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【電子書籍化】転生!乙女ゲームの悪役魔女は冤罪処刑を回避したい(改題)  作者: 咲倉 未来
本編(Web版)

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12.憧れの学園生活

 レナルディアナ王国に春が訪れた。花々が美しいこの季節に、国唯一の魔法学園ベルティーダの入学式は行われていた。


 国中から魔力持ちの十六歳の男女が集められるが、ほとんどが貴族出身であり、なかには平民で魔力持ちの者を養子に迎えて送り込む家もあるのだとか。それほどにレナルディアナ王国は魔力に価値を置いている国なのだ。


 そして今年は国の第一王子であるウィリアム・フォン・カッセルが入学することもあり、非常に注目を浴びていた。


 亜麻色の髪にはしばみ色の瞳を持つウィリアム王子は、美しいと評判の王妃に似て容姿端麗だ。幼少期は体が弱く公の場にでることはなかったが、十一歳のころに病を克服してからは文武両道な高位の魔法師として高い評価を得ている。


 そして歩くだけで注目を集めるウィリアムは、その人目をはばからずに嘆いていた。


「なんでっ。どーして、僕とロージィが別々のクラスなのっ」

 両手で顔を覆って絶望中である。


 ベルティーダ学園は各学年二クラスの三年制だ。そのクラス分けは一年目は魔力の保有量で決められる。優秀な生徒はダイヤでつくられた白薔薇のピンブローチが配られ、それ以外の者はトパーズの黄色い薔薇のピンブローチを渡された。それぞれの薔薇の色は所属するクラスを示している。


 そして二年目以降は前年の学力でクラス分けが決められる。優秀な者はルビーの赤薔薇からサファイアの青薔薇へ、そうでない者はローズクォーツのピンク色からターコイズの水色へと薔薇の色が変わる。


 高位な魔法師の評価を持つウィリアムは、もちろん白薔薇のピンブローチを胸に挿していた。

 嘆くウィリアムの話を聞いているのは、幼少期より従者として仕えているオスカー・クローグだ。焦げ茶色の髪に青く鋭い目の精悍(せいかん)な顔立ちをした美男子だ。その胸には彼が仕える(あるじ)と同じ白薔薇のピンブローチが刺さっている。

 並べば絵になる美丈夫(びじょうぶ)たちは、なぜかこの祝いの日に揃って悲壮感(ひそうかん)を漂わせていた。


「仕方ありません。ロゼッタ様は、その、魔力の保有量が多くはないのですから」

「ロージィは稀代の大魔法師なんだ。魔力の保有量を補うだけの知識と技術を持っているのに。技巧勝負なら僕より優秀なのにっ」

「ら、来年は一緒のクラスになるんですから。一年の辛抱ですよ」

「はぁ~~~。こんな話、聞いてない!」


 やりとりは、彼らを遠巻きに囲う学生たちの喧騒(けんそう)に呑まれて消えていったのだった。


 ****


 ウィリアムが思い描いていた学園生活は、初日のクラス分けで無慚(むざん)に砕け散った。婚約者のロゼッタは黄色い薔薇のピンブローチをつけて毎日隣の教室へと去って行く。


「朝、寮から学園までの通学と昼食と、たまの放課後しか一緒に過ごせないなんて、ありえない」

「十分、一緒にいるのでは?」


 ウィリアムの従者であるオスカーは、思わずツッコミを入れた。授業中以外はウィリアムがロゼッタにべったりとくっついているのだ。


「僕は同じ教室で机を並べて勉学に励みたかったんだ。これじゃあ、城に居たときと変わらないんだからつまらないよ」


 学園入学前、まだウィリアムとロゼッタが城に住んでいたころは時間をみつけてはウィリアムがロゼッタの部屋を訪れていた。そのたびにオスカーは廊下で待たされていたのだ。


「殿下はよく毎日通えますね。尊敬します」


 仕事だからウィリアムに付き添っていたが、オスカーは毎日つづく逢瀬(おうせ)に内心呆れていた。


「ロージィは僕の看病の為に毎日通いつづけてくれたんだ。僕なんか足元にも及ばないよ」

「それは仕事だからですよ」

「オスカーは仕事でも抜け出してフラフラ遊びに行ってたじゃないか」

「ぐっ。そ、それは子供のときの話です。今はちゃんと職務をまっとうしてます!」

「オスカー、十歳の子供ならそれが普通だと思う。ロージィは十歳のときに僕のところへ通ってくれて、ずっとそばについて一日中看病してくれてたんだ。なかなかできることじゃないよね」


 目の前で組んだ手に額を乗せて、ウィリアムはロゼッタと出会ったころのことを思いだしていた。


 一日中寝たきりになったあのころ、母親は滅多に訪ねてこなくなり稀代の大魔法師も朝と夕方の二回だけ顔をだし治癒魔法をかけてくれるだけの日々。ずっと胸が苦しくて体も痛くて早く死にたいと思っていた。


 そんなある日、稀代の大魔法師が後継者の女の子を連れてきた。


 自分と同い年の、真っ赤な髪が印象的な可愛らしい女の子だった。


「今日から殿下の専任治療魔法師になりました。ロゼッタ・アンデルセンです」


 痛みで朦朧(もうろう)としていたから、よろしくねと挨拶をするのが精一杯だった。

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