436 見 学 1
よし、王様達が協力的だ。助かるなぁ……。
これで、『どうして平民の小娘に我ら王族が気を遣わねばならないのだ!』とか言われたら、どうしようかと思っていたよ。
いや、そう言われるのが普通だよねぇ。
この王様達が特別にいい人達だから、引き受けてくれるんじゃないかな、とは思っていたけれど、駄目かもしれないと、心配していたんだよね。
もし駄目なら、何か交換条件とかで、と考えていたのだけど、こっちの弱味を晒さずに済んで良かったよ……。
昨日の治療の借りを返す、ということで、下手に出てくれたのかな?
やはり、王様は良い人だよねぇ……。
よし、じゃあ、具体的な話をするか……。
「王女様は、複数おられますか?」
「……あ、ああ、側妃が産んだ者も含めて、4人いるが……。
あとふたりいるが、そちらは既に嫁いでおる」
うむむ。ならば……。
「では、王女様は、なるべく年齢が低く、可憐な方を選んだ方が良いでしょう。
……その方が、万一の時に、怒りが少し弱まるかもしれない、という期待ができますので……」
王様の顔が、歪んでる。
多分、『万一の時、って、何だよ!!』とか考えているのだろうけど、『万一の時』は、『万一の時』だよ。他に、説明のしようがない。
「王子様は……」
王様もだけど、それ以上に王太子の顔が引き攣ってるなぁ……。
自分が指名されるかも、とか思ってるのかな?
「6歳から12歳くらいの人、います?」
「…………ふたり、いる……」
「じゃあ、そのうちで、真っ直ぐで正義感が強くて、平民思いで健気な方を……」
「「「………………」」」
ありゃ、ちょっと雰囲気が険悪になったような気が……。
「駄目だ! ヴィトリーは渡さんぞっ!!」
「……え?」
何だ? 王太子、急に、いったい何を……。
「馬鹿、黙れっ!!」
「殿下、落ち着いてください!!」
あ、王様が王太子を押さえつけた。
宰相様は、王様を挟んで反対側だから、王太子の腕を掴むことはできなかったか……。
でも、王様が全力で押さえつけたからか、王太子が椅子から立ち上がるのを防げた模様。
いや、下手したらファルセットが……、って、微動だにしていないな……。
王様の動きを読んでいたのか、それとも王太子如き、もっと後から動いても完全に撃退できるという余裕なのか……。
まあ、剣は私がアイテムボックスに預かっているから、一撃で首を落とされるようなことはないだろうしね。
……多分。おそらく。メイビー……。
「いや、別に恭ちゃんはショタコンだというわけじゃあ……」
『リトルシルバー』のアラルをすごく可愛がっているけど、あれは単に『子供好き』だというだけだ。ミーネ達、他の子供も同じように可愛がっているから……。
……多分。おそらく。メイビー……。
「キョウチャン?」
「しょたこん?」
「あ、イエ、ナンデモアリマセン……」
王様と宰相様の疑問を、何とか躱した。
……しかし、王太子のヤロー、ブラコンか?
弟の危機だと思ったのか?
そこは、弟ではなく、妹の時に食い付けよっ!
まあいい。
まだ、伝えておかなきゃならない注意事項が色々とある……。
* *
「……と、だいたい、そんな感じです」
よし、恭ちゃんに関する要・注意事項は、概ね伝え終えた。
見学ルート上では平民に暴力を振るう姿を見せない、男尊女卑の言動をしない、子供に重労働をさせない、その他諸々、ね。
王様が、『そんなこと、普段からしとらんわっ!!』とか言ってたけど、それは、王様がいる時にはやっていない、ってだけかもしれないからね。
こういう文明レベル、こういう社会形態の国で、それは到底信じられない。
「「「…………」」」
王様達、さっきからずっと顔色が良くないし、口数も少ないなぁ……。
護衛役のファルセットとレイコ……今日はいないけど……はともかく、私は割と温厚なんだよなぁ。
……眼付き以外は。
その眼付きも、『エディス』に変装している時には、かなりマシになってるし……。
とにかく、私は多少のことでは怒らないし、王様達とは本音で話せる、『サバサバした、話の分かるイイ女』……を演じているのだ。
だから、王様達は何も気にせず、自由巫女を相手にした普通の振る舞いができるはず。
……なので、不快感を素直に、隠さずに表しているのだろうなぁ……。
何が悲しゅーて、王様や宰相様が零細商人の小娘如きにそんな面倒な配慮をせなアカンねん、ってことだ。
いや、分かる! すごく不愉快なのは分かる!!
……でも、『悲しい出来事』を未然に防ぐためには、仕方ないんだよ……。
そのあたりを少し説明して、お怒りを静めていただいた方がいいかな……。
「すみません。……でも、まだ世界を破滅させるにはちょっと早いかな、と思って……」
勿論、私とレイコがよく口にする、『せかいがはめつする……』というのは、恭ちゃんの危険性を認識するためのネタであって、恭ちゃんに本当にそんな邪神パワーがあるわけじゃない。
……あ。
つい、いつものようにそのネタを口にしたら、王様達が固まってる……。
いや。
いやいやいやいや!!
「あ、すすす、すみません! 今のは軽い冗談です! さすがに、きょ……サラエットにはそんなことは……、あ!」
地球にいた時には、確かに恭ちゃんにはそんな邪神パワーはなかった。
……でも、今は?
超文明の巨大宇宙戦艦の主砲なら、惑星ひとつくらい簡単に消し飛ばせるのでは……。
うむむむむ……。
* *
(((……その、『あ!』ってのは何だよ! 『あ!』っていうのは!!)))
もはや、倒れる寸前の、国王達であった……。




