73 宝探し 2
はぁはぁはぁ……。
羊皮紙を床に叩き付け、荒い息をつく私と、それを呆然と見ている中隊長さん。
いかん、何か言わねば!
「分かるか、こんなもん!」
違う、そうじゃない!
「わ、分かりませんわよ……、って、気持ち悪いわ!」
思わず営業スマイルでしなを作ってしまい、自分で身悶えた。
中隊長さんは、ワケが分からず、眼を白黒させている。
「暗号でも、何でもないじゃありませんか! これで、どうやって探せと!」
「え? 文章から、書いた者の意図を読み取れるのでは……」
素で驚いているらしい、中隊長さん。何だよ、それ!
「私は、神様とは違いますから! ただ単に、言語能力が優れているから『文脈が読める』だけであって、書いた人の残留思念とかを読み取れるわけじゃありませんからっ! だから、『ぶぶ漬けでもどうどす?』と言われたら、『お茶漬けでもお食べになりませんか?』とは聞こえても、『さっさと帰れや、長居しやがって!』とは聞こえませんよ!!」
ぶぶ漬けとかお茶漬けとかが何のことかは知らない様子だけど、何となく私が言わんとしている意味が分かったらしき様子の中隊長さん。
「……そ、そうなのか……」
あ、がっくりと肩を落とした。何か、気の毒だな……。
仕方ないか。出張サービス費、貰っちゃったしなぁ……。
「あ~、あの、暗号じゃないのは読めないからどうしようもないですけど、要は、財貨の隠し場所が判ればいいんですよね?」
「あ、ああ、その通りだが……。しかし、国境に近い領地邸に置いておくのは危険なのと、財貨を必要とする時は、食料の買い付けにしろ政治資金にしろ、支払うのは王都でとなるので、ここ、王都邸に運び込まれたのは間違いないらしいのだが、祖父も父も、そして勿論私もかなり探したが手掛かりすらなかったのだぞ。そう簡単には……」
こんなこともあろうかと、肩に掛けてきたバッグ。その中に手を突っ込んで、と。
(超高性能で超小型の、金探知機型容器にはいった回復ポーション、出ろ!)
そしてバッグから掴み出す、怪しい機械。
「え? それは……」
「金探知機、つまり、近くにある金を探知して、その場所を指し示す機械です」
「えええええ~~っっ!」
中隊長さんが驚きの声を……、って、いかん、この説明だと、野心を抱かれる可能性が!
「あ、ちゃんと精錬された高純度の金でないと反応しませんから、金の鉱脈捜しとかには使えませんよ。探知可能距離もごく短いから使い道が限られますし、高価だし、すぐ故障して、修理費が高くつくし……」
何とか探知機を「使えないヤツ」扱いして誤魔化したが、何か、ジト目で見られている。
まぁいい、さっさと依頼を済ませよう。
「えぇと、このボタンを押して、と……」
機械を操作すると、透明なガラス球の中に浮かんだ矢印状の指針がクルクルと回り、その後、一方向を指して停止した。
「こちらです!」
ガラス球を覗き込んでいた私が、意気揚々と顔を上げると。
……指針が指していたのは、中隊長の懐であった。
「あ~……」
うん、確かに、一番近くにある、精錬された金の在処だ。
私の巾着袋? アイテムボックスの中だから、探知の対象外だよ。
「ちょ、ちょっとお待ちを……」
あからさまに不審そうな眼で見る中隊長から眼を逸らし、探知機を操作する。自分が考えた通りの品なのだから、当然、性能も操作法も自分が考えた通り。私に使いこなせないわけがない。
「えと、中隊長さんの巾着袋は対象外にして、対象は金の量が300グラム以上にして、と……」
財宝と言うからには、それ以上の量の金があるだろう。宝石や真珠等もあるかも知れないけど、多分、金もある。インゴットか、もしくは金貨として。財宝に金が含まれていないなど、お約束として、許せるものではない! まぁ、もしそうでなければ、今度は「宝石探知機」の出番となるだけだ。
よし、仕切り直しだ。
針は部屋の壁を指しているが、勿論壁を壊したりはせず、ドアから出て回り込む。
いや、これで隣の部屋でもこちら側の壁を指したなら、その時には壁を壊すけどね。
そして廊下に出ると、針は隣室を指さず、もっと遠くの部屋を指している模様。よしよし……。
どんどん進んで行くと、針の先は、とある部屋へ。
「ここは……」
中隊長さん、何やら思案顔。しかし、意を決したのか、大きく頷いて、懐から何やら取り出した。
見てみると、それは巾着袋ではなく、鍵束であった。束、と言うほどではないが、いくつかの鍵が纏められたものに細いチェーンが付けられており、それが服の内側かどこかに繋がれている様子。そして中隊長さんは、そのうちのひとつを使い、部屋の扉の鍵を開けた。
どうやら、他の部屋と違い、ここは重要な部屋らしい。
中隊長さんに続いて私が部屋にはいると……。
「うわぁ……」
そこは、物置……、いや、宝物庫というか、金庫室というか、とにかく、子爵家の財産を保管している部屋のようであった。
窓は無く、中隊長さんがランプの灯りを点けてくれるまでは、開かれた扉からはいる光だけの、薄暗い部屋だった。
そして、点けられたランプの灯りに照らし出されたのは……。
「……物置?」
部屋中に陳列された、ガラク……様々な置物やら何やら、よく分からない品々。
いやいや、状況から考えて、物置はないだろう。さっき、「金庫室」とか考えてたよね、私! 何、正直に言っちゃうかな……。
「はは……。高値で売れそうな物は、あらかた売ってしまったものでな。残っているのは、あまり良い値で売れそうにない物と、我がラルスリック家にとり非常に重要な意味のある物だけだ。なので、数だけはあっても、価格的にはガラクタ同然だ。勿論、金額には関係なく、我が家にとっての宝であることには変わりはないがな」
「……すみません」
さすがに、ちょっと無神経だった。ここは、素直に謝罪するしかない。
そして、探知機の針が指し示す先にあるのは……。
『壁際に置かれた、大きな金庫』
……ありがとうございました。
「「…………」」
何とも言えない表情の、中隊長さん。
多分、私も似たような顔をしているのだろう。
金庫の中に、金貨が!
当たり前じゃ、ボケェぇ!!
「「…………」」
「「………………」」
「まぁ、一応、開けて見せようか……」
とてつもなく長く感じる数秒間が過ぎ、中隊長さんがポツリと呟いた。どうやら、希望が急速に萎んできた御様子。うむむむむ……。
そして再び懐から取り出した鍵束で開けられる金庫。その中には……。
20枚くらいの金貨。
この世界の感覚で、200万円相当というのは、そこそこの大金だ。でも、いくら弱小子爵家とはいえ、貴族家の大金庫の中身としては、あまりにもショボ過ぎる。
「ちょ、ちょっと待って下さいね!」
再び探知機を操作して、この金庫は対象外に設定。そして指針を確認すると。
ぐるぐるぐるぐる……
はい、探知圏内、対象なし、ですね、ありがとうございました!
そして、私の表情と探知機の針の動きから、全てを悟ったらしい中隊長さん。
「はは……」
「あはは……」
「「あはははははは、……はぁ」」
がっくし。




