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CROSS WORLD ―五世界交錯のレキハ―  作者: 数札霜月
第二章 第二世界イデア
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エピローグ

「………………あれ?」


 心地よいまどろみの中を漂っていたミシオは、ふと自分の状態に疑問を持った。

 ゆっくりと目をあけ、手足に力を込めてみる。自分の寝ている布団を掴む確かな感覚。ゆっくりと力を込めて起き上がる体は、確かに自身の生存を意味していた。


「起きんな」


「ひゃっ!?」


 背後から突然頭をつつかれ、ミシオは情けない悲鳴を上げる。うつ伏せに寝ていたため気が付かなかったが、どうやらそばに誰かがいたらしい。


「まだ傷が治ったばかりなんだから、無理して起き上がろうとするな」


「え? ……あ、うん……。うん? 傷?」


 言われてうつぶせに寝たまま背中の感覚を探ってみる。だがそこにあのとき切りつけられた傷の痛みは感じられず、わずかな違和感のみが残っていた。


「あれ……、夢?」


「夢オチを疑ってるのか? ちなみにどんな夢だった?」


「え……と、海に潜ってたらすごくおいしそうな大福が泳いでて、銛で突こうとしたら二つに分かれて、その後も何度突こうとしても二つに分かれて避けられて、最後にたくさん増えた大福が集まって大大福になって、それに飲み込まれて、中からだとあんこしか食べられなかったからおもちも食べたいと――」


「いや、もういい。それは確かに夢だ」


「え、あ、そうじゃなくて、私、背中に怪我をしていたはず……」


「それなら治したよ」


「……え?」


 意味がすぐに理解出来ず、ミシオは相手の顔を見ようと顔の向きを変える。だが、相手がいる場所は自分の足元であるためどうしても顔までは見えない。


「背中の傷はとりあえず気功術で出来る限り治した。多分もう痛みもないと思うけど、一応もう少し寝てろ」


「あ、うん」


 そこでようやくミシオはそばにいるのが智宏なのだと悟った。声の調子や雰囲気は若干違うためわからなかったが、そうだと判ってしまえばそれらしい特徴の方が目につく。


「あ、えっと、ありがとう」


「どういたしまして」


「助けてもらうの、これで何回目?」


「さあ。どこからどこまでを一回とするかにもよるな。まあ、どのときもこっちが勝手にやったことだから、礼なら今の言葉だけでいいよ」


「え? あ、うん。……えっと……?」


 そこに来てようやくミシオは智宏の声が普段より気だるげなのに気がついた、先ほどから感じていた違いはどうやら声から元気が感じられず、どこかいい加減な口調だったことが原因らしい。

 そのことが気になってミシオはもう横たえた体に一度力を込める。背中の怪我に気を使いながら身を起こし、今度こそ背後を振り返った。


「……起きんなって言っただろう……」


 そこに居たのは確かに智宏のようだった。だが、その顔はあちこちが腫れあがり、絆創膏と湿布薬でビッチリと固められている。座り方も畳の上に座布団を敷き、壁に力なく寄りかかるように座ってようやく起きているといった様子だった。

 ついでに周りの風景を見ることができ、そのおかげでようやくここがどこかを知ることができた。どうやら自分が寝かされているのは村にあるハマシマ家、本来の自宅の一室らしい。危険と考えて近寄らないようにしていたため随分久しぶりだったが、自分が住んでいた家を見間違えるようなことはない。

 いや、それよりも、


「トモヒロ……? どうしたの、その顔?」


「……どうしたもこうしたもないよ。あのエイガって奴の連れてた変な奴に、いやって言うほど殴られた」


「あ、えと……、ごめんなさい」


「別にミシオが謝ることじゃないよ。まあ、謝るくらいならあんな危ない場所に飛び込むなとは思うけど……、でも、ちゃんとそれに関しては答えを聞いたしな」


「……あ、う……」


 気を失う前、智宏に自分が伝えたことを思い出し、ミシオは思わず赤面する。あのときはほとんど遺言のような気持で話してしまったが、こうして生き残ってみると微妙に恥ずかしい。


