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異☆世界転生~愛すべきバカ共の戯れ!!~  作者: 高辺 ヒロ
第二部 異世界で暮らしま章      【魔王INTER:冬】
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第佰伍拾弐閑 くぅ気読めない

「終わったー」

「思ったより時間がかかったわね」

「疲れたのだ~」

 俺とラヴとクゥは畑を見渡しながら、揃って大きく息を吐いた。

 畑の地面は白から湿った濃い茶色に変わり。

 その上にはビニールのトンネルが、規則正しい間隔で、平行に綺麗に並んでいる。

 そしてその中にはたくさんの野菜が。

 幸い、致命的なダメージを受けた野菜はなかったらしい。


 俺達と同じく、エメラダもそんな畑を見渡しながら

「みんな……ありがとう」

 と呟いた。


「そんな、お礼なんて。いい運動にもなりましたし」

 既に使った道具を片付け始めている、ラヴ。


「楽しかったのだ!」

「そうだな。それに俺達も食べるものだしな」

 何より家族なのだ、その家族が困っていて助けを求めてるとあっちゃ、助けて当たり前である。


「にしてもラヴの言うとおり、本当にいい運動になったな。体が熱いよ」

 作業を始めるまでは、あんなに寒かったのに。

 そんなことを言いながらその場にしゃがんだ俺の背後から

「ひぇっ!?」

 突然冷たいものが頬に押し当てられる。

 驚いて振り返ってみれば、なぜかエメラダが俺の頬に雪だまを押し当てていた。

 そして彼女はいつもどおり、無表情の無感情で言う。


「アスタロウ……雪、ほんのり冷たい?」

「え? エ、エメラダさん?」

 彼女は戸惑う俺に追い討ちをかけるように、雪をグリグリと押し付ける。


「アスタロウ……雪、ほんのり冷たい?」

 相変わらず顔色もそして声色も平淡なまま。

 だけどどこか嬉しそうにも見えるし聞こえる。

 やっぱりエスメラルダさんはSメラルダさんだ。

 Mラダさんじゃなくて、Sメラルダさんだ。

 いや、SMラルダさんなのか?

