名も無き天空島
お待たせしました。
それと、前話で月夜の女性の呼び方の会話を加筆しております。
その呼び方はこの話数でも出るので加筆前に読んでくださった方でも安心して読めます。
「「ドーラよりも大きいんよ!」
「……そうですねぇ」
個体差はあれど、ドーラもいつかは巨大な体に成長する。
そう分かっていても、ルティアは目の前で巨大なドラゴンとなった夜を見て唖然とする。
夜もドーラと同じく自在に人型に変身が出来るらしい。
ただ、ドーラとは別のドラゴン。
全身は炎の様な物で漆黒に覆われており、はっきりと分かるのは金色の眼だけ。
不気味、怖いといった嫌なものは無い。
が、近くにあるがそこに無いような感覚を、ドラゴンへと姿を変えた夜に抱いた。
「はーいじゃあ乗って〜」
夜の声が考え事をしていたルティアの意識を引き戻す。
下に目線を落とすと足下に巨大な左手が下ろされていた。
右足だけを乗せる。
その瞬間、炎の様な物の中に足首まで沈み込んだ。
足下には氷山ではなくしっかり手の感触がある。
不思議な感覚、不思議な体験にホッと一息吐き、ルティアは左足を上げて夜の手の上に乗った。
続けてドーラも軽くぴょんと跳んで夜の左手に乗った。
「今から肩の所まで上げるけど、動いちゃ駄目よぉ」
「分かりました!」
直後、ルティア達はゆっくりと右肩の前まで上がった。
「【癒しの聖女】様、肩に乗る前に勇者様は私の手に下ろしてください。少し飛ばしますから」
言われた通りに、ルティアはソリトを夜の手に下ろしてから肩の上に乗り、背中の上まで移動する。
「準備は良い?」
「はい」
「やよー!」
「振り落とさないようには努めるけど、しっかりしがみついてね」
そう言って、夜は翼を大きく上に広げた。
ルティアもグッとへばり付くくらいに夜の背に密着する。
その瞬間、
「突貫!」
「へ?…ひゃ…!」
夜が凄まじい速度で飛び上がる。
ルティアが喚き声が空に響き渡らせていると、瞬く間に四千級の氷山が小さく見え始める高度まで到達した。
風圧が尋常ではない。
だが、ルティア達は落ちないようしっかりと夜の背中にしがみつけている。
ただきっとそれだけではないだろう。
先程夜が言った通り、落ちないように翼を細かな調整をしながら飛んでくれているのだろう。
とはいえ、風圧は少々強め。
思わずルティアは目を閉じる。
「雲の中に入るから気を付けて!」
「はぁい」
「はい〜!」
直後、外の空気は一層冷たく変化した。
初めて雲に入ったルティアは中の景色を一目でも見てみたくて目蓋を開けようとした。
しかし、凍えるような風と風圧が一瞬だけ目に入る。
その一瞬で目が少し乾いてしまった。
目に小さな痛みがほんの数秒生じる。
開けるのはまずいと、ルティアはしばらく閉じたままでいることにした。
徐々に体の熱が奪われていく。
それに比例して、ルティアのしがみつく両手の力も少しずつ入らなくなってきた。
「なんにも見えないんよ」
ドーラの方は声からして元気そうだ。手を離したりしていないだろうか。飛べるとはいえ、凄まじい速度の中では危険ではないだろうか。
一方で、衰弱しているソリトには過酷なのではないか。
ルティアは二人を心配しながら必死にしがみつく。
暫くして、閉じている目に僅かな光が射した。
「ルティアお姉ちゃん外にでるんよ!」
その瞬間、先程よりも強い光がルティアの目に差し込んできた。
ルティアはゆっくりと目を開ける。
「わぁ……」
「凄いんよ!」
そこは何処までも続いていそうな白い雲海の上。
小さく、けれど強く照らす星々が無限に広がる夜空。
見上げれば、後少し高く上がれば、手が届きそうな程の月がルティアの瞳一杯に入り込む。
違う世界にでも来たと思わせられる程の夜景に、ルティア達は心奪われ眺める。
「【癒しの聖女】様、ドーラちゃん。下を覗いてみて」
夜の背中を落ちない程度の場所まで移動して、下をゆっくり覗く。
「え…」
ルティアは目を見開いた。
若草の草原が広がり、点々と広がる小さな森林、中央には湖があり、その中心に半球状の緑色の浮島がある。
空に浮かんでいる事以外を除けば、地上と変わらない光景が広がる摩訶不思議な島が浮かんでいた。
「夜さん、あの島が」
「そう。あれがあたし達の目的地、天空島。名前はないけどね。そして、あたしの故郷」
夜の故郷であり、他よりも安全と言われ付いてきた目的地。
場所は分かった。
後はソリトを安静に出来る場所を探し、ドーラに手伝ってもらい、急ぎ地上へ降りて品質の高い魔力回復薬水を出来るだけかき集めなければいけない。
そう考えているルティアの手が握り拳に変わり、無意識に力を入れていた。
「それじゃ、二人とも島に降りるからちゃぁんと掴まってるのよ。振り落とされない様に頑張ってね」
そして、夜は右に急旋回して、ルティアの喚き声と共に天空島へと降下した。
もう少し書きたかったです。




