安心して好きになって2
「――めっちゃ面白かった!」
エンドロールの後、明るくなった館内で興奮気味に声をあげた。
「そうやな。今日のは当たりやった」
帰り支度をしていた凪に同意され、嬉しくなって頷く。
「ほんまに。特にラストであの人物が主人公を助けに来たのは熱かった!」
「うん。途中で大けがして戦線離脱した時、莉子めっちゃショック受けてハラハラしてたもんな」
「そんなに分かりやすく顔に出てた? ていうか、映画見てる時に人の顔見らんでや。話に集中して」
「ちゃんと観てたで。映画の後、莉子と話すの楽しみにしてたから。何なら最初から気になったシーン語り合おうか?」
「!! それ、いいな」
他の利用者とともにぞろぞろと映画館の出口へ向かう途中、映画の感想を語り続けていた莉子はふと我に返って反省した。
「――あ、ごめん。私ばっかり喋ってた。一方的に話聞かされんのつまらんよな」
「いや、全然。楽しそうに映画の話する莉子めっちゃ可愛いから、このまま話してほしい。あと俺、莉子の声も好きやねん。もっと近くで聞かせて?」
背中に手を回してきた凪にさり気なく距離を詰められ、心臓が跳ねた。偶然後ろで見ていた二人組の女性客が「きゃあ♡」と黄色い声をあげる。
「やばい見て~~~本物のスパダリがおる♡ 彼女さんめっちゃ羨ましい~~~~♡♡♡」
「ほんまや! 背高いし顔面偏差値えっぐ! どこでゲットしたんやろ? 映画デートいいな~♡」
羨望の眼差しが居たたまれない。莉子は凪の腕を引っ張り、歩くスピードを上げてそそくさと出口に突進した。
休憩を兼ねてカフェに入ると混雑していたが、タイミングよく席が空いた。二人掛けのテーブルを確保することに成功したので、莉子が飲み物を買いにレジへ向かう。凪には席で待っていてもらうようお願いした。
列に並んで会計を済ませ、ドリンクを受け取る。席に戻ろうとすると、店内にいる女性客らが凪に釘付けになっていることに気付いた。
「ねぇねぇ、あの人めっちゃかっこよくない? 目の保養~。 一人かなぁ? 声掛けてみる?」
「いや、さすがに彼女いるでしょ。待ち合わせっぽいし」
テーブルに片肘をついて口元に手をやり、足首をクロスさせている凪はリラックスしている。一見するとアンニュイな雰囲気を纏っているが、表情は明るく、莉子を待っているこの時間を心から楽しんでいることが伝わってくる。
(ほんまになんでこんな人が私を好きになるんか分からん)
心底不思議に思いつつ彼に近付いていくと、テーブルに到着する前にこちらに気付く。両腕を組んでテーブルにのせ、少し身を乗り出した凪は本当に嬉しそうで、自分に向けられる特別甘い笑顔にドキドキした。
「お待たせ。アイスコーヒーでよかったやんな?」
「うん、ありがとー。いただきます」
凪がグラスに入ったコーヒーを受け取る。グラスに長くしなやかな指がかかり、ゆっくりと口元に運ぶ仕草がとんでもなく絵になる。
こうして凪と二人で休日を過ごしたい女性は数えきれないほどいるだろうに、あえて自分を選ぶ凪が理解できなかった。
「凪はさ……私といて楽しい?」
我ながら重い発言だなと自覚しつつ、どうしても気になって凪に尋ねた。彼はきょとんとしてグラスをテーブルに戻す。
「不安になったん? ぎゅってしたろか?」
「!! や、やめとく。そうじゃなくて……! 今日に限らず、再会してから特に凪にもてなしてもらってばっかりやん? 私も凪のこと楽しませたいと思うのに、平凡で面白みないし、全然彼女らしいことできてへん。申し訳ないなって……」
「はは。ほんまに分かってへんな~」
「え?」
「今日莉子が隣にいてくれることにどれだけ俺が浮かれてると思う? それこそ一挙手一投足が気になって仕方ないし、笑顔ひとつ向けられるだけでめっちゃ舞い上がってんのに」
「!?!?」
「――だから余計な心配せんと、いつも通り側におってや。それだけですごい楽しい」
愛しげな笑みを返す凪がこちらに手を伸ばし、テーブルの上に置いていた手に掌を重ねてきた。大きな掌に優しく包み込まれ、凪の体温を感じて、彼が側にいることに安心を覚えた。




