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458 軋 み 1

「う~ん、良くないなぁ……」

「「「…………」」」

 私の呟きに、無言の3人。

 ……レイアはちょっと離れた席で、お菓子を食べている。

 私の言葉は聞いているのだろうけど、関心がなさそうだ。


「何カ所かの調査兼間引きを行ったけれど、その結果分かったことは、場所によって違う種類の魔物が増えているみたい、ってコトだよね。

 これって、自然にそうなっているのか、セレスが調整のためにそうしているのかの判断が難しいけれど、おそらくセレスが場所によって増やす魔物の種類を細かく調整していたんじゃないかという線が濃厚なんだよね……。

 多分、増やしたり減らしたりする魔物の種類を頻繁に変えて調整していたのだろうけど、それがある時点でのパラメーターのまま固定しちゃってる、っていうのが、レイアの見立てなんだよね?」


「そう」

 あ、やはり一応はちゃんと聞いていてくれたか……。

 滅茶苦茶簡単にではあるけれど、きちんと肯定の返事をしてくれただけで十分だ。


「……で、見立てはできても、それぞれの場所のがたまたまなのか調整のせいなのか、個別には確証がない。そしてレイアは、『歪み』が発生するレベルの事態にならない限り、セレスの縄張り(シマ)で勝手なことはできない。これって……」

「「詰んデレ?」」

「『詰んでる』じゃ~い!!」

 もう、ホントに、コイツらは……。


「とにかく、危な(ヤバ)そうなところは積極的に間引いて、小康状態を維持するくらいしかできないよねぇ。

 ファルセットは魔物の暴走スタンピードは見たことがないって言ってたけれど、特定の魔物が許容数を超えて急増すれば、どうなるか分かんないし……。

 それに、ファルセットが知っているのは自分の母国周辺、つまりこの大陸の反対側のことだけだし、そのあたりには『女神の守護騎士エインヘリヤル』が大勢いるからねえ……」

「「「あ……」」」


 レイコと恭ちゃんだけでなく、ファルセット自身も声を漏らした。

 ……うん、戦闘民族『女神の守護騎士エインヘリヤル』が大量に増殖している地域じゃあ、暴走スタンピードが起こるほど増殖させてもらえないだろうからなぁ、魔物達が……。

 危険な魔物が増えてきたら、すぐに駆除要請が来るだろうし、本気で戦える上に報酬金が貰えて、人々に感謝されるんだ。狂戦士バーサーカー達が喜んで狩りまくるに決まってる。


 ……つまり、何が言いたいかというと、戦闘民族がいないこのあたりでは魔物の暴走スタンピードが起こってもおかしくない、ってことだ。今までも、そしてこれからも……。

 そこに、更にセレスのおかしな調整が加われば……。


「恭ちゃん、母艦や搭載艇による地表面探査、磁場や重力場、時空連続体の異常だけでなく、魔物の生体反応も調査項目に加えられる? 大型種の数とか、分布密度とか……」

「うん、大丈夫だよ。生体反応を探知できる装置があるから。……でも、生体反応の強さで判別するから、サイズの大小はだいたい分かるけど、種族名までは無理だからね?」


「それでオッケーだよ。オーク以上のやつの分布変化が分かれば充分だからね。

 角ウサギ(ホーンラビット)やゴブリン、コボルトとかが多少増えたところで、大きな問題はないでしょ?」


「はい、その程度であれば、多少数が多くても兵士やハンター、そして一般の者達であっても成人であれば対処できますから、森からあふれても大きな問題ではありません。

 別に、何十万もが一斉に、とかいうわけではないでしょうから……」

 恭ちゃんより先に、ファルセットが答えてくれた。


 うん、ファルセットが言うとおり、もし魔物の数が増えすぎて森から溢れるとしても、数十万というような数にはならないだろう。

 人里に近い森にはそんな数の魔物が発生するだけの食料がないだろうし、小型の魔物が増えれば中型の魔物が捕食し、そして中型の魔物が増えれば大型の魔物が捕食する。

 そして中型や大型の魔物が増えれば、人間達も異常に気付くだろう。


「とにかく、今は現状維持に努めて、セレスの復帰を待とう。

 万一の時は、レイアがいてくれるから、何とかなるなる!」


 ……そんなふうに考えていた時期が、私にもありました……。


     *     *


「……母艦の管制コンピューターから、何だか不穏な情報が送られてきたんだけど……」

「「え?」」


 ある日、恭ちゃんが何やら不穏なことを言いだした。

 私とレイコはちょっと動揺したけれど、ファルセットとレイアは平気な様子。

 レイアはともかく、ファルセットは……、って、ただ単に『母艦』とか『管制コンピューター』とかが何のことか分からないから、反応のしようがないだけか?