「……えっと、それはいいとして、その顔、なんで自分で、治さなかったの? 私の怪我みたいに」


「ああ……、えっと、それはな……」


 ミシオの当然と言えば当然の質問に、なぜか智宏は言いよどむ。ミシオがそのことをいぶかしんでいると、家の廊下を誰かが歩く足音が聞こえてきた。

 すぐさま、ミシオ達がいる部屋のふすまが開く。


「おっ、ミシオちゃん、目が覚めてたのか」


 現れたのは、金髪とメガネ、そして智宏とおなじ長い耳を持つ男、レンドだった。


「っていうかトモヒロ、お前まだ寝てなかったのか? いい加減にしないとぶっ倒れるぞ」


「いや、ミシオが目覚めるのだけ確認しないと安心できなくてさ」


「ミシオちゃんの容体は医者が大丈夫だって言ってたじゃないか。それより問題はトモヒロの方だよ。流石にそろそろ休めって」


「分かってるよ。そろそろ寝ようと思ってたところだ」


「……? ……? ……どういう、こと?」


 二人の会話について行けず、ミシオは疑問の声を上げる。するとレンドは、トモヒロを指差しながらニヤリと笑ってこう告げた。


「こいつ、夕べミシオちゃんが倒れてから徹夜で背中の怪我の治療してたんだよ。それこそ刻印と治療に、残ってた魔力を全部つぎ込んでな。おかげで医者が駆け付けたときにはほとんどやることが無くて、輸血だけして入院の必要もなくなってたって訳」


 それを聞いて、ミシオは智宏がどこかけだるげだった理由をようやく理解した。

 簡単な話、智宏はミシオの治療に魔力を使い果たして疲れ切っていたのだ。それならば自分の顔の治療ができていないことも納得できる。恐らく自分の顔の治療をするだけの余裕と魔力が無かったのだろう。


「あ……、えっと、本当にありがと」


「……どういたしまして」


「あれ? もしかしてトモヒロ照れてる?」


「なんでだよ……」


「いやぁ、トモヒロって基本的に礼を言われるとき目をそらす癖があるからさぁ。もしかして結構照れ屋な人?」


「余計な御世話だ。……っていうかお前、一体何しに来たんだよ!? 昨日の後始末は終わったのか?」


「ん? ああ。そっちはとりあえずひと段落したよ。だからこうして様子見がてら状況を伝えに来たんだ。この際だから、智宏も寝る前に聞いとくかい? まあ、ミシオちゃんが良ければだけど」


 その言葉に、部屋の中の空気が若干硬いものに変わる。ミシオは少しだけ意識的に呼吸をして、小さく、しかし確かな強さで頷いた。


「オーケー。んじゃあ、まずはトモヒロも知ってる話から。まずはミシオちゃんが倒したサデンエイガ。彼はあのあと村の人間たちに拘束されてそのままこの世界の警察に引き渡された」


「捕まったの?」


「ああ。それとトモヒロを襲撃してた葉鳥って能力者の女も海を漂ってるのを発見されて一緒にね。こっちもいろいろ余罪があったらしい。ただ、エイガに協力してた『渦』を名乗る空間移動能力者(テレポーター)の男は見つからなかった。どうやらトモヒロに倒された後意識を取り戻してどこかに姿をくらましたみたいだな」


「まあ、こっちも拘束してる余裕が無かったから仕方ないって言えば仕方ないか。そう言えば僕が蹴り飛ばした武器の方はどうなった?」


「そっちは回収できた。智宏の予想どおりウートガルズの武器だったよ。どういう形でかは知らないが、これで奴らが五世界全部に関わっていることが判明した訳だ」


「……」


 二人の会話に、ミシオは本当に大変なことに巻き込んでしまったと実感する。危険を冒してくれているのは知っていたが、話を聞くと予想以上にまずい事態だったのかもしれない。


「それで、こっからは新情報なんだけど、サデンマクラが村の東の海で遺体で発見された。まあ、これに関しちゃエイガ自身が始末したって喚いていたらしいから、もしかしたら知ってたかもしれないけど」


