表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/37

リーダーと経験値

 その言葉にツッコム人は誰もいなかった。

 漫画やゲームの中なら当たり前だが、今この現実にゴブリンがいたら誰だって日本ではないと、地球では無いと思うに違いない。

 ゴブリンと分からなくても自分の常識の範囲外の生き物に襲われたら動けないし恐怖も覚えるはずだ。


「俺は一回金ダンから出たことがあるんだ」


 だが、この言葉には誰しもが機敏に反応した。


「はぁ?」「はー?何言ってん?バカなの?」「確かに笑えねぇ冗談だな」


 それもそのはず、分かっていたがこう言うしか無かったのだ。彼ら彼女らは金ダンから出てこられた人間がポールただ一人だと思っているから、だから信じられないはずだ。

 確かにポールは世間に出たが、世の中には公表はされて無いものの金ダンから出てこられた人は他にもいるはずだ。事実信志、寿音の他にも知っている。


「いや、まぁ……今はまだ信じて欲しいなんて思ってないけど、進んで行くと分かるはずだよ」


「進んでって言うとポールが言ってたように上るのかい?」


 その中でも至って真剣に秋作は質問を投げてきた。


「俺が前に入ってた金ダンはそうだったし、多分今回もそうだよ」


 そう言って信志が指さす方には階段と扉が出現していた。


「とりあえずあそこに入ろう。そしたら少しは安全な筈だ」


 秋作はこくこくと頷いているが、他の人は怪訝そうな面持ちで腕を組んでいたり、睨んだりと散々だ。

 だがそれでも納得したのか、秋作は又指揮をとりはじめた。


「よし、じゃあ信志君の言う通りにあそこに入ってみよう。他に脱出方法も分からないからね」


「分かったわ、だけど一ついいかしら」


 渡邉も何とか納得したが、続けて一つ発言した。


「リーダーを決めないかしら?」


 その発現はシンプルで、確かにこの人数なら一人頭を決めておいても問題ないだろう。


「俺は賛成だな」


 リーダーはただ、まとめられることが出来るだけではなく、それ相応の力も求められる。そうなれば、この場では必然的に信志となるのだがーーー。


「でも、貴方はリーダーには向いてないわ」


 そう言って渡邉は信志を指さした。


「な、なんでだ?俺は信志でもいいと思ったけどよ」


 谷村紙は一応信志の実力を認めているのか、信志に票を入れようとしていた。


「あたしはきょーみないっすけどー」


 女子高生達は非協力的だ。百合子達は三人で、しかも中心核に百合子が居座っているので、百合子が何か言わなければあまり動かないだろう。


「なんでって、貴方はまだ子供でしょ?その、変な力があるからって歳上の方が偉いのよ」


 年齢の事を言われるのは痛いが、まだ渡邉はよく分かっていない、ここが日本という一国の法律が適用されないということに。

 日本、世界でも歳上の方が偉いというのは一般常識だろうが、ここはいわばいつもの世界とは別の世界。力が強いものが絶対なのだ。


 だが、ここで言い合っても何も起こらない。それに、今は一致団結することが最優先だ。

 信志は一歩引いて言葉を返した。


「確かに、俺は歳下だからリーダーにはなれないよ」


「信ちゃん」


 信志の心中を察してか寿音が声をかけてくるが、信志はその声を手で制した。


「分かってるならいいわ」


 渡邉はふんっと鼻を鳴らすと、仕切り始めた。


「それで、リーダーを誰にするかだけどーーー」


 渡邉は信志に背を向けると、他の人を集めるように手招きをしながら話を進めていった。


「大丈夫なの?」


「気にするな、俺らだってよく分かるだろ?子役の時もそうだったし、同じだよ」


「ならいいけど……」


 寿音は心配の眼差しを向けてくるが、その頭をぽんぽんと叩いた。


「ーーーだけど、そう」


 渡邉は話の途中で振り返りもせずに信志に話しかけた。


「貴方にも発言権はあるわ。早く来なさい」


「はいはい」


 信志は寿音の手を握り歩み寄った。



 話し合いは予想以上に早く済んだ。結果、リーダーとしてまとめるとは渡邉となったが、それに対して秋作でもいいんじゃないかという意見もあったが、渡邉が言いくるめて結局秋作にはならなかった。


