高校時代の親友と10年後に再会して結婚した話3(最終話)
食後の片付けを終え、リビングのソファに移動する。久しぶりに満腹になったお腹をさすっていると、凪がお茶を淹れてくれた。
目の前のローテーブルに置かれたカップから湯気が立ち上り、ほんのりと甘く爽やかな香りが鼻腔を満たす。
「……いい香り。ハーブティーなんて珍しいやん。わざわざ買ってくれたん?」
「うん。前に会社のいただきもので貰ったやつが美味しかったから、同じメーカーで莉子が好きそうなやつ選んでみた。気に入った?」
「めっちゃ気に入った。元気出る」
「よかった」
ゆっくり味わって飲み干すと、隣に座って様子を見ていた凪が、自分の膝をポンポン叩いた。
「莉子。おいで?」
凪の優しい表情と甘い声の破壊力は凄まじく、『ドーーーン』と脳内で噴火が起きる。
誘惑に抗えず、すすす、と凪の股の間に座った。体重をかけないよう、姿勢よくちょこんと座っていたが、後ろから抱き込まれて凪の胸に背中を預ける。
凪は何も言わずに頭を撫で、指で丁寧に髪を梳き、手指にキスを落とす。ただひたすらに甘やかしてくる理由に思い至り、ふっと笑みが零れた。
(落ち込んでるの、気付いてたんやな)
「詳しくは言わんけど、仕事でちょっと嫌なことあって。自分にも反省点あるから凹んでた。でも、明日からまた気持ち切り替えて取り組むわ。色々気に掛けてくれてありがとう」
「うん。俺はいつも莉子の味方やから、それだけ覚えてて。あと、莉子がめっちゃ頑張ってるの分かった上で言うな。――頑張れ」
「……!」
エールを込めた声に驚き、思わず振り向く。至近距離で視線が交わり、凪のとても優しい笑みに胸がぎゅっとなる。
(無理するな、頑張らなくていいって言われるより、ずっと元気が出る魔法の言葉)
同情や慰めの言葉など求めていない。ただ、信頼を示して期待してくれることが力になる。凪は莉子が求めてるものに真っ先に気付いて、それを当たり前に差し出してくれる。
「なんでいつも私のほしい言葉分かるん? 魔法使いみたいやな。結婚の挨拶の時も母が感極まってたで」
結婚が決まり、両家顔合わせの前に実家へ挨拶に行った時、凪が母に伝えた言葉は鮮明に記憶に残っている。
『本日は結婚のご挨拶に伺いましたが、娘さんをくださいとは言いません。お義母さんが女手一つで大切に守り育てた莉子さんを、これからは僕が側で守ります。
なので一緒に莉子さんを笑顔にしていきましょう。体に気をつけて、いつまでも元気でいてください。それが何より莉子さんの幸せにつながります』
離婚後、仕事に忙殺されて莉子と過ごす時間を十分取れなかったことを後悔していた母は、凪の優しさと心遣いに触れて言葉に詰まっていた。
「あのあと母が号泣しとったわ。ほんま筋金入りの人たらしやで」
「それは莉子やろ。うちの実家に来た時、家族全員泣かせとったやん」
氷室家を訪問した時、家族総出で大歓迎された莉子は深々と頭を下げ、顔を上げて凛と宣言した。
『凪さんのことは私が責任を持って生涯幸せにします』
過去を思い返した凪がくっくっと喉を震わせて笑う。
「あんな男前な結婚の挨拶ある? 隣で聞いててめっちゃキュンとしたわ」
「ふふっ。私も母を気遣ってくれる凪を見てめっちゃキュンとしたで」
「お義母さんには『ロマンス詐欺やないよな?』って疑われたけどな。莉子のルーツが見えて吹いたわ」
「それはほんまにごめんって」
苦笑し、上体を捩って凪の頬に手を添える。そのまま自分の方へ凪の顔を引き寄せて唇を重ねた。普段は凪からアプローチしてくれるので、こんな風にキスを贈るのは気恥しかった。
「……珍しいやん。甘えたくなったん?」
ハスキーな甘い声に誘われ、凪が欲しくてたまらなくなる。
「うん。凪が愛しくて、我慢できんかった」
かあああ、と頬に熱が集まってきて堪らず凪の胸に顔を埋める。ぐりぐりと顔を押し当てて恥ずかしい台詞に悶えていると、凪が追い打ちをかけてきた。
「莉子。顔上げて? ちゃんとキスしたい」
「……っ今は無理」
「焦らされてあげたいけど、俺も今は無理」
「ごめん」と小さな声で呟き、やや強引に上向かされる。慈しむようなキスから始まり、次第にお互いの存在を確かめ合うような深いキスに変わっていく。
凪に翻弄される中、僅かに唇が離れる瞬間に熱い吐息が零れ、莉子は瞳が潤むのを感じた。凪は蕩けるような表情を浮かべる莉子を胸に抱き寄せ、焦れた声で囁く。
「……このまま寝室に連れてっていい? もっと莉子に触れたい」
手を握って互いの指を絡めながら、熱っぽい眼差しを注がれた莉子は小さく頷いた。
「いいけど……凪、明日朝早いんじゃないん?」
「うん。でもスイッチ入れたん莉子やん。責任取って付き合って」
「っ、お風呂は? 遅くなるで?」
「平気。なんなら一緒に入ろ」
「ちょっと。もう寝る気ないやろ」
「知らん。奥さんが可愛過ぎるせいやで。抗議は後でいくらでも受け付けるから、今夜はずっと腕の中におって」
再び唇を重ねてきた凪に観念し、彼の首の後ろに腕を回す。二人きりで過ごす、とびきり甘く親密な時間は、いつも心と体を満たして幸せを感じさせてくれる。
翌年――
凪にそっくりの可愛い女の子が生まれ、さらに二年後、莉子似の利発な男の子を授かった。凪と莉子の家族全員が歓喜し、新しく加わった家族を温かく迎えた。
妻と二人の子どもを溺愛する凪は、できる限り家族で過ごす時間を作った。平日は毎朝積極的に保育園の送迎を引き受け、先生と在園児の間でイケメン過ぎるパパとすぐに話題になった。
そして莉子は帰りのお迎えの度に他のママに大層羨ましがられることになるのだが――
それは少し先の、幸せな未来のお話。
FIN
完結までお読みいただきありがとうございました!
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