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50 弄り

「な、何してやがる!」

 監禁部屋にはいってきた男が、ゲームに興じる私達を見て叫んだ。

 部屋にはいってきたのは、リーダーらしき人でも、さっきまで見張りをしていた人でもなく、20歳前くらいの、別の人。

 そして私達がやっているのは、リバーシ。オセロによく似たボードゲームだ。盤も石も、私の手作り。あ、石、というのは、駒のことね。白黒のやつ。


「どこに隠してやがった?」

「え? 最初から持ってましたよ?」

 そう言って、床に置いた革のバッグを示した。

「え……」

 男は眼を見開き、呆然とバッグを見詰めていた。

 そしてしばらく経つと。

「そ……、そうだったか?」

「そうですよ?」

「…………」

 納得いかない、という顔をして、男は椅子に座った。せっかく盤が絶対入らないサイズの小さなバッグにしたのに、気付いて貰えなかった。がっくし。



 そして、しばらく後。

「……何を喰ってやがる?」

「見ての通り、大串焼きとパン、それと葡萄ぶどうジュースですが?」

「どこから出した!」

「このバッグから……」

「入るかあああぁっっ!!」

 檻の中の4人の子供達は、全員が両手に大串焼きとパンを掴んでおり、足下に葡萄ジュースがはいった大きなカップを置いていた。確かに、それら全部が小さなバッグにはいるわけがない。普通なら。


「え、はいりますよ? みんな、食べ終わった串やカップを戻してね~」

「「「は~い!」」」

 そして、次々とバッグに入れられる、特大の串と4つのカップ。


「は、はいるはずがねぇ! はいるはずがねえぇ!!」

 そう叫ぶと、男は恐怖で血走った眼で部屋から飛び出した。最初の男と同じように。

 多分、またリーダーを呼んでくるのだろう。

 牢のカギはリーダーが持っており、見張りは自分で牢を開けることはできない。

 馬鹿な見張りが騙されてカギを奪われたり、商品に手を出そうと考えたりする可能性を考えれば、それは至極妥当な対処である。何かあった場合には、いちいちリーダーを呼びに行く必要があるが。


「またかよ! 今度は一体何だ!」

「あ、あいつらが、何やらおかしなものを持って……」

「どれだ?」

「あ、あの……」

 そして勿論、牢の中には、私達だけ。不思議なバッグも葡萄ジュースがはいったカップも遊戯盤も、何もない。

「…………」


「ふざけるな! お前達、俺をからかってるのか!」

 リーダーの男は、怒鳴りつけた。……勿論、私達ではなく、2番目の見張り番の男を。

「居眠りして夢を見る度に俺を呼ぶのかよ、お前達は! いや、その前に、そもそも見張り中に居眠りをする奴がいるか! いくら子供だとはいえ、見張りとしての任務を、いったいどう考えているんだ!」


 ……何か、新入社員教育みたいなのが始まっちゃったよ。

 この後、駅前で叫ばされたりするのかなぁ。おぉ、嫌だ嫌だ!

 いや、それは置いといて。


「お前ら、バッグとか遊戯盤とか串焼きとか、持ってるのか?」

 ふるふるふるふる。

 リーダーの問い掛けに、黙って首を振る、私達4人。

 あ、8歳の子のほっぺに、串焼きのタレがべったりと付いてる……。

「……来い」

 見張りの男は、リーダーに耳を引っ張られて隣の部屋へと消えた。タレには気付かれなかったようで、やれやれだ。

「よし、今のうちに、次の作戦を説明するよ!」

「「「うん!」」」



「……全く、何だってんだよ……」

 ぶつぶつと文句を言いながら現れたのは、見張りその3。20歳台前半くらいかな。

「俺の番は、明日のはずだったのに……。くそ、さっさと飲みに出てりゃ良かったぜ」

「あの、さっきの方達は?」

「上でリーダーに説教喰らってるよ。ったく、揃いも揃って居眠りして悪夢で大騒ぎ、って、馬鹿かよ……」


 あれ、前のふたりと違って、フレンドリーに話してくれる。話し好きなのか、子供好き……ならばこんな仕事はしないか。

 いや、専業じゃなくて、たまたま今はこういう仕事を受けているだけ、ということもあるか。ともかく、情報収集のチャンスは逃さない!


