高校時代の親友と10年後に再会して結婚した話1
朝、アラームの音で目が覚める。腕をついて上体を起こし、サイドテーブルのスマホに手を伸ばした。アラームを止め、半覚醒の状態でぼんやりと天井を眺める。寝返りを打つと、隣で凪が眠っていた。
形の良い眉の下で閉じられた二重瞼は、長い睫毛に縁取られている。すっと通った鼻筋に整った唇。国宝級イケメンと表現して誇張のない超絶美形が、すぐ側で無防備な寝姿を晒していることに落ち着かなくなった。
(あ……そうやった。凪と結婚したんや)
左手の薬指に光る結婚指輪を指でなぞり、感慨に耽る。
凪と想いを通じ合わせたあの日から、正式に付き合い始めて半年後――改めて凪からのプロポーズを受け、結婚した。
入籍後に結婚式を控え、式の規模や招待客の人数について打ち合わせた時のことを思い出す。
『凪は長男やし、お義父さんお義母さんとしては盛大な式がいいんかな? 凪の仕事関係の人もたくさん呼ぶやろ?』
『いや、結婚はプライベートやしそんな気遣わんでええよ。盛大な式は姉ちゃんがしたから親も満足してる。それに大人数やと莉子が落ち着かんやろ? 家族と気心知れた友人らに祝ってもらえたら十分やん』
『それはありがたいけど……。ほんまにいいん? 私に合わせて後悔せん?』
『全然。むしろ本音言うと莉子のウエディングドレス姿を他の男に見せたくない。俺が独占したい』
『! そ、それを言うなら凪のタキシード姿の方が見せたくない! 絶対みんな見惚れる。凪は私のやのに』
『莉子ちゃんが不意打ちで殺しにかかってくる……!』
――結局、両家の親に理解を求め、結婚式は身内だけで慎ましやかに済ませた。その後レストランを貸し切り、親しい友人たちを中心にアットホームな二次会を催した。希望通りの温かい結婚の思い出となり、莉子はとても満足している。
(これも全部凪と、私たちの意思を尊重してくれた家族のおかげや)
感謝を胸に抱きつつ、音を立てないようにそっと寝室を出る。幸せを噛み締めながら朝食を作り始めると、凪が起きてきた。
「おはよう。まだ少し時間かかるから寝ててええよ」
「んー。莉子にくっついてたいから起きる」
凪は莉子の頭に顎をのせ、腹に腕を回してぎゅうっとする。後ろから抱きつかれたまま、無言で調理を続けた。しかし、チラッと顔を覗き込んできた凪がふっと笑う。
「思ってること全部顔に出てるで。『昨晩あんなにくっついてたのにまだ足りんの?』って」
「!!!! あ、朝からからかわんでや!」
「莉子が意地悪するからやん。傷付いた。お詫びにキスして。そしたら機嫌直す」
「しゃーないな……」
背を屈める凪の頬にキスを贈る。彼はすかさず唇を重ね、ちゅっと音を立てて離れた。自然に顔が熱くなり、視線を逸らす。凪はご機嫌になって耳に唇を寄せてきた。
「もうとっくに慣れてるやろうに、いつまでも初々しくて可愛いなぁ」
「うるさい黙れすけこまし。凪の目玉焼きだけ焦がす」
「すみません調子に乗りました。焼き加減はミディアムでお願いします」
しおらしくなった凪を一瞥し、溜飲を下げる。出来上がった朝食を運んでもらい、その間にさっと調理器具の片付けをした。
二人食卓に揃ったところで「いただきます」と両手を合わせる。ホテルの朝食には及ばないが、いわゆる一汁三菜が並んでいるのを見て、味噌汁を口に含んだ凪が感心して言う。
「しかし毎朝手抜かんなぁ。疲れるやろうし適当でええで。ていうか俺自分で準備できるし楽にして」
「このくらい一人暮らしの時も作ってたよ。おかずは作り置きやけどな。それに凪は平日帰り遅いから、朝くらいしっかり食べてってほしい。放っといたらコーヒーだけとか、まともに食べへんやん」
「あー。さすがに一緒に住んでたらバレるか。気遣わせてごめんな」
「全然。ご飯作るの苦にならへんし、凪が毎回喜んでくれるから好きでやってる。それに昼夜別に食べること多いから、朝くらい一緒に食べたい。早起きさせて申し訳ないけど、これからも無理ない範囲で付き合ってくれたら嬉しい」
「ありがたく一生お付き合いさせていただきます」
殊勝な態度で拝む凪が可笑しくて、笑ってしまった。ふと彼に相談があることを思い出し、箸を進めながら言う。
「最近職場の人に凪の写真見せてってしつこく頼まれるんやけど、結婚式の写真は照れ臭いから嫌やねん。どれか見せていいやつ適当に選んで後で送ってくれへん?」
「別にええよ~。ちょっと待って」
テーブルの上にあったスマホを手に取り、凪がさっと操作して写真を送る。
「これがいい」
「!? 私と写ってるやつやん。だめ。恥ずかしいから凪だけのにして」
「え~つまらんな。じゃ、これ」
二番目に送られた写真を見てホッとする。最近凪と出掛けた時に撮影したもので、笑顔の凪が写っていた。
「これな。分かった、ありがとう」
「かまわへんけど、他人の旦那の写真見て何がおもろいんやろうなー」
「ただの好奇心やろ。一度見たら満足して興味失せるて」
その後は他愛ない会話を交わし、それぞれ支度して出勤した。