「さてと、話し合いも終わった事だし、何?野守?が言ってた通りあの扉を抜けましょう」


 渡邉の明らかな信志への敵意を無視しながら、信志は話だした。


「そう、あそこに入れば数時間は何も無いはずだ」


 信志を先頭にして最後に渡邉という形で扉の中へと入っていった。

 やはり、中は暗闇で包まれており限りなく安全になっている。


 この中で襲われる事は低い事には確信がある。金ダンをコントロールしている側からしたら理不尽に死なれるのは避けたいからだ。

 β世界の事情で人員確保がしたいから、そのために戦闘で弱者は削り強者のみを残そうとする、合理的だが最善とも言える。


 何人か暗闇に入っていくことには躊躇や抵抗があったが、何とか全員に入ってもらった。

 各々少なからず恐怖を覚えているが、そんな中信志は口を開く。


「皆に聞いて欲しいんだけど」


 バラバラに壁に寄りかかっている全員の視線が信志に集中した。


「なによ」


 ここはリーダーである渡邉が返してきた。


「ここが金ダンって言った事は信じてもらえなくてもいいんだけど、これから話す事はよく聞いて欲しい」


 一呼吸おいて。


「まず、俺が何で強かったかから説明するーーー」


 信志は、武器の事、魔力、それにさっきの敵は何だったのかまで事細かく説明した。だが、寿音の事は何も話さなかった。面倒くさくなるのはごめんだからだ。


「なんだつまり、貴方が強かったのはその剣のおかげなのね。やっぱり貴方がリーダーじゃなくてよかったわ」


「まぁ、そうなんだけど……他にも武器はあるんだ」


 そう言って信志はリュックから薙刀を取り出した。次いで近くに置いてあった箱を開けると、盾が入っていた。


「これも全部そういう力があるんだ。剣以外は試してみないと何とも言えないけど」


「そう、で、誰が戦うの?まさか私達女性に戦わせるつもりは無いんでしょうね?ねぇ寿音ちゃん?」


 意外にも寿音の名前を覚えていた渡邉は仲間を増やそうと寿音に問いかけたが、寿音の反応は違った。


「別に」


 寿音の素っ気ない否定に渡邉は一瞬固まったが、直ぐに話だした。


「あらそう、でも寿音ちゃんはまだちっちゃいから守ってもらいましょうねー?」


 相変わらず寿音は素っ気なく、そして無言を貫いた。


「それなら、この二つは男性が持ってた方がいいか」


 信志は剣をリュックの中にしまうと、盾、それに薙刀を両手に持ち突き出した。


「僕が薙刀でいいですか?昔習ったことがあってて」


 突き出してすぐに受け取ったのは秋作だった、薙刀をしていたとなると戦力としての期待が大きい。それに現役の警察官となれば一般の成人男性より体力もあるだろう。


「谷村紙さんも薙刀の方が良かったですか?」


「いや、俺は運動苦手だから、盾の方が良かったよ」


 渡邉の言う通りに武器は全て男性が持つことになったが、問題なく配分することが出来て安堵した。


「谷村紙さんに、春風さんちょっと寄ってもらっていいですか?」


「僕の事は秋作でいいよ」


 この部屋は狭いが、武器の性能を試すぐらいの広さはある。


「まず、ボタンがどこかに付いてる思うんですけど、押してみて下さい」


 アドバイスをしてから一呼吸おいたぐらいで、まず谷村紙が声を上げた。


「な、なん……力が(みなぎ)ってくる」


「これは、すごいですね。しかももう一つボタンがーーー」


 秋作がボタンを押したであろうその時、何か液体のようなものが信志を襲う。それは冷たく、口に入ったが無味である。

 謎の液体による襲撃が終わった後には ポタポタという音だけが響いていた。


 こちらを見ていたのか女性陣も黙り込んでしまった。


「す、すみません、大丈夫ですか!?」


「大丈夫……です。たぶん水ですね、これ」


 水属性と言ったらいいのか、この薙刀は水を生み出す力を持っているらしい。


「そんな事より風邪ひきますよ。僕の服を着てください」


 秋作は慌てて上着を脱ごうとするが、信志はそれを止めた。


「戦いが始まれば汗もかきます。気になりませんよ」


 笑顔でそう答えると秋作は申し訳なさそうに縮こまる。秋作の優しさはよく分かるが、戦いになればどんな攻撃が来るかわからない。

 今は少しでも肌身を守るものを纏っていた方が良い。


「この盾は他には何も付いてないけど何ができるんだ

 ……?」


 秋作が使う薙刀の性質は分かったが、谷村紙の盾は未だに何もわからない。


「盾なので守る事に関係があると思うんですけど……」


 やはりわからない。


(俺が初めて金ダンに来た時にされた武器紹介と同じ状況だな……。すみません)


