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「10年後もお互い独身だったら結婚しようか」と言った高校時代の親友(国宝級イケメン)と10年後に再会して結婚した話  作者: 水嶋陸


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こぼれた本音1


 凪とお試しで付き合い始めておよそ二月――


 週末のどちらかは二人で会う機会を作っていたが、この日、莉子は大きく体調を崩してしまった。


 金曜の午後から悪寒が始まり、嫌な予感がしていた。そして朝起きた時には高熱を出してしまい、ベッドから起き上がるのもつらい状況に陥っていた。


 【Riko/ごめん。昨日から体調いまいちで様子見ててんけど、熱出した。当日になって申し訳ないけど、今日の約束は延期してもらってもいい?】


 ランチの約束を守れそうもなく、苦渋の決断で凪にメッセージを送る。


 【凪/了解。こっちは気にせんでええからゆっくり休んでな。何かできることあったら遠慮なく言って】


 すぐに返信がきてホッとした。朝九時前のため、凪もまだ支度をしていないだろう。


 喉の渇きを感じて起き上がったものの、体を起こすのもやっとで、立ち眩みがした。


 壁伝いにキッチンへ向かい、冷蔵庫から冷たい麦茶を取り出す。どうにかコップに注いで解熱剤を飲んだが、それだけで力尽きてしまった。


 (週末まとめて買い出ししてるから、家何もないな。どうしよう……スーパー行くのきつい。出前取る? でも普段そんなんせんし、店探して注文するのに登録すんのもしんどい……)


 ベッドに戻る気力もなく、その場に座り込む。しばらく蹲り、スマホを手にラインアプリを開く。迷った末、凪に連絡することにした。


 【Riko/何度もごめん。しばらく外出できそうにないから買い物お願いできるかな? 家遠いのにほんまにごめん。絶対無理せんでな】


 メッセージを送信し、膝の上に額をつける。しばらくして着信音が鳴った。


 「……もしもし?」


 『メッセージ見たで。もう家出るところやから待っててな。一時間くらいで着くと思う』


 「……!」


 急いで準備をしてくれたことに驚き、申し訳なさが先立つ。


 「休日に予定キャンセルした上、おつかい頼んでほんまにごめん。急がへんから慌てずゆっくり来て」


 『はは。何回謝るねん。気遣わんでええから、横になって休んでて。リクエストあれば教えてな。なければ適当に買ってく』


 「ありがとう。気をつけてな」


 通話が終了し、胸に安堵が広がる。もうすぐ凪が来てくれる――それだけで絶大な安心感が湧いた。


 (大人になってからはどんなに体調悪くても、親にさえ看病頼んだことないのに)


 凪に頼り、甘え始めている事実に危機を感じる。けれど深く考える余裕はなく、頭の隅に懸念を追いやった。


 気力を振り絞ってベッドに戻り、約一時間。


 インターホンが鳴りドキッとした。到着を知らせるメッセージが届き、訪問者が凪だと知る。腕の力で起き上がってよたよた玄関へ歩き、鍵を開けた。


 「……おはよう。来てくれてありがとう」


 掠れた声で出迎えると、凪は「顔色悪いな」と心配そうに眉を下げた。


 よほどひどい顔をしていたのかと思ったが、くたびれた部屋着姿で髪はボサボサ、おまけにノーメイクという最悪の出で立ちであることに今更気付く。


 (ていうか昨日からお風呂も入れてない……!)


 ものすごい羞恥が込み上げて、咄嗟に扉を閉めようとした。凪は驚き、扉の隙間にスニーカーを滑り込ませてガッと扉を掴む。


 「何してんねん。俺、押し売り業者ちゃうで」


 「わ、分かってる。ただ色々と――色々とやらかしたことを自覚して羞恥心が……!」


 「察したけど、朝から赤くなったり青くなったり忙しいなぁ」


 ふっと息を抜いて笑った凪が、扉を開いて中に入る。パタンと扉が閉まり、鍵をかける音がして莉子は観念した。


 「わざわざ遠いところ来てもらっといて、失礼な態度取ってごめん」 


 「焦っただけなん分かってるし、かまわへんよ。それより相当具合悪そうやな。熱何度?」 


 「39度前後……」


 「は? 起きてたらあかんやん! 横なっとき。他に症状は?」


 「だるいのと、食欲なくて胃が悪い……」


 「ほな水分中心にとって休んどこ。歩ける? 肩貸そか?」


 「大丈夫――」


 ベッドに戻ろうと踵を返し、足元がふらつく。壁に手をつこうとして、凪に後ろから抱き留められた。


 「っごめん」


 思い切り凪に体重を預ける体勢になり、慌てて離れようとする。けれど、それは叶わなかった。


 「ちょっと口閉じて。舌嚙まんといてや」


 「え? ――っ!?」


 いつのまにか靴を脱いでいた凪に抱き上げられる。そのまま部屋に入った凪は、そっと莉子をベッドにおろした。


 「勝手に上がってごめん。緊急やから大目に見てな」


 「う、ん。正直きつかったから助かった。ありがとう」


 心臓がバクバクしてまともに顔を見られない。俯くと、凪は眉間に皺を寄せた。


 「すぐ帰ろうと思ってたけど、やっぱり心配やからしばらく様子見させて。この近くで土曜も診てくれる病院探しておいたから。いつもとちゃうなって思ったら我慢せんと早めに言うてや」


 「……分かった」


 「ん。いい子」


 ふわりと頭に置かれた大きな掌が、優しく撫でて離れる。顔を上げると、柔らかな眼差しに見つめられる。


 よく見ると、凪の頭頂部に寝癖がついていた。普段の彼らしからぬ隙に驚く。


 白の半袖Tシャツに黒のテーパードパンツというシンプルな服装からも、彼が身支度を惜しんで駆けつけてくれたのだと分かり、胸がきゅうっと鳴った。


 「台所借りていい? 食欲なくても入りそうなもの作っておくわ。できたら起こすからひと眠りして」


 「うん……ありがとう」


 家の中に凪がいる。彼の気配に安心して、眠気が襲ってきた。うとうとしているうちに眠りに誘われ、抗わずに瞼を閉じた。



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