455 間引き 1
「……というわけで、王都からかなり離れた、隣国との国境に跨がる大きな森へとやって来たわけだけど……」
「いつものことだけど、毎回、誰に説明してるのよ……」
レイコに突っ込まれた。
前世の頃からの、いつものこと、お約束台詞だ。
うん、全然変わってないなぁ……。
あれから四座の小型艇で、私達KKRとファルセット、そしてレイアも一緒に、魔物の間引きのお試しに来ているのだ。
私達3人が狩りに行くのに、ファルセットがついてこないわけがない。
そして、面白いことに飢えている、レイアも……。
但し、レイアは見物のみで、間引きに手を出すつもりはないらしい。
そりゃ、レイアにとっちゃあアリンコを潰して回るにも満たない、アルコールで除菌作業をするみたいなものだろうから、面白くも何ともないか。
レイアが面白そうだと感じるのは、私達が何をやらかすか、って方だろうな、多分……。
でも、まあ、レイアがいてくれると、もし歪みに出くわした時に対処してもらえるから、安心だ。
特別手当として、お菓子を買い込むための金貨を追加要求されているけど……、それくらいは、まぁ仕方ない。許容範囲内だ。
この小型艇は四座だけど、全員……特に私とレイア……が小柄なので、5人全員が乗れた。
これより定員が多いやつだと、かなり機体が大きくなるから、四座のこれにしたのだ。
慣性制御システムが付いているから、シートベルトとかはしていなくても問題ないからね。
わざわざ遠くの森までやって来たのは、あまり王都の近くだと私達を知っているハンターに会うかもしれないし、そもそも王都周辺の森はそんなに広くない上、狩り尽くされていてあまり魔物がいないのだ。
魔物が多少増えても、日帰りできる近場で稼ぎたい王都のハンターがすぐに狩るから……。
それに、大勢のハンターが集まっていて過当競争になっている王都周辺の狩り場を荒らしたくはないからね。
まあ、そういうわけで、ちょっと遠出したわけだ。今回は間引きと言うより、本当は調査目的だしね。
「一応、森のこちら側半分から出ないようにね。向こう側の半分は隣国の領土だから、勝手に入ると密入国になっちゃうからね」
レイコが、ハンターギルドで仕入れたらしき注意事項を皆に教えてくれた。
いくらハンター登録していても、正規の検問を通らずにこっそりと越境するのは、やはりマズいらしい。
それでも、依頼任務を遂行中にやむなく国境線を越えてしまった、というならば、大抵は大目に見てもらえるらしいけれど、今回は事前受注していないし、未成年の子供……私のことじゃないよ、レイアだよ!……がいるし、こんな町から遠く離れた場所に野営用の荷物も持っていない少女が5人、それもまともに戦えそうに見えるのがファルセットひとりだけ、というのは、明らかに異常だものねぇ。
……そりゃ、ちょっと話を聞こうか、ってことになるに決まってる。
まあ、こんな森の深奥部に国境警備兵がいるとは思えないけどね。
不法な越境を企む犯罪者や密輸商人は、わざわざこんな遠くて危険なところまで来ずに、もっと森の浅いところで越境するよね、常識で考えて……。
こんな奥地、荷馬車どころか、騎乗でも来られやしないからねえ。
「了解! じゃあ、小型艇はステルスモードで上空に待機させておいて、間引きと調査を行うよ。
狩るのは、オーガ以上の危険なやつと、高く売れるやつと、美味しいやつのみ!
角ウサギとかは対象外!」
角ウサギは、見習いや駆け出しハンター達の大事な収入源なので、なるべく肉屋で買うか、通常依頼を出して買い取ってあげているんだよ。
少なくとも、私達が乱獲して換金したりはしないのだ。
……うん、今日のところは、角ウサギは勘弁しといたろか!
* *
小型艇を着陸させてワイワイやっていたものだから、小動物や弱い草食の魔物は付近から姿を消している。
……でも、肉食の野獣や魔物にとっては、それは逆に獲物の存在を示すお知らせとなる。
ま、今の私達の目的からすれば、そういうのに寄って来てもらった方がいいのだけど……。
今回は、間引きと調査の他にも、やりたいことがある。
それは、私と恭ちゃんの戦闘訓練だ。
ハンターとして活動しているレイコはともかく、私と恭ちゃんには魔物との戦闘経験がない。
なので、一応、練習しておきたかったのだ。
……いや、私も恭ちゃんも、野獣や魔物を前にして、『私には、生き物は殺せないわ!』なんて躊躇うようなタマじゃない。
ただ単に、恭ちゃんから貰ったビーム武器やパーソナルバリアの使用訓練、って感じかな。
それと、ポーションによる魔物の爆殺の練習。
今まで、脅し目的での広範囲の爆発攻撃は何度かやったけれど、近距離におけるピンポイント攻撃はあまりやったことがない。奇襲に対する、咄嗟の反撃とかも……。
昔、敵兵の体内に毒物を創りだしたことがあるけれど、毒物を使うと魔物の肉が食べられなくなるからね。
魔物とはいえ、生命には違いない。
命を押しいただくのであれば、肉も毛皮も角も牙も爪も、全て素材としてありがたく使わせていただかねば……。
なので、対魔物戦においては、必要のない限り、毒物の使用は自粛。
なるべく、恭ちゃんから貰った武器か、爆発性のポーションを使うことにしている。
……但し、そのどちらも、森に火災を起こさないように注意しなければならない。
まあ、レイコがいれば水魔法で鎮火させてくれるだろうけど、無用な危険は冒さない。
「至近距離には、目標なし。中距離には、1時半方向約200メートル、中型目標3。多分、ゴブリンあたりかな……」
そして、何度もバージョンアップを繰り返した探知機……現在は、平面位置表示方式。探知対象を魔物と中型以上の動物にセットしている……による探知結果を皆に報告した。
魔物は、小型であっても危険なものがいるので、全部表示させている。
角ウサギでも、胸をぐっさりとやられれば即死もあり得るのだから……。
いや、まあ、魔物でなくとも、毒を持っている爬虫類や虫、蜘蛛やサソリとかもいるけどさ……。
い~んだよ、細けぇこたー!
治癒ポーションがあるんだからさ!!
「便利だよね、香ちゃんのその探知機……。
赤外線や動くものを探知・識別する機械は私も持っているけれど、さすがにそんなに小さくはできないから、持ち歩いたりするのは無理なんだよ。搭載艇に装備してあるくらいで……」
うむうむ、恭ちゃんのもチート装備だけど、一応は『未来の人間が作れそうなもの』の範疇だ。
私やレイコのような、完全な反則技じゃないからねえ。
私とレイコが要求したのがあまりにも反則すぎて、一番最後になった恭ちゃんの時には、セレスがかなり警戒してスーパーチートは与えまいとしたみたいなんだよ……。
でも、そこをうまく搔い潜って何とかするのが、恭ちゃんなのだ。
今度、『ヴァレロンのスカイラーク後期型(直径1万キロ超)』でも造ってもらおうかな。
この惑星が滅亡しそうになっても、全住民を移住させられそうだな……。
……いや。
いやいやいやいや!!
そこまでは、面倒見きれないよ、さすがに……。
「そろそろ接敵するわよ、ぼ~っとしていない!」
「……あ、うん……」
レイコに、怒られちった……。




