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「10年後もお互い独身だったら結婚しようか」と言った高校時代の親友(国宝級イケメン)と10年後に再会して結婚した話  作者: 水嶋陸


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同窓会2


 二人が出会ったのは高二の春。初めて莉子と同じクラスになった舞花は、いつも一人だった。


 けれどいじめられている空気はなく、本人が積極的に人と関わらないスタンスを取っていたため、先生も特に問題視していなかった。


 面倒なのは集団行動――授業の課題などでグループを組む時で、舞花は分かりやすく孤立していた。


 既に数人のクラスメイトとグループを組んでいた莉子だったが、舞花がひとり余っていることに気付き声をあげた。


 「なあ、東堂さんもうちの班に誘わへん?」


 「絶対嫌や! 知らんの? あの子めっちゃ性格悪いねんで。関わりたくない!」


 「そうか。なら私が抜けるわ」


 「えっ――?」


 友人が止める間もなくあっさりと班を去った莉子は、誰も目を合わせようとしない舞花に手を差し伸べた。


 「東堂さん。よかったら私と組まへん?」 


 「あら、親切にどうもありがとう。せやけど私に構うと女子に睨まれるで。どこか他のグループに入れてもらい」


 「? 同じクラスなんやから誰と組んでも一緒やろ。毎回仲の良い友達同士でないとあかん?」


 素っ気ない態度に怯まず、まっすぐ見つめ返す莉子。猜疑心を隠さずじろじろと値踏みするような視線を向けた舞花は、制服の袖で口元を隠した。


 「変わった子やなぁ。同じクラスになるの初めてやんね。うちが毒舌で嫌われてんの知らんのー?」


 「女子が噂してんのはたまに聞こえてくるけど、私は何もされてへんし。それに言い方きつくても裏表がない方が余計なこと考えんで済むから楽でええねん」


 「そう? じゃあハッキリ言うけど、うち集団行動苦手やねん。課題も今までたいてい一人でやってきたし、大したことあらへん。それにこんな回りくどい点数稼ぎせんでも、氷室くんには十分評価されてるやん」


 「ん? なんで凪が出てくるん?」


 「とぼけなくていいで。氷室くんの好感度アップするために面倒見のいいクラスメイトを演じてるんやろ? なりふり構わず必死やなぁ。ご苦労さん」


 舞花の経験上、図星をさされた人間はたいていカッとなって怒るか、顔を青褪めて黙り込むかのどちらかだ。しかし莉子の反応は予想の斜め上をいった。


 「なるほど……そういう考え方もあるんか。凪の好感度上げるためにクラスメイトに声掛けるっていう発想はなかったな」 


 意表を突かれた様子で顎に手を当てる姿があまりに無害で、舞花は思わず毒気を抜かれた。


 「違うなら何でわざわざ私に声掛けたん? メリットないやん」


 「クラスメイトと話すのに損得ないやろ。東堂さんに声を掛けたのは単に困ってるかもしれんと思ったからや。でも、一人の方が気楽なら無理せんでええで。どうする?」


 何の含みもなく舞花の意思を尊重する姿勢を示され、舞花は机の天板に頬杖をついて莉子を見上げた。


 「……そこまで嫌じゃないけど。ほんまにただの親切で声掛けてくるなんて相当な物好きやねぇ。氷室くんと仲良かったら社交頑張らんでも勝ち組やん」


 「あのなぁ、さっきから凪にどんなイメージ持ってるか知らんけど、凪はスーパーマンじゃないで。普通に悩みもあるし努力してる。友達やからって何でも頼るわけじゃないし、凪が自分の力で築いてきた人間関係を――人から向けられる信頼をおこぼれで享受しようなんて欠片も思わへん」


 「そうなん? もったいないなぁ。私やったら最大限利用するわ。守られてる方が楽で居心地ええやん」


 「凪とは気が合うから一緒におるだけで、守られたくて側にいるわけじゃないから。それに私の中では片方が寄りかかるだけの関係は友達とはいえん。私は凪と友達でおりたい」


 回想を終えた舞花はパチッと瞼を開き、しみじみと頬に手を当てた。


 「まぁ――恥ずかしくなるようなことを照れもせず、真顔で言い切る誠実な子は今時滅多におらんで。あの時、初めて女の子とお友達になりたいと思ったわ」


 「浸ってるところ悪いけど、恥ずかしいからもうやめてくれへん……?」


 「あら♡ 莉子の照れ顔なんてレアやん写真撮って見せたろ♡」


 「いらんわ! 誰に需要あるねん」


 「少なくとも一人には需要あるやろ。――ほら、噂をすれば相方のご登場やで」


 周囲から黄色い声が上がって店の入り口に視線を向けると、少し遅れてきた凪の姿が目に入った。


 飛び抜けて端正な容姿も、人当たりのいい雰囲気もそのまま――年齢相応の落ち着きと大人の色気を纏った凪はとんでもなく男前に進化していた。


 期待以上の仕上がりで現れた憧れの王子様に、女子達がきゃあきゃあ浮き立つ。


 あっという間に女子に囲まれた凪と一瞬、視線が交わるも、莉子の方から視線を逸らした。


 僅かなアイコンタクトに気付かなかった舞花が莉子の肩に手をのせ、身を寄せてくる。


 「完全に出遅れたなぁ。莉子も行かんでいいん?」


 「あの輪に入れと? 冗談きついわ。初売りの福袋買うよりもみくちゃになるわ」


 「あら珍しい。怖気づいたん?」


 「そんなんちゃう。ただ……凪は人気者で友達いっぱいおるから」


 久しぶりに会えるのを楽しみにしていたのも、近況を話し合いたいと思っているのも莉子だけじゃない。クラスメイト達に囲まれる凪を目の前にするとそれを痛感する。


 (高校の時はたいてい凪から声掛けてくれたんよな。三年間クラスメイトやったし気にも留めへんかったけど、大人になって接点なくなるとこんなに遠い存在なんや……)


 黙々とグラスを空けると、舞花はぶふっと盛大に吹いた。


 「え~何? 拗ねてはるん? あの莉子が? 可愛い過ぎやろ~♡」


 「拗ねてへんし! 冷静なだけや」


 「はいはい、そういうことにしといたろ。心配せんでも氷室くんと一番仲良かったのは莉子やって。めっちゃ懐かれてたやん」


 「そんなん昔の話や。凪とは長く連絡取ってない」


 「だったらなおさら声掛けたらええやん。向こうも積もる話あるやろ」


 「遠慮しとく。盛り上がってるとこ水差したくない」


 「もぉ~強情やな~。素直になった方が幸せになれるで?」


 持論を展開し始めた舞花の話を半分聞き流していると、目の前のテーブルにふっと影が落ちた。



 「よ。久しぶりやな、莉子」



 琥珀のように澄んだ瞳を見て呼吸を忘れた。心地良いハスキーな声も、猫っ毛で柔らかそうな髪も、十年前の記憶を鮮やかに呼び覚ます。 



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