「……うん。言ってた……」


 あらかじめ聞いていたこととはいえ、自分を苦しめていた人間のあっけない最後にミシオは複雑な思いを抱く。相手が相手だけに悲しみこそ感じないが、それでも死んでしまったという事実は重く感じられた。


「大丈夫かミシオちゃん?」


「え? あ、はい」


「うん、暗い話ばっかりだったから明るい話もしようか。昨日ミシオちゃんの前に病院に運ばれてたイソモリカイルくんだけどね。彼はちゃんと一命を取り留めてるよ。応急処置として智宏に気功術の治療を受けていたせいか、ミシオちゃんほどじゃないけど早く治りそうだ」


「……そう。よかった」


 カイルの無事に、ミシオはほっと胸をなでおろす。今回の事件で一番危険な状態だったのはミシオとカイルだ。もう一人であるカイルも無事だという情報はミシオにとって最大の安心材料だった。

 そしてそれは、治療した智宏にしても同じだったらしい。


「安心したよ。【集積演算(スマートブレイン)】で思い出しながらとはいえ、一度見ただけの技術だったから、正直うまく行ってるかどうか不安だったんだ」


「いやぁ、正直本場のエデンの医者並みにうまく行ってたと思うよ? 特にミシオちゃんの治療なんてたいしたもんだ。まあ、おかげで医者に説明するのが大変だったけど」


「そう言えば最終的になんて言い訳したんだ?」


「そう言う能力だって言っといた。この世界じゃそれである程度納得してくれるから便利だな」


「お前らって異世界人の存在を知らしめる仕事をしてるんじゃなかったっけ?」


 智宏の発言に、そう言えばとミシオも疑問を抱く。彼らは異世界の存在をその世界の人間に伝え、国交を樹立することを目的に活動していたはずだ。それを考えれば今回のことはある意味チャンスだったようにも思える。


「事情を知らない人間には、異世界の技術が絡んで起きた事件なんてマイナスイメージでしかないよ。そんな形で俺らのことを広められても迷惑だ。……ああ、ただ、村の人間には多少異世界のことを説明しておいたぞ。こっちに関しては異世界の技術はプラスイメージとして伝えやすかったからな」


「プラスイメージって何だよ?」


「何ってお前に決まってんじゃん。村人でもないのにミシオちゃんのピンチに駆けつけて、おまけに流れとはいえ一時は村人と共同戦線張ってたんだろう?

村の中じゃお前、軽くヒーロー扱いされてるぞ」


「……マジかよ」


 その事実に智宏は困ったように視線を宙に彷徨わせる。どうやら照れ屋というレンドの読みは当たっているらしい。絆創膏と湿布の間からのぞく彼の顔が若干赤みを帯びているようにも見える。


「まあ、トモヒロの存在があったから、村の人間にはこれから異世界のことを伝えて協力を仰いでいけそうだ。そういう意味では今回の事件、危ない橋を渡るはめにはなったけど、こっちが得られたものは大きかったな。村一つに協力が得られるなんて、大分仕事がはかどる」


 そう言ってレンドは二人に対してニヤリと笑って見せる。どうやら彼らは今回のことからしっかりと利益を上げていたらしい。

 同時に、以前異世界との繋がりが利益を生み出すと言っていたのを思い出す。もしそうなら、あまり豊かとも言えないこの村も少しは豊かになるかもしれない。そう思うと、今回のことを少しだけ前向きに見られる気がしてきた。


「まあ、これで一応報告することは全部かな。後は、今後のことについてなんだけど……」


「今後?」


「僕の帰りの話か?」


「いや、それはあまり話すことはない。話の中心はほとんどミシオちゃんだ」


「私?」


「そう。まずこの家の財産について。知ってのとおり、今まで財産を管理していたサデンマクラは死亡してしまった。まあ、この件に関してはいろいろ問題があったようだからそっちも何とかしようとは思うんだけど、とにかくミシオちゃんの遺産相続の件で俺達の協力者の中から一人、弁護士を紹介しようと思う」


