454 代 行 2
「……じゃ、このままの状態を続けるか……。
お店はずっと閉めておくわけにはいかないから、店員と護衛のみんなを信頼して、任せておこう。
まあ、私達も、何も起こらなければお店にいるんだけどね……」
そう。私達がこの広大な世界をうろついても、殆ど意味がない。
それよりも、ここで調査結果の情報が集まるのを待っていて、何かが起こればすぐにその場所へ向かう、という方式にした方が、ずっとマシだ。
出番が来るまで身体と心を休めて体調を整えておくのも、仕事の内だ。
ずっと気を張っていたら、疲れちゃって、肝心な時に思わぬ失敗をするものだよ、うん。
良く言われる、『休むのも仕事の内だ』というやつだ。
……だから、恭ちゃん隷下の宇宙船や搭載艇の自動機械に警戒探査を任せて、私達は普通の生活を続けていたのだけど……。
* *
「ギルドから、特別依頼が出されました」
「「え?」」
情報収集のためハンターギルドに行っていたファルセットが、戻って来るなりそんなことを言ってきた。
私と恭ちゃんは怪訝そうな顔をしたけれど、レイコは特に驚いた風もない。
……多分、予想していたな……。
「魔物のアンバランスな増加で、分布が大きく偏り始めたらしいのです。
勢力図も変わり、今までは比較的安全だった場所に高ランクの魔物が現れたり、森から出て来た魔物が村や街道の商隊を襲ったりと、被害が急増しているようで……」
「危険な魔物の間引きをするよう、特別な指示が出た、と?」
「はい。討伐報酬も増額されて、底辺ハンターにとってはありがたい、と言えなくはないのですが……」
ファルセットが言おうとしていることには、予想がつく。
「報酬は増えても、底辺ハンターにとっちゃあ危険が大きい、ってことか……」
「はい、その通りです」
当たり前だ。
危険な魔物をどんどん狩れるなら、それはもう底辺ハンターじゃない。
オークやオーガを簡単には狩れないから、底辺なのだから。
森の中でオークやオーガと出くわす確率が上がり、やっとのことで討伐してボロボロの状態で引き揚げようとした時に、別の危険な魔物と出くわす。
……そりゃ、生存確率が激減するだろう。底辺連中にとっちゃあ、堪ったもんじゃない。
「勿論、特別依頼の主な対象はCランクの中堅以上であって、安全にオークやオーガを狩れないパーティに無理をさせるというわけじゃありませんけど……」
「……面子というものがあるし、稼ぎも欲しいから、やるよね、無理や無茶……」
私の言葉に、こくりと頷くファルセット。
そりゃそうだ。
ここで間引きに参加しないということは、自分達はオーガどころかオークも狩れない弱小の下っ端パーティでございます、と宣言したのも同じだ。
……そんなの、自分達のプライドが許さないだろう。
それに、報酬金額が割増しされているとなっちゃあ……。
「死亡者が、かなり出るでしょうね」
「「「…………」」」
ファルセットは、特に深い意味はなく、ただ客観的事実を口にしただけなのだろう。
……でも、私達は……。
「……行く?」
こくり
恭ちゃんの軽い言葉に、同じく、軽く頷く私とレイコ。
……ま、そうなるよねぇ……。
間引きのお手伝いをするつもりはなかったけれど、セレス関連で死人が出るのを看過するのは、やはり気持ちの良いものじゃないからねぇ。
「あ、カオルと恭子も、ギルドでハンター登録をしておきなさい。
他領や他国へ行く時に、ハンター証があると面倒がなくて、色々と便利なのよ」
さすがレイコ、細かいところに気が付くなぁ。
確かに、間引きもだけど、調査とか諸々で他国へ行くことになるかもしれないものね。
商人や野良巫女という立場よりも、ハンターの方が色々と便利だろう。
「「了解!」」
* *
そういうわけで、私と恭ちゃんもハンター登録をした。
さすがに、登録には巫女服ではなく普通の私服で行ったけれど、野良巫女である私と商店主である恭ちゃんの顔はギルド職員にも知られているから、すごく驚かれたよ。
まあ、今まで依頼を出す側だったからね、私達ふたりは……。
でもまあ、ハンターといっても色々ある。
薬草採取専門の人もいれば、町で雑用を引き受ける安全第一の人もいる。
だから戦闘力がなさそうな者が登録するのは不思議じゃないらしいけれど、実家が太くてお金には困っていないと思われている聖職者とか、かなり儲けていることが知られている商店主とかが登録するのは珍しいだろう。……しかも、どちらも若い女性となると……。
しかし、別に登録を拒否される理由になるわけではなく、ふたりとも何の問題もなく普通に登録できたのだ。
まあ、無敵の護衛であるファルセットとレイコが一緒にいるからね。
恭ちゃんは商売のネタを探しに、私はその護衛としてファルセットとレイコを提供しているから、自分の護衛がいなくなると困るので一緒に行く、くらいに思われているのだろう。
……そして今回の間引き依頼は、通常依頼ではなく常時依頼扱いとかで、いちいち受注手続きをしなくても、狩ったあとで討伐証明部位を提出すればいいらしい。
ま、普通、良い値で売れる素材を捨てて帰る者はいないだろうから、証明部位は必ず持ち帰られるだろうからね。
まあ、そういうわけで、『初心者には受注できません』とか、『やめなさい! あなた達がこの依頼を受けるのは自殺行為です!』とか、『ギルドマスター権限で受注を拒否させていただきます』とか言われて揉める心配はないわけだ。うむうむ!
まあ、世界中で常時依頼扱いになっているわけじゃなくて、この町のギルド支部では、ってことだけど、私達は別にお金が欲しいとかランクを上げたいとかいうわけじゃないから、そのあたりはどうでもいいんだけどね。
とにかく、これで私と恭ちゃんも新人ハンターになったわけだ。
……私は子供に見えても15歳で成人済み、と以前から言っていたから、登録には問題なかったからね。
そして、私達KKRにファルセットを加えた4人で、パーティ登録をした。
なぜか『自分も交ぜろ』と言ってきたレイアは、さすがにハンター登録を断られた。
レイアくらいの外見年齢でも、雑用や薬草採取のために見習いとして登録している孤児とかはいる。
……でも、明らかに高貴な顔立ちで高価そうな服装をしている小さな女の子の登録を受け付けて、すぐに死なれたら……。
しかも、一緒にいるのが私達なんだ。街の中で雑用をするようなメンバーじゃない。
そう考えると、ギルド職員総出で登録を阻止しようとするのは、分かるよねぇ。
しかし、どうしてそんなに交ざりたがるんだよ……。
そんなキャラだったか? レイアのヤツ……。




