深夜の恋愛相談2
『それで? 莉子はどうしたいん?』
「……分からん。ずっと考えてるけど、答えがでない。だから舞花に相談した」
『ふ~ん、珍しいな。莉子、潔良いタイプやから気ないならその場できっぱり断りそうやのに』
「自分でもそう思う。正直、凪と付き合うのは考えられへん。出会った時から恋愛対象に見ないようにしてたし、向こうも同じやと思ってたから」
『なるほど。今更急に言われても困るってことやんな。でも告白されて始まる恋もあるやん? 男として意識してみてアリかナシか判断したら? はっきり言って氷室くんレベルの超優良物件は二度と出会えんやろうしもったいないで。どうしてもタイプじゃないとかなら別やけど』
「タイプとかそういう問題じゃないねん。何ていうか……怖い」
『氷室くんが? なんで? 付き合ったからって過度に束縛したり、いきなり体の関係無理強いしてくる余裕ない男ちゃうやろ』
「それは分かってる。怖いっていうのは、その……もっと精神的な話で。意味分からんと思うけど、凪のことそういう風に見るってことは、色々後戻りできんくなりそうで、あんまり考えたくない」
枕を横に放り投げ、膝を抱えてふーっと息を吐く。
「自分の都合で凪の気持ち受け入れられへんのに、このまま友達でいたいって言うのは残酷やんな? 仮に友達続けるとしても、前とまったく同じようには見られへん。でも凪と縁が切れるのは嫌で……。どうするのがお互いにとって一番いい選択か分からん。堂々巡りで答えがでない」
胸にわだかまっていた気持ちを全部吐き出すと、肺に空気が巡って少しだけ落ち着いた。
「深夜に相談持ちかけといて、優柔不断でごめん」
『別にかまわへんよ。滅多に人に頼らん莉子に頼られんの、気分いいし♡』
「ありがとう。今まで何かあってもわりと迷わず決断できてたから、こんな風にくよくよ悩んだことあんまなくて。ほんまに困ってた。凪と話すにしても、自分で自分の気持ち整理できてないから、焦って取り繕って余計傷つけそうで怖い」
舞花がふふっと電話越しに笑う。理由が分からず眉間に皺を寄せると、それを見透かしたように明るく言う。
『莉子さぁ。氷室くんのことめっちゃ好きやん』
「は? いや、だから凪はそういうんじゃなくて」
『分かってるて。でも恋愛云々関係なく、傷付けたことに冷静でいられなくなるくらい心乱されて、どうにもならへん感情持て余して苦しんで、それでも誠実に向き合いたいと思える相手なんてそうおらんやろ? 莉子、基本ドライというか達観してるし。それだけで十分特別やん』
「んんん……」
『認めたくないんや? 難儀やなあ』
カラカラと笑う舞花が若干憎らしい。むむむと唇を結ぶと、思いのほか優しい声がした。
『答えが出ないのが、答えやないの?』
「え?」
『どれだけ考えても今は答えが出ないって。そのまま伝えてみたら? 氷室くん懐深そうやし、受け入れてくれると思うけど。それにあんまり間空けると余計気まずくなって連絡しにくくならん?』
「それは、そう、やな」
『やろ? 別に疎遠になってもかまわんって思える程度の相手ならええけど、どんな形であれ莉子にとって大切な人なんやったら、どれだけ気まずくて勇気が必要でも頑張って歩み寄らなな。実際向こうもそうしてくれたやん』
「いつの話?」
『同窓会の日。何年も連絡取ってなかったなら、莉子に声掛けるの勇気いったと思うで。莉子も気が引けて氷室くんに近付けへんかったやろ? でも彼は莉子との縁を繋いでいたいと思うから、頑張ってくれたわけやん』
「……!」
『相手にとって自分がそういう価値のある人間なんやって自覚して、素直に気持ち打ち明けたらええよ。たとえ相手の期待する返事とは違ったとしても、真摯に向き合えばちゃんと伝わるから』
舞花の言葉がすっと胸に染み入る。そして凪が勇気を出して歩み寄ってくれたことに改めて気付く。
スマホを手に取り正座した腿の上に置くと、舞花はちゃっかりと逃げ道を用意した。
『ま、仲直りできるかは知らんけど。上手くいったらコンサル料よろしく♡』
「ふ。了解」
肩の力が抜けて、ようやくまともに呼吸ができるようになった。舞花に心から感謝を捧げると、感慨深そうに言う。
『しかし氷室くんほんまに莉子のこと好きやねんな~。普通友達として親しかったら、好きになっても伝えるの躊躇するやん。それも100%自分は対象外やって分かっててさ。でも彼は勝算度外視で、気持ち伝えずにいられへんかったんやろうなぁ。これまで積み重ねてきた関係壊しても、親友の立場変えたいって本気で思ってるってことやで』
舞花に指摘され、凪の想いの強さを思い知る。告白された時のことを思い出し、顔に熱が集まってきた。無言で頬を手で仰ぐと、胸中を察した舞花がにやりと笑うように忠告する。
『またえらい男に惚れ込まれたなぁ。氷室くんに口説かれて落ちん女おる? 出会って三秒で女虜にする手練れやで? 恋愛初心者の莉子に抗えるん?』
にやにやにや。効果音が聞こえてきそうな舞花にひくりと頬を引き攣らせ、ベッドボードに後ずさる。
『近いうちに氷室くんに沼る結末に一票♡』
「っ心臓に悪い不穏な予言せんといて……!」
両手で顔を覆い、深呼吸して落ち着いた。
「ありがとう舞花。明日朝起きたら、凪に連絡する」
『うん。朗報待ってる♡ ほなまた~♡』
プッと通話が終了する。莉子は一度天井を仰ぎ、凪へ送るメッセージを考え始めた。




