に口に布を詰められながら巻かれ、更にもう一枚布をマスクのように口周りを覆って巻かれた。


「リリスティア!?何故此処にいるのだ!しかもそこな犯罪者といる!」

「言葉を慎みください」


 怒りで歪ませた顔でソリトを睨み付けながらグラディールが尋ねると、リリスティアは冷静な声で注意の言葉を掛けた。


「何故じゃ!……そうか【調和】に操られているのだな!」

「……グラディール……あなた、何故そこまで愚かに。あの人の口も発言時以外塞いでおいてください」


 そして、今度はグラディールの口が塞がれた。

 国王と言えど、この都市では立場はあっても権力は関係ない。

 別名、中立都市と呼ばれだけの場所である。

 容赦なくアルス兵は反抗するグラディールの体を押さえて口を塞いだ。

 ただ、その所為で口を塞がれた全員が殺意をソリト一点に集中して向けられる事になった。


 無視する程度だが、流石に余り気分の良いものでは無く、余りにも理不尽極まりない、とソリトは小さく溜息を吐いた。

 その時、階段を上った先の扉から黒い外套を纏った五十代程の男性と二十代半ばの女性が現れた。


 直後、ソリトやクロンズ達被告を除いた法廷にいる全員が起立し、裁判官席の方を向く。

 裁判官が椅子の前に立った後、ソリト達は一礼し、続いて裁判官席にいるクティスリーゼと裁判官二人が一礼を返す。

 合わせて被告人のファル、グラディールが一礼し、残りの三人は無粋にも座ったまま、ソリト達も再び席に座る。


「ではこれより、裁判を始めます。被告人の五人は証言台へ」

どうも翔丸です。


裁判描写って難しいですねぇ。

本来はもう少し進めている予定だったんですけど。

結局、裁判を始める所から上手く進まなかったです。


遅くなりすぎて、長く待たせてしまうのは(と書きながら待たせてしまいましたけど)私としても本望ではないので、投稿しました。


すいません。次回も進行はいつもより遅くなると思います。


進まなくても毎日少しずつ書いてはいます!

そこは断言します!

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― 新着の感想 ―
[一言] 他のメンツはどうでも良いけど、ファルの本意が明かされるのかなって思うとドキドキしてくるな。 やり方は本当に外道だったけど、主人公の覚醒のためだろうし、どんな秘密を握っているのだろうか。 やり…
[一言] 失礼しましたm(_ _;)m では、引き続き両方で読ませていただきます。
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