452 異 変 5
「……やっぱり、この時空域にはいない……。
そして魔物に関しては、……何種類かの特定の魔物が増殖するように、調整がなされている……」
「……え?」
「「「「えええええええ〜〜っっ!!」」」」
私達3人プラスファルセットが、思わず驚愕の叫びを上げた。
……大丈夫、この建物は防音設備がしっかりしているから、これくらいなら外には聞こえないだろう。
そんなことより、問題は……。
「魔物が増えるように調整って、いったい何者の仕業なの!」
「勿論、セレス以外にはあり得ない。
この時空域はあの分身体の担当であり、他の管理者が許可なく手出しすることは許されない」
「……え? でも、レイアは勝手にここへ……」
「許されない……」
「でも、レイアは……」
「許されない!!」
「あ、ハイ……」
……許されない、らしいよ……。
「でっ、でも、セレスは悪いヤツじゃないよ。
人間達が困るのに、魔物を増やすなんて……」
「別に、原住生物を困らせるためにやったわけではないと思われる。
……以前、あなたから聞いた。セレスがこの惑星の環境整備を始めたと……。
このレベルの惑星を整備するには、各種生物のバランスを調整し、安定化させることが必要。
そのためには、一時的にある種の生物の天敵を増減したり、餌となる植物の種類や量をコントロールしたりする。
なので、特定の種類の魔物の増殖条件を一時的に整えるのは、そういう場合の常套手段。
……ただ、ごく一時的な処置のはずが、元に戻すことなくそのまま放置されれば……」
「それかあぁっ! 今の、魔物のバランスが崩れている原因はっ!!
……で、それから考えられることは……」
「「セレスの長期不在は、本人が意図したものじゃない!!」」
私とレイアの会話を黙って聞いていたレイコと恭ちゃんの声が、揃った。
……まぁ、ここまで聞けば、そりゃ私にだって分かるよ。
それと、セレスは人間じゃないから、『本人』じゃなくて、『本神』だけどね。
ファルセットは、さすがに私達のようにセレスと同格である女神様とタメ口で話す勇気がない……というか、常識と信仰心がある……ため、さっきからずっと黙ったままだ。
女神様に対しての言動においては、フランセットより常識を弁えているみたいだな、さすがに……。
「じゃあ、セレスが何らかの事情で予定通りには戻れなくなってるってことか……」
「心配しなくても、どうせすぐに戻る。
もし長期間戻らなくても、上位存在への定期連絡が途絶えれば、上から確認に来る……」
レイアは、こともなげにそう言うが……。
「セレスやレイアの言う『すぐに』って、数十年とか数百年とかかもしんないじゃん!
全然、心配しなくてよくないよっ!!」
……そうなのだ。
コイツらの時間感覚を人間の基準で考えちゃ、ダメなんだよ!
「それに、『歪み』の監視と対処以外のことに関しては、セレスは割といい加減で、ものぐさっぽかった。
……もしかすると、定期連絡はいつもサボっているから上の方もあまり気にしないとか、定期連絡は配下の者に任せているとかいう可能性も……」
「…………」
あ、レイアの奴、黙り込みやがった!
コイツも、その可能性を否定しきれないんだな?
