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76 期待させやがって!

 期待させやがって!

 ……いや、今のは私の勝手な先走りだ。この人達が悪いわけじゃない。それに、人柄も確認せずに、見た目と条件だけで飛びつくなど、アラサーの喪女じゃあるまいし……、って、精神年齢というか生活年齢というか、そっちじゃ27歳過ぎてるから、充分アラサーだあああぁっっ!

 いやいや、待て待て、あのクソ王太子にプロポーズされたから、喪女の称号は返上できるんじゃね?

 いやいやいやいや、あれはノーカン、ノーカウントだ!


「……はい」

 椅子の横に置いていたバッグに手を突っ込み、その場で作った2本の治療薬を掴み出してテーブルの上にドンと置いた。不愉快な気持ちは押し隠したつもりだったけど、仏頂面になるのは抑えきれず、中隊長さんが少し焦ったような顔をしている。多分、会食の席で図々しい要求をされたことに気分を害した、とでも思っているのだろう。

 ……と思ったら、中隊長さん、急ににやにやし始めやがった。

 くそっ、読まれたあぁ!!


 そして待ちきれず、既にはぐはぐと料理を食べ始めているレイエットちゃん。いや、とっくに会食は始まっているのだから、「待て」の時間は終わっている。食べていて構わないんだけどさ。

 で、私も、照れ隠しもあって、猛然と食べ始めた。

 ……うむ。貴族家だけあって、ちゃんとした素材、ちゃんとした調理で、しっかり作られている。しかし。

「…………」

 レイエットちゃんは、あれ、というような顔をしている。うん、自分がいつも食べているものとそう変わらない、ということに気付いたらしい。


 そう、実は私が作っている料理は、かなりの自信作なのだ。

 素材は、安くていい物が手に入る時に大量に購入して、アイテムボックスに入れてある。なので、品質も鮮度も抜群。そしてポーション作製能力で造った、地球の科学の粋を極めた調味料の数々。更に私は、中学生の頃から母親に代わって夕食を作ることもあった。なので、下拵したごしらえとか出汁だしの取り方とかの料理の基礎から、かなり手の込んだ調理法までマスターしていた。つまり、料理の仕方がかなり大雑把おおざっぱであるこの世界では、私はプロの料理人にも引けを取らない料理が作れるのである!

 化学調味料は卑怯? ……うん、私もそう思う。


 まぁ、そういうわけで、特別裕福というわけでもない平民にとっては生まれて初めて食べる御馳走であり、私達が料理の美味しさに感激するであろうと思っていたらしい子爵家御一同と、料理のあまりの素晴らしさに驚く平民の少女達の姿を見て自分の仕事に満足感を得ようとでも考えたのか、厨房からわざわざ自分で料理を運んできた料理長とおぼしき太った料理人さんは、少し不満げなレイエットちゃんと、普通に食べている私を見て、何だか少し当てが外れたかのような顔をしている。

 ……いや、知らんがな!


 そして、少し気落ちしたらしき料理長さん(推定)が厨房に戻った後、食事をしながらの御歓談。

 どうやら、やはり息子さん達は軍人で、ひとりは近衛軍、もうひとりは中隊長さんとは別の大隊で小隊長をやっているらしい。

 小隊長なら、少尉か中尉くらいか。地球なら、大卒で士官候補生として入隊、士官学校を出て数年、といったところか……。

 勿論この世界では、成人となる15歳までの間に受けさせた、家庭教師による教育が「大卒」の代わりなんだろうけど。

 つまり、貴族か、かなり裕福な家の者しか最初から士官候補生として入隊することはできないというわけだ。地球でも、昔は、貴族しか士官になれないという国は珍しくもなかったし。下っ端兵士からの叩き上げの士官が普通にいるらしいこの国は、進んでいる方なのだろう、多分。


 父親と同じ部隊では甘えや親の七光り等の悪影響があるから、あえて他の大隊や近衛に行かせた、とのことであり、それも嘘ではないのだろうけど、多分、本当の理由はアレだ。『漁師は、父親と息子は同じ船に乗せない』というやつ。もしその船が遭難すれば、家が途絶えちゃうからね。

