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「10年後もお互い独身だったら結婚しようか」と言った高校時代の親友(国宝級イケメン)と10年後に再会して結婚した話  作者: 水嶋陸


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サシ飲み2


 「莉子はすごいな。今の話そんな前向きに受け取れるんや」


 「すごいのは凪や。家族に限らず周りが親身になってくれるのは、凪が相手にそうしたいって思わせるからやで。人ができることをひとつくらいできんからって何の問題があるん? むしろ人がなかなかできないことを自然にやれるんやから胸張りや」


 「ははっ、やっぱり莉子は男前やなぁ。沈んでた気持ち一瞬で引き上げてくれる。普段は素っ気ないのに弱ってると無条件で優しい。ギャップずるくない? 絶対無自覚に人誑し込んでるで」 


 「凪にだけは言われたくないわ。男女問わず心を奪っていくキングオブ天然すけこましやん」


 「なんやそれ。人聞きの悪いあだ名やな~」


 不服そうにしつつ、笑って受け流す。少し元気が出てよかったと思っていると、凪はまっすぐこちらを見据えた。   


 「莉子を見込んで頼みがある。姉ちゃんの結婚式の二次会に参加してくれへん?」


 「何となく察したけど恋人のフリは無理やで」


 「恋人のフリはせんでいい。普段通りでいてくれたら十分や。恋人じゃなくても、親しい女性がいると知ってもらえたら少しは安心できるやろ」


 「なるほど。でもそれなら私より戦闘力の高い子が適任やない? 私は無愛想やし、この通り地味でお世辞にも女子力高いとは言われへん。お見合い会場に出陣するなら、他の女を圧倒できる見栄えの良さと社交力があった方が心強いんちゃうん?」


 真剣な面持ちで素朴な疑問をぶつけると、凪はぶっと吹き出した。


 「なんでそんな喧嘩腰なん、完全に蹴散らす発想やん! 今回来るのは姉ちゃんの知人ばっかりやし、当てつけみたいに隣に並んで威嚇してほしい訳やない。晴れの日やしできるだけ穏便に済ませたい」


 「それならなおさら社交的な子がええやろ。凪に頼まれたら喜んで引き受けてくれそうなコミュ強の子おらんの?」


 「正直に言えばそれなりにあてはある。ただ少なからず好意持ってくれてる子には頼まれへんやろ。進展する気もないのに、自分の都合いい時だけ呼び出して頼み事するのは、さすがに不誠実や」


 「ほんま華やかな見目に反して真面目な男やな~。つまり自分と親しいけど気なくて後腐れなく頼める相手がいいってことやな」


 「身も蓋もない言い方やけどその通りや。自意識過剰っぽくて恥ずかしいけど、実際これまで色々あったからどうしても神経質になるねん。だからお願いするなら莉子しかおらんと思って相談した。ただ、これは全部俺の勝手な事情や。わがまま言ってる自覚はあるし、気乗りせんかったらはっきり断ってや」


 都合の悪い事情をさらけ出しつつ、莉子の意思を尊重するスタンスの凪は誠実だった。莉子はふぅと小さなため息を吐く。


 「分かった。ええよ、引き受ける。ただし婚活的な意味での風除けにはならんから期待せんとってや」


 条件付きで承諾すると、凪は安堵した。同時に、躊躇いを見せた。


 「お願いしといて何やけど、即断していいん? 姉ちゃん遠慮ないから初対面でもウザ絡みしてくるで。恋人じゃなくても隣におったら色々言われて嫌な思いさせると思う」


 「嫌味くらい言われ慣れてるしかまわへんよ。でも女っ気のない凪が初めて連れて来た女ってなると質問責めされるかもな。根掘り葉掘り聞かれるなら何を話すか事前に打ち合わせしといた方がええんちゃう?」