「あの、私達、これからどうなるんでしょうか……」

 不安そうな声で、聞いてみた。勿論、両手の拳を顎の前に持ってきた、例の『ぶりっ娘ポーズ』である。今使っておかないと、次に使える機会はいつになるか分からない。ここぞとばかりに使いまくる。


「あ……、ああ、危害を加えられることはないし、命の危険もないから、安心していいぞ。

 飢えることもなく、結構いい暮らしができるかもな。

 ま、主人付のメイド程度の仕事はさせられるかも知れんが、別に重労働ってわけでもない。可愛がって貰えれば、貧乏な下級貴族の四女程度の暮らしをさせて貰える可能性もあるぞ。羨ましいこった……」

 その日暮らしで、捕まれば絞首刑の犯罪者から見れば、それは本当に羨ましい生活なのだろう。見張りその3の男性は、心底羨ましそうな口調でそう言った。


 でも、それって、アレだよねぇ。

 愛玩奴隷とか、愛玩奴隷とか、愛玩奴隷とか、愛玩奴隷とか……。

 犯罪だ。

 いや、誘拐の時点で、既に完全に犯罪なんだけど、それに加えて、犯罪奴隷以外の奴隷は、少なくともこのあたりの国では、違法行為である。売るのも、買うのも、使うのも。


 犯罪奴隷は、奴隷という名ではあるが、あれは一種の懲役刑だ。

 牢に閉じ込めて無料タダ飯を喰わせるような慈善事業をやるようなお人好しの国はないので、そう大した罪でなくとも、簡単に死刑になる。それではあんまりであるし、人的資源の無駄になる。

 なので、死刑相当の者は鉱山奴隷か、戦時中ならば突撃要員。突撃要員ならば、手柄を立てて生き延びれば減刑や恩赦の対象となるので、じわじわと死に向かう鉱山奴隷よりはかなりマシである。


 その他、終身刑相当の終身奴隷、懲役刑相当の年限奴隷等があるが、とにかく、奴隷は犯罪者のみである。そして奴隷が産んだ子供は、別に犯罪者ではないため、ごく普通の平民となる。ただ単に、親が犯罪者、というだけのことである。

 そして未成年者の犯罪行為は、親や他の大人に命令されたものではないか、生きるためにやむを得ないものであったかどうかを、きちんと調査される。

 つまり、10歳未満の少女奴隷など、余程の事情がない限り、違法奴隷であり重罪であった。売買、保有等、それらに関わった全ての者が。


 ということは、多少の情報漏れは握り潰せて、通報者があれば抹殺できる。そういう者がバックについていないと、危なくてとてもやっていられない。

 うん、そういうことだ。


「あの、これからどこへ連れて行かれるのでしょうか……」

 心細そうな声でそう尋ねると、どうせ後で分かるのだから問題ないと思ったのか、簡単に教えてくれた。

「ああ、この国の地方領主やら各地の中堅商人とかの屋敷だ。王都なんか、危なくて問題外だし、有力貴族や大商人はそんな危険は冒さないさ。そんなことをしなくても、カネと権力で、未成年の見目の良い女の子くらいどうとでもなるからな。

 だから、お前達の行き先は、地方の下級貴族とか、そう大きくはない商家とか、ま、はっきり言うと、周囲に同格の敵対者がいない、地元の子供を無理矢理召し上げたり攫ったりするのはちょっとまずい、少々微妙な田舎の権力者、ってわけだ」

「あ~……」


 理解した。

 じゃあ、この4人の行き先はバラバラになるかも知れない。ならば、この街を出る前に終わらせなくちゃ。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんかちょっと「シムラー後ろ後ろ〜」的な感じなのを思い出したw
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