 まぁ、近衛軍の方がエリートっぽい響きだから、そっちを優先しただけ、という可能性もあるけど。近衛軍だと、ずっと王都にいられそうな感じだし。

 ふむ、だから、まだ1回しか治療薬を納入していない近衛軍とか、中隊長さんとは別の大隊所属の息子さん達には、まだ治療薬が行き渡っていないわけか。王都軍の方の息子さんなんか、「お前は親父さんから廻して貰えるんだろ!」とか言って、後回しにされていたりして……。でも、中隊長さん、そういうところでは公私混同しない、堅物っぽいよねぇ。


 で、どうして平日なのに、しかも軍服のままでふたりとも家にいるのだ? そしてお姉さん達、その年齢と服装からして、既に嫁に行っているのでは?

 ああ、私を今日招くことは数日前から決まっていて、みんな休暇を取ったり実家に戻ってきたりして集まったわけか。

 ……何のために?


 うむむ、確かに本来の依頼事項は本当に困っていた本気の依頼だったのだろうけど、もしそれが不首尾に終わったとしても、何らかのメリットが得られるように画策していた? 大隊長である中佐さんや他の3人の中隊長さん達とは関係なく、中隊長さん、いや、ラルスリック子爵様の個人的な思惑で……。

 でも、私と顔繋ぎをさせるために息子を軍務から抜け出させたり、娘を婚家から呼んだりした割には、私を息子さん達の嫁に、というつもりは全然なかったんだろうね。もしそういうつもりなら、事前に息子さん達にその旨説明していただろうし、それならば、開口一番に「治療薬を分けてくれ」は無いだろう。

 くそ、子供に見えるからか!


 いやいや、待て待て。

 よく考えてみれば、ここは身分制度がある国なのだ。いくら下級貴族である子爵家とはいえ、跡取りである長男や、その予備である次男を、他国から流れてきた身元不明の未成年(に見える)の少女と結婚させるわけがない。いくら、多少の利用価値があろうとも。

 せいぜいが、家族ぐるみで仲良くなって、あわよくば一方的に息子に惚れさせて、いいように利用しようとでも……、って、今の状況そのままやんけ!

 くそ……、って、いかんいかん、最近、言葉遣いが荒れている。いくら脳内でのみとはいっても、そういうのを続けていると、いつか口に出るかも知れないし、そもそも、心がすさむ。落ち着け、自分! ひっひっふー、ひっひっふー……。

 あっ、そうだ!


「……私も成人しましたし、そろそろ『い人』が欲しいんですよねぇ……」

 既に嫁いでいる娘さんの婚家の話題に引っ掛けて、少しアピールしてみたところ。


「「「「「「ブフォォッ!!」」」」」」

 ……どうして噴き出す! しかも、全員が!!


「いや、だから、私は大人で、薬屋の経営者で、この子、レイエットちゃんの保護者ですから! 別に、子供店長ってわけじゃないですから!」

 うむ、こうして私が結婚対象年齢であることをじわじわと広めて行き、婚活を進めていくのだ。

 成人、という言い方をして、年齢をハッキリ言わないのは、それは、アレだ。仕方ないのだ。

 何しろ、転生した日を15歳の誕生日としているので、それだと今の年齢は19歳半。わざわざ自分で「締め切り」を早める必要はないのである。

 かといって、15~16歳だとかの嘘を言うのは気が引けるし、ロランドやフランセット達にジト目で見られそうだし……。それに、捕まえた旦那様と一緒にバルモア王国に戻ったり、私に関する噂が届いたりすれば、年齢詐称がバレてしまう。さすがに、年齢を詐称して結婚するわけには行かないだろう。なので、年齢はボカす。わざわざ女性に年齢を確認する者はいないだろう。


「「「「「「その外見で、子持ちいぃ~~!!」」」」」」

「違うわ! 保護者なだけで、母親と違うわあぁ!!」

 そんな噂が流れたら、婚活に大ダメージだよ!

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― 新着の感想 ―
中隊長に仕返しの吹き出しをさせるのに成功しましたね!覚えてなさそうだけど
[一言] おいおい、あの弁当は貴族の料理と遜色無いのかよ そりゃ売れるな
[良い点] 目付きの悪い子持ち?(笑)
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