「弁、護士?」


「そう。頼むのは主にミシオちゃんが相続するまでの財産の管理と、サデンに不正使用された分の回収。それと今回の事件で発生した被害の対応なんかだ。紹介する弁護士は俺達と親交のある奴で、この世界へのアプローチを行うにあたっての法律的な助言なんかもしてくれている奴だから信用できる。ミシオちゃんの許可さえあればお膳立ては全部整えてあげられるし、費用もこっちで持つ用意があるから負担もかからないと思うんだけど、どうだろう?」


「えっと、私は、村の人たちの借金さえなんとかできれば、それでいいから。だから、それさえしてもらえるなら、お願い」


「オーケー、まかされよう」


 レンドの言葉によって肩の荷が下りたような感覚を感じ、ミシオは少し胸を撫で下ろす。法律のことはよく判らないが、レンド達なら信用してもいいだろう。


「それともう一つ。こっちは少し面倒な話なんだけど……」


「なに?」


「実は前の世界でも話したように、ミシオちゃんを凶悪犯罪の重要証人として保護したい。具体的な方法としては異世界に移住させる形で」


 突然レンドから、以前にもあった話を持ち出され、ミシオは自分の心臓が高鳴るのを感じる。

 そしてミシオが何かを言うより先に、隣で座っていた智宏が声をあげた。


「ちょっと待てよ。なんでこの期に及んでミシオを異世界に行かせる必要があるんだ? やっとミシオはこの村で暮らせるようになったのに!!」


「確かにサデン親子と問題は肩がついたけど、それは行ってみればミシオちゃんが元から抱えていた問題だ。でも、俺達はもっと別の、砂殿栄河と繋がっていた件の組織が、今回のことでミシオちゃんの生存を知って始末しにくる可能性を無視できない」


「っ……!! それは……」


 言われた言葉に、トモヒロも反論できずに沈黙する。確かにサデン親子が異世界の犯罪者たちと繋がっていた以上、彼らにミシオの居場所がばれている可能性は高い。そうなれば、彼らがミシオを殺すために人を送り込んでくる可能性もある。そしてそうなれば、


「村の人たちも、危なくなる」


「ミシオ……」


「そういうことだ。だから、できればミシオちゃんには僕らの保護が受けられる範囲、具体的には異世界に移り住んで生活してもらいたい。もちろん――」


「――行く」


「ミシオ!?」


「……意外に決断が速いね」


「でも、その代り、行きたい世界があるから、そこに」


「ちなみにその世界は?」


「第三世界、アース」


「え!?」


 ミシオが出した名前に、トモヒロがキョトンとした顔をする。だがレンドの方は半ば予測していたのかそれほど驚いてはいなかった。むしろその表情には笑みさえ浮かべている。


「ミシオちゃんが希望するならこっちとしてはオーケーだよ。というか、もともと住んでもらう世界の候補としてうちのオズとアースが上がってたくらいだからね。オズの方が守りやすいけど、文明の形態とレベルが似ている分アースの方が住みやすいだろうし」


 言われてみれば確かにそうだろう。アースは若干進んでいるとはいえこのイデアとよく似た世界だ。それに対してオズは魔術によって成り立っている世界。魔術など使えないミシオにとっては住みにくい世界だろうし、何より外見的な特徴の違いで目立ってしまう。だが、ミシオにとってはそんなことよりももっと重要な理由があった。