いや、あのエジソンの若い頃の発明品というのが、アレなんだぞ。
鉄道会社で夜間の電信技師として働いていた時、眠っていないという証明のために、一定時間ごとに『異状なし』という信号を本社に送ることになっていたんだけど、それを自動的に送信する装置を作って、ぐっすりと熟睡していたという……。
そして、後に首になったとか。
エジソンですら、そうなんだ。セレスなら、多分……。
「香ちゃん、セレスの配下の人達は、対処しないの? 上の人に状況を連絡するとか……」
うん、恭ちゃんが尋ねてきたとおり、普通はそう考えるよね。でも……。
「セレス達にとって、自我があるようなものは、生物であろうが機械であろうが、『道具として使う』というのはダメらしいんだよ。
……って、恭ちゃんも知ってるじゃない。宇宙船のメインコンピューター、自動システムなのはいいけれど人格付与されて自我があるようなのは作れない、って……」
「あ……」
うん、ただ命令に従うだけのロボット船ならいいけれど、高度な判断能力や意思、自我を持っているように見えるものは、作るのは構わないけれど、それを道具や奴隷のように使うことは禁止されているらしいのだ。
あの、『金塊や宝石を作るのは構わないけれど、金貨や芸術品の複製とかは駄目』というのと同じく、セレスの種族の倫理基準に違反するらしいのだ。
……まあ、分からなくはないけどね。
とにかく、そういうわけで、自動的に仕事をやってくれるものは作れるけれど、秘書や副官が務まるような機械知性体は駄目、というわけだ。
私達の能力が使えているということは、それらは全て『下請けの単純作業担当チーム』がやってくれているのだろう。指示されたことをやるだけの、セレス達から見れば『簡単な、自動装置』に過ぎないものが……。
ま、あのセレスが、毎回自分で対処しているとは思っていなかったけどね。
しかし、今回はそれが幸いしている。
セレスが不在でも、私達の能力が健在ならば、何とでもなる。
……まあ、もしチート能力がなくなっても、衛星軌道上にある恭ちゃんの母艦数隻があるから、あまり困ることはないと思うけどね。
別に、セレスがいなくてもそれらが消えるわけじゃないから、数千年くらいは大丈夫だろう。
それに、万一に備えて、自重なしの治癒ポーションを大量に創って、恭ちゃんの母艦全てにそれぞれ保管してあるのだ。
恭ちゃんが通信機でいつでも母艦の搭載艇を呼べるから、もしアイテムボックスから飛行艇を出せなくなっても、問題ない。
勿論、『リトルシルバー』の地下や、ここの地下にも隠してある。
うん、セレスのことをあまりアテにしていないのが丸分かりの、万全の体制だな。
「……私達は、特に困ることはないわね。地元の人々は大変でしょうけど……」
レイコが言う通りだ。
私達は、特に何かをしなきゃならないってわけじゃない。
原因が分からない異変は怖いし、気になるけれど、理由が分かってしまえば、別にどうってことはない。あとは、私達と『リトルシルバー』の子供達、そして私達がお世話になった人達に影響がないように見守って、このままそっと……、しておけるかああぁ〜〜!!
「ごめん。悪いけど、手、出させてもらうよ」
そう。このまま何もせずに放置するわけにはいかない。
……だって、セレスは今、予想外の事態が起きて困っているだろうから。
分身体である自分の存在意義である、歪みの監視という任務を継続できなくなるような事態。
それは私達にとっては神にも等しい超越種族の仕事であり、彼らから見れば原生動物程度である私達なんかがどうこうできるようなことじゃないかもしれない。
でも……。
あの日、私はセレスに言ったのだ。
……『あの、私のお友達になってください!!』と……。
そして、セレスは大喜びでそれを了承してくれた。
ならば……。
「お友達が困っていたら、助けなきゃならないからね」
そう。種族が違っていようが、生物としての位階が大きく異なっていようが、友達は友達だ。
……ならば……。
「私も、セレスにはチート能力を貰ったり、色々とお世話になってるしね」
「勿論、私も……。そして、友達の友達は、友達だよね!」
そう言って笑う、レイコと恭ちゃん。
……うん。
「友が困っていれば、呼ばれなくとも即、参上! ……それが、我ら……」
「「「KKR!!」」」
口を半開きにして、ぽかんとしているファルセット。
無表情ながらも、ほんの少し、何だか面白いものを見るような表情が浮かんでいるような気がしないでもない、レイア。
……よぉし、いっちょ、やってみよ~!!
来週で、私が『小説家になろう』で執筆を始めてから、丁度10年になります。
『老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます』連載開始、2015年11月2日。
『ポーション頼みで生き延びます!』連載開始、2015年11月3日。
あれから、10年。
思えば、遠くへ来たもんだ……。(^^ゞ
ただの読み専だった私が、専業作家としてやって来られたのは、担当編集さん、イラストレーターさん、漫画家さん、その他大勢の出版関係者の皆様と、そして読者の皆様のおかげです。
ありがとうございます!
なお、連載開始10周年として、来週は1回お休みを戴き、のんびりと病院へ行ったり書籍化作業を行ったりする予定です。……〇| ̄|_
では、『12~13歳くらいに見えるちっぱい少女3部作』、引き続き、よろしくお願いいたします!(^^)/