 信志は心の中で謝罪をする、すると部屋に入ってから数十分しか経っていないというのに久しぶりの光景が目に入る。

 薄暗い部屋が闇だとするならば一瞬でその闇を霧散させる程の光量が視界を覆った。


 これは先の部屋に敵が現れた合図、光に照らされて各々の表情が良く見える。焦り、不安、恐怖といった負の感情が顔から滲み出ている。


「行きましょう」


 信志が先行した。恐怖に包まれている中で挑戦する事は難しい事だ、このままでは誰も進むことが出来ないと思った。

 通路を抜け奥にある広いスペースに出る、そこは前の階よりかは広いが他は何も変わっていなかった。


 床、天井、壁に至るまで真っ白に塗装され白い光がこの部屋を満たしている。

 信志が先行してからすぐに寿音が続き、谷村紙に秋作、その後にやっと渡邉を先頭に女性陣が姿を見せた。


「敵は……ど、どこなのよ」


 渡邉の口調には恐怖からの焦りを感じる。


(ほんとにこの人がリーダーでいいのかな……)


「前の時と同じなのかな?」


 信志の経験上始めっからその場に敵がいなければ不意打ちにでも出現してきていた。ゴリラ型生物のように魔力不足で不意打ちされれば危ない。


「これから出てくるはずです、気を抜かないようにして下さい」


 信志は背負っているリュックから抜刀しボタンを押す。それを見て慌てて谷村紙と秋作もボタンを押した。

 このだだっ広い部屋の入口付近に女性陣は固まり、それを覆うようにして男三人に小学生が一人という妙な陣形でその時を待った。


「おちびちゃん大丈夫?君は武器持ってないんでしょ?」


 百合子が話しかけているが寿音は無言だ。

 まだ心を開けていないのか、渡邉の時と同じだ。


「来ましたよ!」


 秋作の声が一喝する。上空を見る秋作の視線の先には無数の影が見えている。それは瞬く間に距離を縮めそしてゴブリン同様に着地をする。

 正面向かって綺麗な白色の毛に覆われているが、背中や尻尾は赤茶色に染まっている。


 顔はゴブリンとは違い突き出した口の先に鼻がついている、まるで犬のようだが二足でしっかりと地面を捉え直立している。

 それに片手にはサーベルを握っている。


「コボルトね」


 寿音がぼそりと呟いた。やはり寿音はβ世界の生き物に関しては信志よりも詳しい。


 コボルトは一匹、また一匹と徐々に数を増やしていく。その数は二十匹程だろうか、全匹が着地すると信志達に一番近かったコボルトが吠えた。ワンともキャンともないガオーンという鳴き声は明らかに敵意を持っている。

 その声につられて他のコボルトも声を上げる。


「てかてかてか、あたしたちほんとに大丈夫なわけ!?なんかいっぱい降ってきてるんですけど」


「そ、そうよ!本当に守れるわけ!?」


 百合子はともかく、自分は武器を持たないと、男性に戦わせるようにしたのは渡邉なのに責めるような事を言われると少しイラッとくる。

 イラッとはくるが、冷静に感情を押し殺す。


「守りますから大丈夫です、秋作さんに谷村紙さんはあまり無理をしないようにして下さい。行くぞ寿音」


 信志は寿音と共に駆け始めた。コボルトの得物はサーベルで、防具は軽装であり露出度はかなり高い。

 サーベルと牙にさえ気を付けていれば攻撃を貰う事は無いだろう。


 先に仕掛けたのはコボルトだった。コボルトは振り上げたサーベルを大きく振り下ろし、信志の脳天をかち割ろうとしてきたがこれを瞬時にナイフの形にした剣で受け止めて流した。

 勢いのまま体が流れていくコボルトに対して信志は背面に回り込みながらうなじを一突き。


 コボルトにとっては致命傷だろう。声にならない声を発しながら動きが停止すると灰へと散っていった。


「まずは一匹」


 独りごちり寿音の方へ視線を向けると周りには積もった灰が一塊(ひとかたまり)あり、寿音も丁度一匹倒したところらしい。

 コボルトに向き直ろうとした時、視界の端にとらえたのはやっと秋作と谷村紙が動き出したところだ。


 この程度のコボルトなら信志と寿音だけで事足りるが、今後のことを考えて実践を積んでおくためにも早いうちから戦っておくことに越したことは無い。

 信志はそんな二人より守ると言ってしまった渡邉は元より、女子高生達も守らねばならないのであまり前線には出られない。


 今回の戦いは寿音と秋作と谷村紙にかかっているだろう。

 信志は倒したコボルトの灰から瓶を一つ取り出すとリュックに押し込んで女性陣の元へ退っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