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「ルー①」

 みんなと別れ、家にたどり着いたのは午後も6時を過ぎた頃だった。

 今日の我が家はカレーだろうか、香ばしいスパイスの香りが、家の外まで漂って来ている。


「お帰り花、プールどうだった?」


 玄関を開けると、待ってましたとばかりにお母さんが寄って来た。

 エプロンで手を拭きながら、ニヤニヤ、ニヤニヤと笑みを浮かべている。


「……べ、別に。普通」


 へどもどと答えながら靴を脱いだわたしの答えに、お母さんは不満そうな声を出した。


「ええー、別にってことないでしょー? あんた、珍しくあんな普通の格好してえー。みんなで遊ぶって、誰かその中に好きな男の子でもいたんでしょー?」


「ち、ちがっ、違うからっ。そんな人いないからっ」


 なおも追及してくるお母さんから逃れると、わたしは自室に駆け込んだ。

 後ろ手でドアを閉め、鍵をかけ、そのままその場に座り込んだ。

 

「ハアー……もう、お母さんたら……」

 

 大きなため息が漏れた。

 もう、なんてことを言うのだろう、お母さんなのに、子供で遊んで。


 珍しいのはわかる。

 遊びといえばひとり遊びばかりで、基本自室に閉じこもりがちなわたしが、突然『みんなとプールに行く』なんてことをすれば、勘ぐるのが普通だろう。

 しかもそのために水着を新調して、格好もなるべく普通の女の子っぽいものを選んで。

 好きな人ができたんじゃないか、そう思われてもしかたない。

 しかたないんだけど……。


「好きな人とか……」


 今しがた放たれたばかりのお母さんの言葉を思い出すと、我知らず、カッと頬が熱くなった。


「ぜ、全然そういうのじゃないし……っ」


 一瞬グインの顔を脳裏をよぎったが、慌ててかぶりを振った。


「た、たしかにグインは今までいなかったタイプの人で、わたしのこともバカにしないで傍にいてくれる人で、わたしがバカにされてたら助けてくれて……。たしかに尊敬してるし、いい人だなと思う。でも、好きとかそういうのは別問題で……別問題のはずで……」


 グインは友達、クラスメイトで、得難いソウルメイトで、それ以外の何者でもない。

 

 なのに、なぜだろう。

 グインの顔が頭から消えてくれない。

 笑いながら話しかけてくれた言葉が、プールに落ちそうになったのを支えてくれた手の力強さが、今もまだ耳に、腰に残っている。

 

「そういうのじゃない……もん」


 わたしはつぶやき続けた。

 何度も、何度も。


 やがて彼の声が、肌の熱さが消えた頃。

 目に飛び込んできたのは壁に貼られたカレンダーだった。

 8月の終わり、赤いマーカーで丸のされたその日付けは、再び彼と出会える日でもあった。


「……」


 その日付けをわたしは、じっと静かに見つめていた。

 ただただ、静かに。



 



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