「誘って、もらったから」


「へ?」


「トモヒロに、誘ってもらったから。私、アースに行きたい。トモヒロのいる世界に」


「え? ……あ! えっと……、あ、なななな……」


「ぷっ、く、くふふ、うっく、ぷははははは」


 ミシオの発言にトモヒロが慌てるなか、レンドは吹き出し、やがて我慢できずに笑いだす。どうやら彼にとってミシオの言うことはツボにはまるような出来事だったらしい。


「ああっ! いいよ。いいとも。アースだね!! うん。そのように手配しよう!!ああ、それにしてもトモヒロ、お前もなかなかやるじゃないか」


「やるってなんだよ!? 僕は特に何もしてないぞ!!」


「いやいや、そんなことはないだろう? 何だっけ?『僕の世界に攫って行くんだ!!』だったっけ?」


「うっ!! いや、あれはその、勢いに任せて言ったというか……」


「……え? なに? 何の話?」


「ん~? いやいや、智宏が熱血してた時の話だよ」


 レンドの話の意味がわからず、ミシオは頭の中を疑問符で満たされる。

だが考えていて、ふと自分がアースに行きたいと考えるようになったきっかけ、トモヒロに誘われた時のことを思い出す。

『――僕がお前を幸せにしてやる』

あのときは普通に断ってしまったが、よく考えてみるとあれはまるで……、


「…………あう」


 その可能性を考えてしまい、ミシオの顔が熱くなる。そういう意味ではないとは思うが、どうしてもその可能性が頭を満たす。


「……おいおい、なんかマジな反応だな。初々しいけど嫉ましいわぁ。よし、じゃあ最後に一つ暴露話を一つ」


「なんだよいきなり?」


「?」


「ミシオちゃんの今着てる服、いつ着替えたものでしょうか?」


「服?」


 言われ、ミシオは今の自分の服装が意識を失ったときの制服ではなく、村で寝間着代わりによく使われる浴衣であることにきがつく。とはいえ制服は背中が裂けている上に血まみれだ。恐らく治療のときにでも着替えさせられたのだろう。


「続けて第二問!! ミシオちゃんの治療をしたのは一体誰でしょうか?」


「ぅおい馬鹿!!」


 智宏がレンドの意思を悟って激しく反応する中、それを見たミシオもようやくレンドの言わんとしていることを悟る。

 先ほどからの話から推測できる事態、何より、気功術という技術が、怪我をした箇所に触って魔力を流し込むものであるという事実。


「え、あ、ま、まさ、ひゃ、む、剥かれた!?」


「いや、その表現は勘弁してくれ!! 一応治療行為だから!!」


「さらにさらに!! ミシオちゃんが溺れたという話でしたが、トモヒロはそれをどうやって介抱したのでしょうか!?」


「レンドォオオオオオ!!」


 智宏の叫びにミシオはどんどん顔を上気させる。口元を押さえ、その事実の飲み込みに四苦八苦する。考えてみれば、溺れた人間の蘇生法など限られている。


「ひゃ、あ、あああ!!」


 さらにミシオは思い出す。あのときは気にする余裕もなかったが、智宏には一度着替えを見られているのだ。

 次々に思い出される、昨晩のほんの数時間の間に起こった痴態の数々。

そして致命的なのはトモヒロの刻印が【集積演算(スマートブレイン)】という記憶力を(・・・・)完全なものとする能力(・・・・・・・・・・)であることだ。


「ぅううううううううう!!」


 その瞬間、ミシオは顔が燃え上がるのを感じた。炎の代わりに黒い魔力を吹き出し、いつの間にか握りしめていた布団を蹴り飛ばす。


「ぶあっ!?」


 蹴り飛ばされた布団をまともにくらい、智宏は畳の上に転倒する。魔力による強化も相まってかなり強く投げられた布団を食らった智宏は、倒れたままぴくりとも動かなくなった。


「え? うそ……!!」


「っておいおい……。ってなんだ。寝てるだけだよ。今のショックで流石に限界を迎えたらしい」


 布団をめくって智宏の様子を見たレンドはそう言って布団を返し、智宏の体を持ち上げる。どうやら別の部屋に寝かせるつもりらしい。


「そんじゃ、いい感じにオチがついたところで、俺はそろそろ帰るよ。ミシオちゃんも、後で食事を持ってくるようにしとくから、今はもう少し寝てなよ」


 そう言いながらレンドは智宏を担いだまま、襖をあけて部屋を出る。後には顔を真っ赤にしたまま、どうしようもない羞恥にもだえるミシオだけが残された。


「――――――――!!」


 恥ずかしさを紛らわそうと、ミシオは布団をかぶって顔を隠す。

 だが、赤く染まった顔には、うっすらと笑みが浮かぶ。久しぶりに明日を楽しみな物と感じられた瞬間だった。


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