19.青薔薇進級
花々が美しい春の季節が訪れる。国の第一王子であるウィリアム・フォン・カッセルは、婚約者のロゼッタ・アンデルセンと共に青薔薇クラスへと進級した。彼の従者である、オスカー・クローグと、友人であるクリスティアン・モーテセンも同じ青薔薇クラスだ。
そして各々が進路を意識する魔法学園三年目。最初の中間テストの結果が貼りだされた。
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01.(400点)【青】ウィリアム・フォン・カッセル
01.(400点)【青】ロゼッタ・アンデルセン
03.(398点)【青】クリスティアン・モーテセン
04.(396点)【青】オスカー・クローグ
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25.(354点)【青】エリーゼ・イエンセン
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(よし!満点でロージィと同率一位だ)
三年目の春に念願叶って婚約者と肩を並べたウィリアムは、ホクホクと上機嫌でロゼッタに話し掛ける。
「ロージィ。一位おめでとう!お揃いだね」
「殿下。ふたりで一位も感動ですけど、クリスティアンとオスカーも順位を上げてきてますね」
「そうだね。でも僕とロージィが教えたんだから当然の結果だよ」
「でも、本人たちのやる気も凄かったですから」
自分たちが教えたふたりの生徒の素晴らしい成績を喜び合う。ふたりで教室に入れば、満面の笑みのクリスティアンに出迎えられた。
「殿下、アンデルセンさん! 聞いてください」
「クリスティアン、テストの結果のことね!凄く順位を上げていたもの」
「違うんです!それも勿論嬉しかったんですけど、今朝畑をみにいったら、例の薬草が花をつけていたんです!」
「まぁ! それなら聖域の森の再現ができたってこと?」
「かなり近しい条件が分かったところですね!」
「やったじゃない、クリスティアン!」
「はい!」
ロゼッタとクリスティアンが手を取り合ってきゃあきゃあ騒いでいる。少しだけ嫉妬したウィリアムがさりげなくふたりの手を外した。
「おめでとう、クリスティアン」
「ありがとうございます。殿下」
そしてこの偉業はクラブ活動の報告として、しっかりと提出された。
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使い古された剣を抱えたオスカーが部室に入ると、仁王立ちしたウィリアムとロゼッタが待ち構えていた。
「わっ。おふたりともどうしたんですか、そんな怖い顔、して……」
なにかを察したオスカーは、ふたりから目線を外した。
「オスカー様、部室の倉庫が武器で埋まってます。その手に持っている剣を加工する前に、仕上がった魔剣をどうにかしてください!」
「そんな!」
「オスカー、さっき数えたけど軽く百本超えてたよ。どこで材料を貰ってくるのさ」
「えっと、騎士団繋がりの連中から刃こぼれしたものとか練習用のものがいくらでも集まるんです。魔剣にしたものは、どれも思い入れがあるので手放すのはちょっと」
渋るオスカーを説得して、なんとか貰い手を探すことを合意させる。
「せ、せめてお気に入りの二十本は置かせてください」
「ここじゃなくて、自分の家に持ち帰りなよ」
「持って帰ると全て家族にとられてしまうんです。卒業して城に部屋を貰うまではここに置かせてください。お願いします!」
クローグ家は代々騎士として城に仕える一族だ。オスカーの父も兄たちも城の騎士団に所属していた。そして魔剣は国外からの輸入が大半で流通量も多くない。国内の技師も少ないため珍しいのだ。結果家に持ち帰るとオスカーの家族が興味津々で借りたまま返してくれないらしい。
「オスカー、二十本だけだからね。それ以外は今週中に貰い手を探しなよ」
「分かりました」
しょんぼりとしたオスカーは、残す二十本を選ぶために倉庫へと入っていった。
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学園生活三年目には、目玉となるイベントがいくつかある。その中で一番注目されるのはなんといっても学園で行われる舞踏会だ。開催が三ヶ月後に迫った昨今、パートナーを求めて熾烈な駆け引きが水面下で繰り広げられていた。
「ウィリアム殿下。なぜですか?」
少し涙目なロゼッタが、ウィリアムを見上げている。
「ど、どうしたの? ロージィ」
泰然自若な婚約者の珍しい反応にドキドキしながら、慌てて心当たりを探る。
「学園の舞踏会で、ウィリアム殿下がパートナーにエリーゼさんを選んだって聞いたんです。確かに私は約束したわけではありません。ですがそれは婚約者だから、当然選んでくれると思っていたからで――」
「っ! ちょっとまって、なに、え? え?」
全く心当たりのない話に動揺して聞き返した。
「私もそう聞きました。殿下が申し込んだと」
「ボクも、その話聞きました」
いつも一緒にいるオスカーとクリスティアンに肯定されて息を呑む。
「僕は、そんなこと一言もいってない!」
「「えっ!」」
「と、とにかく話の出所を探すんだ、オスカー! それからロージィ、僕はロージィと参加するつもりだから、それは信じて!」
「私、邪魔してでも殿下と一緒に踊りますから」
「ロージィ、信じて!」
なかなか誤解を解いてくれない婚約者に身の潔白を訴えつづけたあと、ウィリアムは噂を払拭すべく奔走したのだった。