 いやいや、SでもMでもなくNか。

 ノーマル。

 ではなく、ナゾ。

 彼女はサドでもマゾでもなく、ナゾだ。


「そ、それ覚えてたんだね」

 キュウリのときの。

 それなら傷口に塩を塗らないでって言ったのも、覚えていて欲しかったものだけど。

 塩なら傷口じゃなくて、畑に撒いてくれ。

 そうしたら塩化カルシウム的な効果で、雪融けも早くなるんじゃないかな。

 いや、それこそ炎害ではなく塩害で、野菜がダメになってしまうのか……。


「アスタロウ……雪、ほんのり冷たい?」

「いやエメラダさん、ほんのりどころじゃないです。雪、ホントに冷たいです」

「……そう」

「そうだよ、何ならエメラダも試してみる?」

「……いい」

「ですよね」

「……嫌」

「ですよね」

「……ね」

 エメラダはそう言うと、興味をなくしたかのように畑へ踵を返し、そしてラヴと一緒に使った道具の片づけを始める。

 いい、嫌、去ねって……。

 何それ、拒否の三段活用的な? いや、どちらかと言うと原級・比較級・最上級か。

 去ねとか、マジで最上級の拒否じゃないか。

 むぅ……ここまで拒否をされてしまっては仕方がない。

 おとなしく、エメラダの頬に雪だまを押し付けてみるとしよう。


 と、俺も雪だまを作りエメラダにそっと近づいた。

 しかし直前で、彼女はゆらりとこちらを振り返る。

 そして

「……なに?」

 と、眠たそうな目で俺を見上げ、見つめてくる。

 何度やっても。


「……なに?」

 何度やっても。


「……なに?」

 絶対に気付き振り返り、なに? と尋ねてくるのだった。


「い、いやぁ何でもないよ?」

「そう……」

 これは無理だ……。


「どうしたのだアシュタ? 何をしてるのだ?」

 打ちひしがれている俺に、何だか面白いものを見つけたといったような表情で近づいてきたのはクゥ。


「エメラダの頬に突然雪だまを押し当てて、驚かせてやろうかと思ってるんだけどな、なかなかバレずに近づけなくて」

 俺のスニーク力、スナーク力が足りないのだろうか。

 それともエメラダの察知力、感知力が凄いのだろうか。


「それなら投げればいいと思うのだ」

「おお、その手があったか!」

 それならば俺が近づくことがなくて済む分、見つかる確率も格段に低くなる。

 まあ、頬に当てられる確率も低くなるけど。


「ほらアシュタ、今がチャンスなのだ!」

 エメラダは丁度俺達に背を向けている。

 頬には当てられなくても、首筋くらいならいけそうだ。


「よし」

 いや、でもちょっと待てよ……。


「ダメだクゥ」

「どうしてなのだ?」

 当たったときの威力が、違い過ぎる。

 押し当てると当てるでは、同じ当てるでも全然違う。


「考えてもみろ。雪だまなんてぶつけたら、エメラダ怒るぞ?」

 怒ったらあいつが一番怖いぞ……。


「凍るのだ?」

「いや、凍りはしない」

 確かに雪だまを当てられれば冷たいかもしれないけど、凍りはしない。


「じゃあ大丈夫なのだ」

「大丈夫じゃねえよ」

 怒られるの俺だよ。


「早くしないとエメラダねーちゃんこっち向いちゃうのだ」

「いや、でも」

「アシュタがやらないならボクがやるのだ」

 言って、クゥは俺の手から雪だまを奪うと

「ちょ、まっ――」

「ちぇいっ」

「あ……」

 止める間もなくそれをエメラダ目掛けて投げ付けた。

 高速球の剛速球でエメラダの首の辺りに向かっていく雪だま。


「あぁあぁ……」

 当たる――!!

 と思ったがしかし、エメラダは目視することなく、うるさい虫でも払うかのように、片手で雪だまをはたき落とした。たたき落した。


「えっ!?」

「あらら、バレちゃったのだ」

 どうやら俺のスニーク力やスナーク力が足りないのではなく。

 エメラダの察知力、感知力が凄いだけだったらしい……。

 そのまま振り返ることなく、何事もなかったかのように納屋へと荷物を運んでいく彼女。

 一体あいつは何なんだ……普段はボーっとしているくせに、いざとなったときのあの力は。

 本当に、ナゾだ。



 納屋から戻ってきたエメラダは俺に言う。

「アスタロウ……カタヅケヲヤロウ」

 やっぱり何事もなかったかのように、いつもどおりの表情で、感情で。

 それが逆に、とてつもなく怖かった。


「は、はい。ヤッタロウ……です」

 ただクゥとかいう名前のわりに、空気の読めないケルベロスは俺の隣で

「アシュタアシュタ、次は誰を狙うのだ? ラブねーちゃん?」

 とか、意味の分からないことを言い始めている。


「もう誰も狙わないよ!」

「どうしてなのだ?」

「よーく考えろよ? ラヴも、雪だまなんか当てたらキレるぞ?」

 そしてもちろんキレるどころか、本当に斬られる。


「冷えるのだ?」

「冷えるじゃない、キレる」

 確かに雪だまを当てられれば、多少冷えると思うけど。


「キレる?」

「そう、カチンと来るってこと」

「カチンと凍るのだ?」

「凍りません」

 何度も言うけど、雪だまを当てられて冷えはしても、凍りはしない。


「じゃあ大丈夫なのだ」

「大丈夫じゃないんだよ!」

 キレられるの俺なの! 斬られるの俺なの!

 大体何なんだよその『凍らなければOK』みたいな判断基準!

 ただ俺が突っ込んでいる間に、クゥは雪だまを作り

「ちぇいっ」

 背を向けたラヴに向かってそれを投球してしまうのだった。


「あぁあぁ……」

 当たる――!!

 と思ったら

「きゃあ!?」

 普通に当たった。

 ポニーテールを突き抜け、後頭部にクリーンヒットした。


「冷た……」

 頭をさすりながらこちらを振り返るラヴ。


「ちょっと魔王! アンタ何すんのよ!」

 そして俺を睨んでそう叫んだ。

 隣のクゥには目もくれない。


「お、俺じゃない!」

「うっさい! 嘘おっしゃい! アンタ以外に誰がこんなことするって言うのよ!」

 クゥがこんなことをします。

 多分ネネネもします。

 ルージュもすると思います。


「このバカっ」

 言って、ラヴは雪だまを投げつけてくる。


「ちょ、危ない。やめろラヴ」

「アンタがやってきたんでしょ」

「だから俺じゃ、うぉっ」

 鬼の形相で、何球も何球も。

 軟球ではない、ガチガチに固められた硬球だ。

 “氷球”と書いて“こうきゅう”と読みたいほどに固められた、雪のたま。


「くっそぉ」

 俺じゃないって言ってるのに。

 仕方がない、こうなったらやってやるしかない。

 この庭と畑みたいに、白黒はっきりつけてやる。

今日も読んでいただき、ありがとうございました。

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