 「そうやな。今度日改めてじっくり話そか。次は既読スルーせんとってや?」


 「根に持つなぁ。引き受けたからにはちゃんと対応する! 一人で戦わせへんから安心しい!」


 「ふは、ほんまに男前やな」


 「誉め言葉と受け取っておくわ」


 冷ややかな眼差しを返して両腕を組む。けれど、凪はなぜか眩しそうに瞳を細めた。



 「ありがとう。高校で莉子に出会えて――今日再会できて、ほんまによかった」



 突然の無防備な笑顔にドキッとする。思わず見入っていると、凪は意地悪く口角を上げた。


 「そんなに見つめられると帰したくなくなるで?」


 「ロマンス詐欺始めるつもりならいつでも通報するで」


 「ははっ、めっちゃ警戒するやん。おもろ。名残惜しいけどそろそろ出よか」


 サラッと二人分の会計を済ませた凪に店を出るよう促され、駅まで一緒に歩くことになった。


 「会計どうも。はい、これ私の分」


 「ええよ、奢らせて」


 「え? なんで? 割り勘する気満々やってんけど」


 「莉子が奢られんの好きじゃないのは知ってる。でも今日は俺が誘ったし、話聞いてもらって楽になったからお礼に出させてくれたら嬉しい」


 「んん……それなら素直に受け取るわ。ありがとう。ご馳走様でした」


 一度足を止めて頭を下げると、凪がふっと笑った。


 「莉子のそういうとこええよな。礼儀忘れんときっちりしてる。誘われたら奢られるの当然みたいな態度の子少なくないのに」


 「中にはそういう子もおるやろうけど、何かして貰うことを当たり前で済ませるのが性に合わんだけや」    


 きっぱり言うと凪は「そうやな」と共感を示す。じっと視線を感じて「何?」と聞くと、凪は自分の耳から鎖骨にかけてすっと指でなぞった。   


 「髪伸びたなと思って。高校の時は短かったやろ? 短いのも爽やかでよかったけど長いのも可愛いな」


 「私相手にお世辞いらんて」


 「お世辞ちゃうよ。莉子のことは昔から可愛いと思ってたで。ただ見た目褒めても喜ばんやろうな~と思って言わんかっただけ」


 「分かってるならなんで今言うたんよ」


 「それは――……なんでやろ?」


 「知らんがな。本人が疑問形やん」


 つっこみを入れて話題を変える。世間話をしているうちに駅に到着し、路線の異なる凪と解散しようとしたが、律儀に改札まで見送りに来るあたり紳士である。 


 「遅くまで引き留めてごめん。ほんまに家の近くまで送らんで大丈夫?」


 「余裕や。あんたこそ逆ナンされんうちにはよ帰り」


 「はは、立場逆やん」


 楽しそうな凪につられて笑顔が浮かぶ。莉子の柔らかい表情を見た凪は、腑に落ちたように口を開いた。


 「――さっきの理由分かった。莉子を可愛いと思う男がおることを知ってほしかったんや。莉子は恋愛に関して奥手やけど、もっと自信持っていいと思うで。めっちゃ魅力ある。俺が保障する」


 想定外のエールを受け、面食らう。


 黒髪セミロングをすっきりまとめ、ナチュラルメイクで地味な服装の莉子は愛想のなさも相まって、異性に褒められることは滅多にない。


 それが当たり前になっていて気にもしていなかったが、凪に肯定されたことが思いのほか照れ臭い。


 ただ、それを顔に出すのはかなり気恥ずかしい。莉子は眉間に皺を寄せ、むむっと唇を結んで耐えた。けれど内心を見透かした凪が笑う。


 「莉子、意外と分かりやすいよな。おもろ。ほんま退屈せんわ」


 「人をからかうのも大概にせんとそのうち訴えられるで」


 「今のは本心や。何なら証明しよか?」


 「心臓に悪そうやから遠慮しとく。ほな行くわ」


 「ん。今日はありがとう。気つけて帰りや。――おやすみ莉子」


 親しみの込められた眼差しと、柔らかな声。


 改札を通ってホームに向かう途中一度だけ振り向くと、こちらに気付いた凪が片手をあげる。


 そのまま姿が見えなくなるまで見守ってくれていて、胸の奥がふんわり温かくなった。  


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