同窓会4
「何言うてんねん! 今来たばっかりやろ、少しは幹事の顔立てたりや。あんたが来るのかって女子に質問責めされて辟易してたで。それでなくても途中参加なんやからちょっとでも飲み食いして会費分元取らんと」
「ほら」とドリンクメニューを差し出すと、凪が肩を揺らして笑う。莉子は片眉を上げた。
「人が親切に忠告したったのに何がそんなにおかしいん?」
「っごめん。義理堅くて男前やし、あまりに色気がなくて……っ」
「悪かったな! 知っての通り色気は年中在庫切れや!」
パァンとメニューでテーブルを叩くと、凪が爆笑する。
するといつのまにか戻って来た舞花がにんまり笑ってこちらを観察していた。
好奇心に塗れた眼差しが落ち着かず、莉子は身震いして自分の腕を抱いた。
「ニヤニヤして何? 言いたいことがあるならはっきり言うてや、気色悪いで」
「別に何も思ってへんよ。ただ仲良い二人を温かく見守ってるだけやで~? 私のことは気にせず親交深めてくれてかまへんよ~?」
完全に面白がってる舞花に嘆息すると、周囲で様子を窺っていた女子達がじりじりと凪の側に寄ってきた。声を掛けるタイミングを見計らっているのは明らかだ。
莉子があっさり席を譲ろうとすると、凪に手を掴まれた。
「どこ行くん?」
「どこって、他のテーブルやけど。同窓会やし他の子らとも話したいやろ?」
莉子なりに空気を読んだつもりだったが、凪はしゅんと肩を落とした。
「あー……そうやんな。俺が莉子を独り占めしてたらあかんよな」
「いやいや逆や。私が凪を独り占めできんやろ。みんな凪と話したいやろし」
援護射撃で激しく同意する女子達。四方から期待の眼差しを浴びせられ、束の間の平和が終わったことを悟った凪は観念した。
「飲み直す約束、酔って忘れんといてや?」
「安心しい、酒には強い方や。念押さんでも覚えてる」
「ん。じゃいい」
手を放す時に一瞬、きゅっと指に力を込められてドキッとする。
離れがたそうな眼差しでちょっと拗ねた空気を出してくる凪があまりに可愛くて、「ん゛ん゛っ」と奇声が漏れそうになった。
どうにか顔色を変えずにテーブルを離れると、一連のやり取りを見守っていた舞花が最上級にニヤついていた。ものすごく気恥ずかしくて、莉子は逃げるようにそそくさと他のテーブルに移った。
*
時が経ち同窓会がお開きになると、別れを惜しむ友人たちが店の周辺で立ち話に花を咲かせていた。凪は男女数名と軽やかに笑っている。
それを遠くから眺めていると、舞花がするりと腕を組んできた。
「氷室くん、期待以上にいい男になってるやん。高校では親友やったけど大人になった今なら別な関係に進展できるんちゃう? チャレンジせえへんの?」
「何を言うかと思えば……。ありえへん。相手は凪やで? どんだけ選び放題やと思ってるん。天保山とエベレストくらい格差あるわ」
「そう? 私は案外お似合いやと思うけど。今日も氷室くんが自分から声掛けた女子莉子だけやん」
「それはお互い恋愛対象外で気が楽やからや」
「えー本気でいうてるん? 春はまだまだ先やな~」
「舞花も人のこと言えんやろ。男嫌いで告られても毛虫を見るような目で振ってたやん」
「別に男嫌いじゃないで? ただまともに会話したこともない女をわざわざ呼び出して記念受験気分で告白する迷惑男に慈悲はいらんやろ」
「容赦ないな……」
無慈悲な発言にひくりと頬を引き攣らせる。莉子から視線を外し、チラッと前方を確認した舞花が、にんまりと口元に手をやった。
「ほな忠犬くんお待たせしたら悪いしもう行くわ。進展あったら報告して♡」
「え?」
問い返す間もなく手を振り去って行く舞花。前を向くと、さっきまで友人達と戯れていた凪が少し離れたところで待機していた。
「凪! ごめん、待ってたなら声かけてや」
「久しぶりの再会やろ。邪魔したくなかってん」
「殊勝やな。サシ飲みでも奢らんで?」
「自分から誘っといて奢らせんて。ただ楽しそうな莉子を近くで見れるのが、嬉しかっただけ」
ふわっと笑う凪が幸せそうでくすぐったくなる。
軒を連ねる店の灯りと街灯に照らされた夜の街で、大人になった凪と向き合っていることが不思議でまだ現実味がなかった。




