高校時代の親友と10年後に再会して結婚した話2
職場に着いて午前中の仕事を済ませると、昼休みになった途端、同じ課の若い女性職員が駆け寄ってきた。
「長谷川さんの旦那さんが国宝級イケメンって聞いたんですけど、噂は本当ですか!? よかったら私にも写真見せてもらっていいですか!?」
瞳をキラキラさせながら食い気味で質問され、たじろいだ。内心またかとげんなりする。
なぜこんな展開になっているかというと、上司に結婚を報告した際、祝い金をもらったお礼にお祝い返しをしたところ、ノリで結婚式の写真が見たいと頼まれた。
断ることもできたが、上司なら問題ないだろうと見せた途端、想像以上の反応があり、周囲にいた同僚らにまで画面を覗き込まれる事態に発展した。
――以降、大変な噂になり、凪を一目見たがる女性職員に声を掛けられるという奇妙な現象が発生している。
ただ、やはり同僚とはいえ無断で写真を見せるのは気が引ける。今朝凪に許可を取ったのはこのためだ。
「はい。夫に写真見せる許可貰ったからどうぞ」
「わ~、ありがとうございますっ。さっそく拝見しますね!」
スマホに表示した写真を見せると、彼女はひゅっと息を呑んで硬直した。目を零れんばかりに見開いて画面を凝視している。
「……っ!!」
「? どうしたん、大丈夫?」
「~~~~はいっ、旦那さんが想像以上のイケメンで衝撃を受けたのと、笑顔にカメラマンへの愛がめちゃくちゃ溢れてて悶えました。これ撮影したの長谷川さんですよね?」
「えっ? そうやけど、凪……夫はいつもこんな感じやで」
「溺愛に気付かないピュアな新妻と、愛を惜しまない一途なイケメン……! 一生推させていただきますっ!!」
「あ、ありがとう???」
尊いものに出会ったかのように拝む彼女に困惑しつつ、よく分からないお礼を告げる。その後も同様の反応を見せる女性職員が続出し、莉子はますます戸惑った。
帰り道、最寄り駅から自宅まで歩いている途中、舞花からメッセージが届いたので通話に切り替えた。最近困った出来事を話すと、舞花は何を思ったのか爆笑した。
『あっはっはっは!』
「そんな笑うことないやん。どこで噂が広がってるんかしらんけど、けっこう頻繁に写真見せろって言われるし、見せた後はなぜか拝まれるし。私、何の御利益もないから困るわ」
『は~おかし。そら超ハイスぺイケメンに見初められて結婚した時点で信仰の対象やろ。あわよくば恋愛運にあやかりたいっていう乙女心が分からん? まあ実質初カレが氷室くんで結婚後も溺愛されてる莉子には分からんやろな~♡ 新婚生活も順調そうやしご馳走様~♡』
「くっ……!」
不本意にも惚気にカテゴライズされて身悶える。通話を切った後もしばらく羞恥でむず痒かった。
帰宅すると、珍しくリビングに灯りがついていた。そういえば今日は外勤の後直帰すると凪から連絡が入っていた。
「ただいま」
「おかえり~。お疲れ。夕飯できてるけどすぐ食べる?」
凪の顔を見ると安心し、一気に肩の力が抜ける。キッチンから漂う美味しそうな匂いにつられて食欲が湧く。
「うん、凪もお疲れのところご飯ありがとう。メニューは何?」
「温野菜サラダと豆腐ハンバーグ。最近ちょっと食欲ないみたいやから、あっさりしてて消化に優しい料理がええかなって」
不調を顔に出したつもりはなかったが、莉子の小さな変化に気付いて気遣ってくれたのが嬉しい。揚げ物やがっつりとした肉料理はあまり入りそうになかったため、ヘルシーなメニューにホッとして凪に感謝した。




