438 見 学 3
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勿論、国王達が蒼い顔をしているのは、別に怒っているからではない。
あれ程『サラエットを怒らせるな』と言っていたエディスが、護衛のひとりと共にそのサラエットの脳天に手刀を叩き込んだせいである。
あれは、仲間内での軽いじゃれ合い。
だからサラエット様も御不快には思われていないはず。
……多分、そう。
きっと、そう。
そうに違いない。
そうであってくれ……。
そう祈る、国王達。
「痛~い!」
叩かれた頭をさすりながら、顔を顰めるサラエットであるが、勿論、本当に痛いわけではない。王子と王女も、笑っている。
説明サポート役の文官どころか、護衛の近衛兵ですら、必死に笑いを噛み殺している。
『知らない』ということは、実に幸せなことである。
世の中、知らない方がいいことは、たくさんある。
……怖い顔をしているのは、王様、宰相様、王太子の、お馴染みのトリオだけである。
まあ、全てを知っているのはこの3人だけなので、それは仕方あるまい。
文官も近衛兵達も、『絶対に失礼のないように。……そして、全力でお護りするように!』と強く命じられてはいるが、王城内で危険が及ぶ確率は非常に低く、そしてそれでも、決して油断したりはしていない。
なので、平民の少女達のボケ突っ込みに思わず頬が緩むくらいは、許容範囲内であろう。
* *
お城の見学は、順調に進んでいる。
いや、王様達の視察に緊張した者がミスをするとかの、ちょっとしたアクシデントはあったけれど、恭ちゃんは悪意のない些細な失敗に怒るような子じゃないからね。
そういう点に関しては、普通の人よりずっと寛大で、沸点が高い。
……その代わり、本気で怒ると怖いんだけどね……。
見学コースは、事前に王様達に『別に、防備態勢が見たいわけじゃないと思います。多分、普通の平民の女の子が想像するような、お城っぽく素敵なところが見たいだけなんじゃないかと……』と伝えてあるので、ダンスパーティーが開かれる大広間とか、謁見の間とか、王都が見渡せる見張り塔とかの、恭ちゃんが喜びそうなところで、王宮側として部外者に見せてもあまり問題のないところをチョイスしてある。
とはいっても、普通は部外者に見せることなんかないのだろうけどね。
今回は、出血大サービス、ってことだろう。
……少なくとも、今後もし今回初顔合わせした幼い王子殿下と王女殿下に何かあった時には、すぐに『女神の御加護』による治癒が受けられるであろうと期待できるからね。
何しろ、このふたりは私と恭ちゃんの『お友達』になったということなのだから……。
「……では、次は私の部屋に御案内しますわ!」
ありゃ、王女殿下が、そんなことを言い出したぞ。
さっきの、恭ちゃんの見学先希望の言葉を覚えていたか……。
でも、王様や王妃様、側妃やお子様方が生活している区画って、部外者は絶対に入れないんじゃないのかなぁ……、って、王様が頷いてるぞ。それも、顔色は悪くない。
あ。
家族と私達を顔見知りにしておくメリットを考えたのかな。
そして私達になら、居住区画の間取りを知られることによる危険性はないと考えたのかな……。
まあ、私達がその気になれば、間取りなんか知らなくても、そんなことは関係ないけどね。
では、お姫様の私室御拝見に、しゅっぱ~つ!!
* *
「ありがとうございました! 王子様と王女様に案内してもらってお城の見学ができたなんて、一生の記念になります! 本当に、ありがとうございます!!」
本当に嬉しそうだな、恭ちゃん……。
王様の手を握って、ぶんぶんと上下に振るんじゃないかと警戒して、私とレイコがいつでも取り押さえられるように身構えていたのだけど、さすがに恭ちゃんも、そこまで……おおっと!!
……危ねぇ……。危ねぇえええ〜〜!!
スッと王様の方に差し出しかけた恭ちゃんの両腕を、左右から、私とレイコがガッチリと掴んだ。
コイツ、油断できねえぇ〜〜!!
地球で何十年も人生経験積んだんじゃねぇのかよおォ〜〜!!
完全に、学生時代の性格のままじゃねぇかああぁ〜〜!!
