とある日の創世者様
本日(1/20)電子書籍発売となります!
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「ふい~、疲れた~」
見慣れた部屋のソファに腰を鎮めて、ズルズルと背中からずり落ちていく。
「なーんでこんなに働かにゃならんのだ。私は創世者様だとゆーのに……」
数多の新世界を造り、魂を導く崇高な使命を担う者である。
役目を引き受けてほしいと打診があったとき、なんと立派な仕事だろうとふたつ返事で快諾したが、蓋を開ければただの社畜同然であった。
「上手い話には裏がある――、とはよくいったもんだ」
創世者様は、しばしのあいだ沈黙した。そしてのろのろと体を起こした彼がパチンと指を鳴らせば、晩酌用のワインボトルとグラスが、今しがた現れたサイドテーブルの上に揃って並んだ。
「は~~、飲まなきゃやっとれんわい!」
乱暴にボトルをひっつかみ、なみなみと注ぐ。香りを楽しむこともせず、喉を鳴らして一気に煽った。
二杯、三杯とつづけて飲み干せば、体がじんわりと温まり幾分気分がよくなった。心が軽くなれば、おのずと口も軽くなる。さらに、ここには彼以外に誰もいない。愚痴も不満も言いたい放題である。
「大体、最初の説明のときに~、こんなに番狂わせの魂が多いなんて聞いていなかったぞ。騙された~」
創世者様が任された仕事とは、トクベツな魂を世に送りだすことであった。
「そりゃ、うっかり死んだ者は不幸といえるし、同情もするがなぁ」
特別な魂とは、今世で予定外に死んでしまった者の魂である。
人は希望を抱いて世に生まれる。短くも儚い人生で、たくさんの望みを叶えようと、待って待って待ちこがれて現世にいくのだ。
ただし、そこはたくさんの人間がすでに生きて、社会を形成し生活を営んでいる。小さなタイミングの掛け違いで思わぬことが起きるのだ。
例えば――
歩道を歩いていただけなのに、トラックが突っ込んでくるだとか。
いつも通る横断歩道を渡っていたら、信号無視の車が突っ込んできただとか。
電車に乗っていただけなのに、無差別殺人現場に居合わせてしまったり。
世をはかなんでビルから飛び降りた人間が、ちょうど上から落ちてきたり。
ほんの少しズレてさえいれば助かったのに、まるで狭間に吸い込まれるかのように失われてしまう魂が存在する。
可哀想ではあるが、肉体が損傷したのなら魂は輪廻にかえる宿命である。
次に現世にいくまでに、長い刻を待つことになるのだ。輪廻転生の順番は非常に長い待ち行列がつづいているので、仕方なかった。
人生を全うできた魂はいい。ふたたびの現世に夢を抱きながら待ちつづけるのは通常だ。けれどたまたま運悪く死んでしまった者、とくに本人に非が無くて待たされるのは不公平な話でしかない。
『どうして私は死ななければならなかったのでしょうか?』
死んだ魂が涙ながらに訴えてくる。
いつもと同じように学校へ行く途中だったのに。子供を迎えに行こうとしただけなのに。たまたまコンビニに寄ろうと角を曲がっただけなのに。
『一体私のなにが悪かったのでしょうか?』
なんで、どうしてと問いかける魂たちに、掛ける言葉がみつからない。それどころか、再び長い長い待ち行列に並んでくれといわねばならない。
それって、ちょっとおかしくないか? ついでに、説明しづらいことこのうえない。
肉体が失われた元の世界に戻ることは不可能だが、せめて突然に奪われた寿命分、彼ら彼女らにはすぐに別の人生を与えてあげてもよいではないか。――と、誰にともなく話題にあがったのは当然の流れであったのかもしれない。
『――だからね、君にお願いしたいんだ。理不尽に喘ぐ魂を鎮めるために彼らを導いてあげてほしい』
口を交わすことすら叶わぬほどのさる高貴な身分の御方から、直々に頼まれた。
天にも昇るほどの高揚感に包まれながらも、その心遣いと采配に、もっともだと頷いたのだ。
「――愚痴っても、結局は役目をつづける答え以外に選べんのだ。私は」
選ばれたことが嬉しかったのもある。番狂わせの魂にも同情していた。
疲れても面倒だと思っても自問自答の末に辿り着く答えはいつも同じ。
創世者様は今日も明日もあさっても、自らに与えられた役割を全うする以外の結論には至らないのであった。
「――よし! 残りの仕事を片付けよう。な~に、私にかかればこんなもの、ちょちょいのちょいよ!」
幸か不幸か創世者様には注意をする上司がいない。彼はひとり淡々と仕事に遵守するくらいに真面目なのだが、酔った勢いで働く程度にいい加減でもあった。
「たしか、この辺りに対応済みのカルテが放置してあってだな~」
提出用に纏めねばならない。乱雑に書類が放り込まれた箱の前にしゃがんで中から封筒を取り出した。
「あ~、こいつかー。いたいた、なつかしー」
理不尽に奪われた魂の中でも、死んだ理由が自業自得寄りで生への執着も薄い魂であった。
「熱中症を放置して眠りこけて死ぬような間抜けはめずらしすぎて忘れられん。しかも死んだことをあっさりと受け入れたのも気に食わんかった!」
魂をぞんざいに扱った奴など断りたかったが、番狂わせに含まれたので仕方ないと対応した。
カルテをみれば、生前なに不自由なく暮らしていたことがうかがえる。
「――不満も不足もありはしないから、死んだこともすぐに仕方ないと割り切れたんだろうな」
未練の多い魂ほど、泣いて喚いて生き返りたいと叫ぶのだから。
「ああ、でも、――そうか。――こいつ……」
創世者様はカルテを捲り、無心に読みはじめた。
たくさんの魂を裁くために、彼は繁忙期には身体を複数に分けて対応にあたる。とある分身体の持ち帰った記憶が、この魂のその後を知っていた。
「前にきた、真っ赤な髪のアイツだったか!」
再び相まみえたということは、転生先でも番狂わせになったのだろうか。
「ツイてないにも、ほどがあるだろうに。――いや、待てよ」
一瞬にして、酔いがさめる思いをした。
「こんな都合の悪い話、どう報告せいっちゅーねん!」
思わず頭を抱えて、なんとか取り繕う言い訳を考えあぐねいた。カルテを見直して思案していると、バラバラに収められている彼の脳内記憶が再び形を成していく。
「ああ、そうだそうだ。思い出したぞ。――これは面白いな」
創世者様が、今度は顎に手を添えてニヤリと笑う。
アイツは、まるでやる気のない風情だった一度目とは違い、二度目は泣いて叫んで戻せと怒鳴ったあと、ほどなくして現世へと還っていったのだ。
彼女の人生がいかほどにドラマティックな仕上がりとなっていたか、ふつふつと興味が湧いた。
いつの間にか複数枚に増えたカルテから、ひとつを選ぶ。
「これが一番新しそうだな。どれ、ちょっと覗いてみるとしよう」
創世者様は、宙に浮かんでラクな姿勢をとると、目を瞑って赤い髪の少女の人生を垣間みることにしたのだった。
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