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「10年後もお互い独身だったら結婚しようか」と言った高校時代の親友(国宝級イケメン)と10年後に再会して結婚した話  作者: 水嶋陸


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同窓会3



 「――凪。なんでここに……」


 「なんでってことはないやろ~同窓会やん」


 「そういう意味じゃなくて。みんなに囲まれてたのにこっち来てよかったん?」


 「いやーありがたいけど全然ゆっくりできんし、きりないから抜けてきた。莉子は積極的に参加せんと黙々飲食タイム? マイペースなの変わらんな」


 はっと凪が笑うと、視界に星屑が散ったように眩しく感じる。


 少年のように無邪気な笑い方も、人懐っこい態度も全然変わってなくて、胸に温かいものが溢れた。


 凪に会えたら話そうと思っていたことがたくさんあったはずなのに、いざ目の前にすると言葉がまとまらない。


 「氷室くん、莉子の隣座って」


 「ええの? 話してる途中ちゃうん」


 「全然♡ 私がそっち移動するわ。ちょうど誰もおらんし♡」


 まともに反応できずにいる莉子の代わりに、舞花がフォローした。しかしあまりに認識に齟齬があったため本音が漏れた。


 「そこは空いてるんじゃなくて舞花が強制的に空けさせたんやろ……」


 「さっきの二人ならもう別な席で楽しんではるし、気にせんでええやろ」


 「ん? 何かあったん?」


 事情を知らない凪が心配そうにする。舞花がグラスを片手に移動しつつにっこり笑う。


 「害虫退治してん。まぁ正確には追い払っただけやけど結果オーライや」


 「よう分からんけど東堂さん怒らせると怖そうやなぁ。席ありがとー」


 喉で笑いつつ莉子の隣に腰を下ろす凪。そして意外そうに瞬く舞花。 


 「うちの名前覚えてはったんやね。まぁクラスでは悪名高かったからなぁ」


 「そんなんちゃうて。普通にクラスメイトの名前くらい覚えてるよ。それに東堂さんは莉子と仲良かったから印象に残ってる」


 「あら。やっぱり莉子が主体なん?」


 「気悪くした?」


 「全然。むしろ尊みが増して萌えました♡ ごちそうさん」


 ほくほくとテーブルの天板に両肘をつき、顎をのせた舞花がウインクを寄越した。


 「な? 杞憂やったやろ?」


 「……っ!」


 「何の話?」


 「氷室くんがみんなに囲まれてて莉子が拗ねた話~♡」


 「え~何それかわい。莉子さみしかったん? ぎゅってしたろか?」


 「二人とも。それ以上悪ノリしたら絶交や」


 「「は~い♡」」


 渋面で警告するも、全く反省していない様子の二人。小さなため息を吐くと、舞花が化粧直しのため席を立った。


 取り残されて微妙な気まずさを感じていると、凪が片手をついて距離を詰め、顔を覗き込んできた。 


 「やけに大人しいな。具合悪いん?」


 「すこぶる好調や」


 「ふ~ん。ならさっき目合った時なんで逸らしたん?」


 「偶然や。深い意味はない」


 「そう? 俺は莉子に会えるのめっちゃ楽しみにしてたのに、忘れられたんかと傷付いたで。早く莉子と話したくて様子見てたの全然気付かんかったやろ」


 「えっ」


 「はは、やっとこっち見た。――もう目逸らさんとってや? 寂しいやん」


 やや上目遣いで甘えるようにお願いされ、心臓がギュンっと締め付けられる。


 顔面だけでも凄まじい破壊力なのに、特別気を許した態度を取られると非常にむず痒い。


 罪悪感を煽られた莉子は潔く降参した。


 「……ごめん。顔合わせんの久しぶりで緊張してた。元々まめに連絡するタイプやないし、忙しくなってから返信できてないけど、私も凪に会いたかった」


 素直な気持ちを口にすると、凪の表情が一層柔らかくなった。


 「ほんまに? コロッと忘れてなかった?」


 「っ忘れるわけないやん!」


 「怪しいな~。莉子既読スルー常習犯やん。そのうち連絡くるかな~って気長に待ってたのに放置はさすがに悲しかったで」


 「~~~ほんまにごめんて! 私が薄情やった。お詫びするから許して!」


 「じゃあこの後二人で飲み直さん? 同窓会やとゆっくり話されへんし」


 「は? そんなんでええの? 私はかまわへんけど、凪はもう色んな子に誘われたんちゃうん」


 「ん~お誘いは全部断った。はじめから莉子を誘うつもりやったから」


 「ああ、なるほど風除けか。予想通り延々と女性関係で苦労してるな。ご愁傷様」


 同情を込めて合掌すると、ぶはっと笑われる。


 「今のそういう風に受け取るんかー。そっちも男関係で損してるな。これまでどれほど機会を逃してきたことか」


 「それを言うなら機会を逃したくないと思う人が現れないのが問題やわ。アラサーにもなると周りが色々うるさくて面倒くさい」


 「ほんまそれな~。独身はもったいないとかはよ身を固めた方がいいとか急かしてくるの地味にしんどいよな。気遣う体で同調圧力かけてくる」


 「自分の大事なもんは人も大事やと信じてるから、相手にも大事なものがあってそれは必ずしも同じじゃないっていう当たり前の事情が頭からすっぽ抜けて、親切という名のお節介を焼いてくるんや。そしてたいてい悪意はないから邪険にしにくくて困る」


 「もう共感しかない。いいねボタンあったら100回押すわ」


 「やめとき。普通に怖いし連打し過ぎて腱鞘炎なるで」


 「ははっ、こういうしょーもないやり取りも懐かしいな。あれから10年経つのに全然違和感ないわ。高校時代にタイムリープしてるみたいでおもろ。――やっぱり莉子はええなぁ。隣におると安心するわ。呼吸が楽になる感じ」


 後ろに両手をつき、はー、と長いため息を吐いた凪がボソッと呟く。


 「はよ同窓会終わらんかな。莉子と二人の方が気楽でええわ」



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