……はぁはぁはぁ……。
ま、レイコも警戒態勢だったということは、……そういうコトか……。
* *
「帰ったか……」
「「「終わった……」」」
そんなに暑いわけではないのに、汗びっしょりの国王、宰相、そして王太子。
なぜ3人がそんなに疲労しているのか分からず、きょとんとした顔の、第四王子と第六王女。
文官と護衛の近衛兵達も、そんなに疲れた様子はない。
知らないということは、幸せであった……。
「面白い平民達でしたね。私達王族に対して憶することなく、無礼というわけでもなく、貴族並みの知識があり、王族に取り入ろうとかのおかしな魂胆があるわけでなし……。
父上が贔屓にするのも分かります」
「そうですわね。今度は、私達があの者達の案内で城下を廻り、下々の暮らしぶりを見学したいですわ!」
幼い王子と王女の言葉に、顔を引き攣らせた国王が、小さな声で呟いた。
「……やめろ……。頼むから、やめてくれ……」
* *
恭ちゃんの機嫌がいい。
可愛い王女様と王子様の案内で、お城を見学できたからなぁ。
長年の夢が叶ったのだから、そりゃ嬉しいか……。
恭ちゃんは、アレで少女趣味なんだよね。
まあ、これで当分は大丈夫だな。
今日は、レイコがオフの日で、図書館に行っている。
その他は、通常シフト。
警備は年配の方、ウェインさんで、店員は3人。イルンとオルトに加え、今日はリーダー役のタリアが勤務する日だからね。
そして、店員達を指導しながらお客様を捌く恭ちゃんと、何か聞きたそうにしているお客さんにこちらから素早く話し掛けることを担当している、私。
……ファルセットは、いつ客が懐から刃物を取り出して私達に襲い掛かってきても対処できるよう、両手を空けたままで店内に殺気を纏った視線を走らせている。
うん、防犯効果は抜群だ。
これ、ファルセットがいる間は、警備員は必要ないんだよなぁ……。
でも、ファルセットも食事やお手洗い等で席を外すし、お店の定休日以外でも出掛けることはあるからね。……私が外出する時とか……。
それに、殺気に気付かない者にとっては、ファルセットは駆け出しハンターの小娘にしか見えない。それじゃあ、抑止効果が低いからね。
だから、壮年というか中年というか、それくらいの年齢のベテランハンターが警備員として常駐してくれていると、余計な騒ぎが未然防止されるわけだ。
チンピラに暴れられて、高価な商品が壊されるのは嬉しくないからね。
そろそろ店員も慣れてきたみたいだし、もう私とレイコはお店の手伝いはやめて、それぞれ自由巫女とハンターの仕事、そして裏の稼業に専念してもいいかな……。
恭ちゃんも、店員達と話せるから、寂しくはないだろうし。
まあ、私とレイコも、夕方には戻ってくるしね。
……って、え?
40代くらいの、やや裕福な普通の平民のような格好のお客さんが、私の横を通り過ぎる時に、スッと何かを差しだしてきた。
私が反射的に受け取ると、そのお客さんは、何事もなかったかのように私から離れ、少し商品を見た後、そのまま店から出ていった……。
私の手の中にある、1通の封書。
……これ、懐から取り出されて差し出されたのが封書じゃなくてナイフとかであれば、私、死んでたんじゃないの?
オイ、ファルセット。女神の守護騎士として、今のは失態じゃないのか?
コミックス刊行のお知らせです。
『ろうきん』コミックス14巻、『ポーション続』コミックス4巻、7月9日刊行予定。
『ポーション続』には、私の書き下ろし短編小説(本文9ページ、挿絵1ページ)が載っています。(^^)/
そして、拙作短編小説のコミカライズ、『絶対記憶で華麗に論破いたしましょう』 (comic スピラ) の単話版独占先行配信期間が過ぎ、各電子書籍配信サイトでの公開が始まりました。
検索すれば色々な配信サイトがヒットしますが、一例として、Amazon Kindle版のURLを掲載しておきます。(^^)/
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B0F9W6VPMS?
サンプルとして、冒頭の数ページが読めます。
『ろうきん』、『ポーション続』コミックスと併せて、よろしくお願いいたします!(^^)/