「……詳しく!」

 レイコの催促に、恭ちゃんが説明してくれた。

「多数の生体反応が、隣国からこの国へと向かってるみたい。森じゃなくて街道を進んでいる、って……。サイズは中型」

「ゴブリンかコボルト?」

 オークやオーガは大型だろうから、中型だと、そのあたりか……。


「ううん、人間。高性能カメラで確認済みよ」

「え……」

 どうやら、生体反応をチェックしている対象は魔物限定ではなく、普通の動物や人間も含む、全ての生物だったらしい。


「それって……」

 私とレイコの問いに、恭ちゃんがこくりと頷いた。

「うん、多分、兵士の移動。それが国境に向かっているとなると……」

「侵攻?」

「多分……」

 まあ、隣国に大規模の兵力を差し向けるなんて、戦争以外にないだろうな。


「合同演習とか軍の交流会とかの話も聞かないし、ここ、王都の様子もいつもと変わらないし……。

 宣戦布告のない、奇襲かな?」

「いえ、大規模な軍の移動が、察知されないわけがありませんよ。

 強制徴集で農民を集めたり、兵糧その他の集積や、大人数での行軍。

 隣国ではこの国の商人とかも大勢活動していますし、草……現地定住型の諜報員もいます。それらの者が早馬で情報を送れば、移動速度が遅い軍隊による奇襲なんか成立するわけがありませんよ。

 奇襲が成功するのは、ごく少数の部隊による電撃作戦だけですよ」


 私の言葉をぶった切り、完全否定するファルセット。

 ……まあ、そりゃそうか。

 何千何万の兵士と補給部隊が、何日も掛けて主要街道をノロノロと行軍していて、情報が届かないわけがないか。


「じゃあ、もう既にこの国の上層部は侵攻のことを知っていて、対処に動いていると?」

「はい、おそらく。王族や貴族達が、余程の馬鹿で無能でない限りは……。

 既に侵攻方面の貴族領では領軍が動いているでしょうし、反対方面の領地でも軍が出発準備を進めているのではないかと……。

 王都でも、すぐに情報が広まると思いますよ。王都軍が動くでしょうから。

 なので……」


 そこまで聞いて、恭ちゃんがシュバッと右手を挙げて発言した。

「うちのお店で兵糧や軍需物資を大量に仕入れて売れば、大儲けできる!」


「「違うわっっ!!」」

 ホントにもう、恭ちゃん(コイツ)は……。



お知らせです!

10年振りに、ここ、『小説家になろう』において、新作の執筆を開始しました。

一昨日から、掲載を開始しています。

今週中に、書き溜め分である10話を一挙掲載!

来週からは、他の作品と同じく週イチ更新で、木曜の夜……金曜の午前零時に更新する予定です。

私の長編の4作目、よろしくお願いいたします!(^^)/


……あ、作品名は、『神 獣』です。(^^ゞ

https://book1.adouzi.eu.org/n2077lm/

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― 新着の感想 ―
てか、東西にエインヘリヤルの群とカオル達が分散して存在するこの大陸はよいけど、他の大陸は本当にヤバいんじゃないかしらん? 幾つかの大陸では既に、人類種が絶滅してたり、しないのん? (別の大陸が存在す…
あれ? 隣国の王様はちゃんと調査してたはずなのに侵攻してきたの? 『多数の』ってのが具体的な数字じゃないのが気になるけど、万単位だってこと? もし数十だったら、護衛付き使節団って可能性もあるんだけど。…
>隣国に大規模の兵力を差し向ける  事態が増々大事(おおごと)になっていってるような。しかも原因の一部はカオル達の所為? 『元はセレスの所為よ』って言葉がでそう。
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