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第88話 任務完遂の為に

 オデットとの模擬試合の後……

 俺達は朝食を摂りながら今後の事を話し合っていた。

 オデットが加わった事、そして俺が水属性の魔法を習得した事によって俺達のクラン黄金の旅ステイゴールドは更に戦力が厚くなった。


 俺はふと考える。

 もし噂に聞いている地の精霊が加わった場合は一体どうなるのか? いくらルイの戦乙女とはいっても何かある気がするのである。


 まあ良い。

 まずは目の前の依頼ミッションをこなす事を考えよう。

 キングスレー商会のチャールズ・キングスレーより依頼のあった大仕事。

 北の大国ロドニアへ10台の馬車を駆って商品輸送と販路開拓にあたるマルコ達商会の人間と荷駄の護衛の仕事の出発が10日後に控えているのだ。


出発までにやる事は結構ある。


 マルコ・フォンティから依頼のあった武器防具等の装備一式。

 これはドヴェルグのオルヴォに依頼してあるので様子を見ながら期日までに納品する必要がある。ちなみにマルコ以外には御者を含めて15人のスタッフが同行するが、彼等の武器防具は商会手配の物にするそうだ。


 1番大事なのはロドニアへのルートの確認だ。

 道中のリスクを少しでも避け、商隊を襲ういわれのない暴力を排除するのが俺達の役目である。これに関しては、俺達は事前に下調べをしようと考えていた。

 飛翔魔法を使って地形なども含めて把握しておきましょうと言うのがフェスの意見である。

 確かに俺達クランの仕事の達成の為、マルコ達商会の人間の安全の為、これはやっておきたかった。

 商会から話のあったルートはバートランドから王都セントヘレナ、そして国境沿いの街ノースヘヴンを経て国境を越えて進み、今回の目的地である隣国ロドニアの王都ロフスキにとなる。


 俺と3人の精霊達は飛翔魔法を使えるのでさほど苦にする事ではない。

 早速、今日にでも出発しようという事になる。


「ふふふ、道中の掃除をしておこうと言う事ですね」


 オデットは先程俺に喰らった手痛い敗戦の事などすっかり忘れて指をぽきぽきと鳴らしている。

 これはまた、立ち直りが早い。

 そして彼女は多分―――戦いが好きなのだ。

 俺としてはいつまでも引きずるより、彼女のこんな性格は却って有り難い。


 オデットとしてみればルイ以来の底の知れない主に仕える事が出来てその計り知れない力に触れてみたいという欲求もあるのだった。


「ではこの後、午前9時に空間転移魔法で出発、成り行きですが我々なら最低でも5日あればロフスキまで行って帰って来れるでしょう。ではのちほど……」


 朝食を摂り終えた後にフェスがそう宣言し、俺達は出発の準備にかかったのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 午前9時……


「何故、こんなまどろっこしい事をするのだ? この屋敷から直接、飛翔して行けば良いではないか?」


 オデットが疑問と不満を述べるが、この場でいちいち説明すると時間がかかってしまう。

 空気を読んだクラリスがすかさずフォローした。


「まあまあオデット姉、いろいろわけがあるんだよ。道中説明するからとりあえず出発しよう」


「しかしだな……」


「オデット、弁えなさい」


 食い下がるオデットにフェスがひと言告げると彼女もやっと黙ったのであった。

 俺はそんな彼女達を尻目に転移魔法の言霊を詠唱すると亜空間が現れる。

 俺が容易く亜空間を出現させたのを見て、オデットが吃驚するがフェスやクラリスは躊躇無く中に入って行く。

 呆然としているオデットの手を掴み、俺も彼女達の後に続いたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 亜空間から空間を繋いで俺達は今、バートランド近郊の森の中に出た所である。

 オデットはまだ怪訝な表情である。

 相変わらず納得が行かないらしい。

 そして俺に手を握られた事がショックらしく手を押さえている。


「オデット、おいで」


 俺が手招きすると彼女はそれも不平らしく、思い切り頬を膨らませてやって来た。

 まるで子供のようだ。

 俺は苦笑するとどうしてそのまま飛翔しないのか、正門を出ないのかという理由わけを話して行く。

 我々の力を必要以上に見せない事。

 もし、それが知られれば王国間を巻き込む争い事になりかねない事など。


「良いではありませんか? 主の偉大な力を見せつけてやればいいのです」


「おいおい、見せつけてどうする? その後が面倒だぞ」


「面倒? 何が面倒なのです?」


 その時俺とオデットに割り込んできた人物が居た。

 クラリスである。


「ホクト様、駄目ですよ。オデット姉は人間の言葉で言う脳筋ですから」


「脳筋!? 何だ、それは? 褒め言葉か?」


「な、わけないでしょう。脳筋って何も考えていないって事よ」


「にゃ、にゃにおう!」


 さらりと言うクラリスの言葉に激高するオデット。

 俺はまあまあとオデットを抑えて、改めて説明する。


「なあ、オデット。よ~く考えてくれよ。もし俺達の力が分ればこの大陸の各国は囲い込みたいと思うに違いないよ」


「囲い込む? ふ~む、召抱えようとするという事ですか?」


「当たりだよ、しかし俺達は当然断る。そして全ての国の誘いを断ったらどうなると思う」


「う~ん、分りません」


 人間と言うのは脅威があればそれを排除しておきたいと考えるんだと俺は言った。


「排除……それは殺そうとする事でしょうか?」


 俺が頷くとオデットは目を爛々と光らせる。


「面白い! 返り討ちにしてやりましょう!」


 あのなあと俺は呆れ顔でオデットを見詰めた。

 フェスやクラリスも同様の表情である。


「この大陸全て、いやローレンスは来ないか…… 殆どの国が全力をあげて俺達を殺しに来るんだぜ。俺達は世界各国共通の敵になるからな」


「そ、それは!」


 ごくりと唾を飲み込んだオデットに俺は言い放った。


「間違いなくこの大陸全てを巻き込んだ戦争になるよ……俺達は勝てるかもしれないが、そんな事、俺は全く望んではいない。不可抗力ならともかく、少なくとも俺自ら原因を作ろうと思わないよ」


「…………」


 俺は黙ってしまったオデットにゆっくりと頷いて先を急ごうと促したのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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