457 間引き 3
……そういうわけで、私達3人の戦闘、……いや、攻撃訓練は終了した。
やれること、やれないこと、……そしてやっちゃいけないことを確認して……。
あ、私の爆発物投擲は禁止されたけれど、『離れた場所に、ポーション作成能力で爆発ポーションや爆弾型容器を創り出す』というのは、レイコから許可が出た。
かなり離れたところにも創り出せるんだよね、私のポーションと容器の作成能力……。
但し、アイテムボックスから出すのに較べて、ポーション作成はワンテンポ遅れるのだけどね。
……そりゃ、『えい!』とアイテムボックスから取り出すだけなのと、どんな効果があってどんな形をしたものをどこに創って、とか考えるのでは、所要時間に差があって当然だ。
だからこちらから先制攻撃を行うとかで時間的に余裕がある時はいいけれど、奇襲に対する咄嗟の反撃には、ちょっと不利なんだよね。
アイテムボックスの中に入れてある爆発物を相手の側に出す、という方法は私だけじゃなく恭ちゃんとレイコにも使えるけれど、アイテムボックスからは、あんまり遠くには出せないんだよ……。
だから、科学装備に頼らずにある程度の遠距離攻撃ができるのは、私とレイコだけだ。
……まあ、アイテムボックスの中に大量の母艦製科学装備を入れている恭ちゃんは、攻撃手段に不自由することはないけどね。
ただ、奇襲に対する反撃速度が私とレイコよりかなり遅い、という弱点はあるけれど……。
「じゃ、次は適当に魔物の間引きをしながら、状況を調査するわよ」
「「アイアイ、マム!!」」
うむ、こういう場合は、レイコの指示に従っておけば間違いない。
……そして、ファルセットのテンションが低い。
まあ、私達があまり戦闘力を見せつけちゃうと、女神の守護騎士としての自分の存在意義に関わるからねぇ……。
ちょっと、フォローしとくか。
「私達は、奇襲に対する反応が遅いからね。そういうのを防ぐのは、ファルセットが頼りなんだ。
よろしくお願いするね!」
「……は、はいっ! どうぞ御安心してお任せください!!」
うん、テンション爆上がりだ。チョロ……、いやいや、忠誠心マシマシだね。
フランセットは、昔、私に向かって放たれた矢を手で掴み取ったことがあるんだよねえ。
……多分、ファルセットもそれくらいは簡単にできるだろう。
何せ、あのフランセットが自分の代わりに、私を護らせるために派遣した秘密兵器、秘蔵っ子だよ。
そして、レイアは相変わらずの無表情……。
いや、これで、結構楽しんでるんだよ、コイツ。ただ、感情を顔に表すという習慣がないだけで……。
週に一度、金貨をせびりに来るだけとはいえ、割と長い付き合いなんだ。それくらいは分かるようになってるよ、うん。
レイアの方も、私達のことをただの現金自動預払機よりは少しマシに思ってくれている……んじゃないかと思う。多分……。
私のポーションもレイコの魔法も恭ちゃんの科学装備も、レイアにとっちゃあ原始人が持つ棍棒以下の武器、……いや、武器のレベルにすら達しないものなんだろうけど、まあ、セレスのお気に入りの下等生物が色々と足掻いているのを見物するのを、少しは面白がっているんじゃないかなぁ……。
数多の次元世界の安寧のため、気の遠くなるような年月を退屈な見張り任務に費やしてくれているんだ。レイアと、その分岐元であるお仲間達が、私達の足掻く姿を見て少しでも楽しんでくれるなら、それでいい。
……ま、とにかく、今は調査と間引きだ!
* *
どごん!
どかん!
ちゅど~ん!
「回収!」
「「了解!」」
作業は順調に進んでいる。
こんな深い森の奥、しかも隣国との国境近くに来る者なんかいないし、念の為近くに人間がいないことはセンサーで確認してある。
なので、火事にならないように、自分達が怪我をしないように、そして間引きの対象以外の動植物にはなるべく被害を与えないように注意しながら、駆除対象……主にオーガ……を吹き飛ばしては収納、吹き飛ばしては収納、というのを続けている。
そのため、皆のアイテムボックスの中には、既にかなりの量のオーガが入っている。
オーガ以外のも少しは入っているけれど、大半はオーガだ。
どうやら、この辺りではオーガの増殖率が高くなっているみたいだな。
あ、勿論オークやウルフ系の魔物、角ウサギとかもいるけれど、そういう『普通のCランクハンターなら簡単に狩れるもの』、『猟師やハンターのメシのタネや、村人のタンパク質供給源として必要なもの』は狩らないようにしているから、そういうのはアイテムボックスの中には少ししか入っていないだけだ。
そいつらは、向こうから向かってきたのしか倒していない。
「派手に吹き飛ばしているから、素材価値が落ちちゃってるよねぇ……」
「まあ、今は色々な武器のテスト中だからね。
さっきまで使っていたビーム系の武器では綺麗に狩れていたから、いいじゃん。どうせオーガばかりこんなにたくさん納入するわけにはいかないんだからさ」
確かに、恭ちゃんが言う通り、こんな量のオーガをハンターギルドに納入するわけにはいかない。
『リトルシルバー』のみんなと一緒に食べるくらいしか、使い途がないなあ……。
しかし、オークならばともかく、オーガは肉が固くてあまり美味しくないしなぁ。
……加工して、売り物にでもするか?
ジャーキーにでもすれば、多少固い肉でも問題ないし。
自然食品、『オーガ肉料理』……、って、うるさいわっ!
「この辺りではオーガが多かったけれど、もうかなり間引いたよね。
そろそろ帰る?」
「うん。じゃあ、いつものアレで……。
せ~のっ、」
「「「今日のところはこの辺で勘弁しといたろか!!」」」
……いや、分かってる。これが、三下の負け惜しみ台詞だということは……。
でも、KKRじゃあ、昔からこういう場合にはそう言うことになってるんだよ。
恭ちゃんからの、強い要望によって……。
* *
……その後、隣国の辺境伯の館では……。
「大変です! 国境の森から大量の魔物が溢れ出て、近傍の村や町に!!」
「何っ! 大暴走かっ!」
血相を変えた部下からの報告に、思わず椅子から立ち上がって叫ぶ、付近一帯の領主である辺境伯。
「いっ、いえ、集団としての暴走ではなく、バラバラに森から出て、様々な方向へと……。
そのため、一点に集中することなく各地に、時間差で少数ずつやって来たので、人的被害はごく少なく……。現時点では、怪我人が少々出ておりますが、死者や重傷の者はいないようで……。
現象としましては、森林火災や強い魔物から逃げ出した、という場合に似ているかと……。
そして、森で火災その他の自然災害が起きたという形跡はありません」
「むむむ……。
とにかく、すぐに調査隊を編成し、現場の確認に向かわせろ!
それと、避難した農民の保護、被害状況の確認だ! そして……」
少し間を置いてから、続きの言葉が紡がれた。
「隣国側も同じ状況かどうか、確認させろ……」
普通の森ではなく、国境の森なのである。
何か異状が生じた場合、隣国の様子を確認するのは、当然のことであった……。
先週の金曜、『のうきん』書籍21巻が刊行されました。
紙の本でも電子書籍でも、お好きな方で、よろしくお願いいたします!(^^)/
書店特典等は、前話のあとがきに書いてあります。
電子版にも、特典SSが付いています。
また、SQEXノベルの公式サイトにも、SS(『男 装』)が掲載されています。
今夜はみんなで、パーリナイッ!!(^^)/




