430 御用聞き 4
せっかくのお出掛け(護衛付き)だから、お城を出た後、真っ直ぐ帰らずにあちこちで買い物をして回った。
すぐに帰っても、恭ちゃん達は従業員に色々と教えながらお客さんの相手をしているから、手が離せないだろうからね。
従業員教育が終わり、そして警備のふたりが完全に信用できると判断するまでは、従業員達だけに店を任せるつもりはない。
まあ、帯剣した壮年の警備員がいれば、チンピラやゴロツキの2~3人くらいは追い払えるだろうけどね。
そういうのから店や従業員を護るためにいるのだから、お客様じゃないヤツに対しては何の躊躇いもなく剣を抜くもんね、当然の仕事として。
そんなのに喧嘩売る馬鹿はいやしないよね。
でも、肝心の警備員の人柄を確認しなきゃ、安心できないからね。
……いやあ、しかし、便利だなぁ、アイテムボックス……。
少し荷物が増える度、人目のないところで収納すれば、いくらでも買い物が続けられる。
ファルセットのヤツも、私が買ったものを収納する度、羨ましそうに見ている。
まあ、女神の守護騎士がアイテムボックス持ちだと、予備の剣とか槍とか、たくさんの武器を持ち歩ける、とでも考えているのだろう。フランセットの子孫は、そういう奴らなんだよ……。
あ、剣は、お城を出てすぐに返している。ファルセットが催促するもんだから……。
だから今、ファルセットはメイド服で帯剣しているのだ。
帯剣していないと、パンツを穿いていないみたいで、何だかそわそわするんだってさ。
戦いそのものは、素手であっても最初の敵から剣を奪い取るから問題ないとか。
まさに、戦闘メイドそのもの。
その姿は、かなり道行く人達の視線を集めている。
……いや、この世界には本当にいるからね、貴族や金持ちを護衛するための、戦闘メイド……。
だから、別に奇異の目で見られてはいないと思うんだ、うん。
……多分……。
* *
「ただ~!」
「おか~! ……首尾は?」
「上々。あとは、依頼の連絡が来るのを待つだけ。
やっぱり、私を呼び出して、というのを遠慮していたみたいだから、呼び出しのハードルを下げといた。
それと、治癒の力を信じていないのかも、と思って、デモンストレーションをやっといた。
あと、政権維持、現王家への支持が高まるようにうまく活用してもいい、と受け取れる言い方をしといた。王様も宰相様も立派で良い人だからね……。
これで、多分依頼が来ると思うよ」
「よくできました!」
よし、恭ちゃんの『よくできました』が出たぞ!
滅多に出ないんだよね、恭ちゃんの、この台詞……。
「……もう少し、強い態度に出られた方がよろしいのでは?
人間風情に敬語をお使いになる必要はありません。
丁寧語はまだしも、尊敬語や謙譲語などは……」
ファルセットのヤツ、自分の本来の任務である私の護衛に付いていたからか、言葉遣いが敬語になってるよ……。もう少し砕けた喋り方にしてくれてたじゃん……。
そして、さすがにあの場では黙って護衛役に徹してくれていたけれど、帰った途端、駄目出ししやがった……。
いや、分かるよ? 自分達が信仰している女神様が、国王風情に敬語なんて使ってたら、そりゃ面白くないだろう。
……でも、あの場では、『国王と女神』ではなく、『国王と野良巫女』という関係だったのだから、仕方ないじゃん……。
「あれは、『役割演技』だよ。お芝居みたいなもの。
女神や御使いが人間の振りをして心正しき人達を助ける、ってシチュエーションは、嫌い?」
「あ……、いえ、決してそのようなことは……」
うん、夜にやっている、『御使い様劇場』とか、モロにそれだもんね。
そしてそれは、第一シーズンに私がやっていたことであり、多分フランセットが子孫達に鼻高々で吹聴したはずだ。『女神カオル様との、栄光の日々』とか何とか言って……。
そりゃ、フランセットが望んだ、私の『女神らしい行い』、『信仰を集める行い』だものねぇ。
だから、ファルセットがそれを否定するようなことを言うはずがない。
その辺りのことを察して、苦笑してやがるな、レイコのヤツ……。
* *
「…………」
何か、おかしい。警備員の様子が……。
昨日のウェインさんも、今日のリックさんも……。
いや、おかしなことを考えているとかいう様子はないし、サボっているとか居眠りをしているとかじゃない。
……その、反対だ。
何だか真面目すぎるというか、ピリピリしていて、お客さん達に目を光らせている。
いや、接客は従業員の仕事だし、簡単には万引き……いやいや、窃盗はできないように色々と対処してあるから、客が従業員と揉め始めたり、警備役の犬や猫、鳥達が襲い掛かったりするのをのんびりと待っていてもらえばいいのに……。
それに、私と恭ちゃんに視線を向ける回数が多い。(レイコは、お出掛け中。)
そりゃ、私達は経営者とその友人だから、従業員達よりは護衛対象としての優先順位が高いとは思うよ?
でも、あなた達を雇ったのは『従業員と商品、そしてお店を護ること』だって言ったよね、私。最初の説明の時に……。
今は私達はあまり直接の接客はせず、そういうのは従業員に任せて、説明ができなかったり対応に困っていたりした時に横から割り込んでアシストする、って感じなんだよね。教育のために……。
だから、いきなり私達の方が絡まれる、という確率はかなり低いんだよ。
なのに、なぜ……。
……って、明らかに変だぞ、これ!
なにかあった?
でも、事件っぽいことは何も起きていないし、従業員の方には、別に変わった様子はない。様子がおかしいのは、警備のふたりだけだ。
それも、ふたりとも似たような状態だから、仲違いしたとか、盗賊団に手引きを持ち掛けられたとかじゃないだろう。
ふたりは交代で勤務しているから、抱き込むならどちらか片方でいいはずだ。
う〜〜む……。
……あ!
待てよ……。
確か、従業員と警備員達の初顔合わせの日、解散する時に……。
『警備の先任者として、新人のふたりに夕食を奢りながら色々と話をします』、とか言って、恐縮するふたりを連れて、繁華街の方へと消えていったよな、ファルセットのヤツ……。
母国では若手扱いされていたであろうファルセットのヤツ、初めての部下、初めての後輩……自分の倍以上の年齢だけど……を持てて喜んでいるのだと思って、微笑ましく見送ったのだけど……。
よく考えてみると、……ファルセットが、そんなタマか?
ええと、今はお客さんが少ないから、恭ちゃんと、従業員のふたりで充分だな。警備犬や猫、鳥達は、トイレに行っている者もなく、全員揃って配置に就いているし……。
よし!
「ファルセット、ちょっと来てくれる?」
「あ、ハイ!」
うん、ちょっと話を聞こうか、2階で……。
昨日、5月14日で、『私、能力は平均値でって言ったよね!』の第1巻刊行により作家としてデビューしてから、丁度9年になりました。
長かったような、あっという間だったような……。
色々なことがありました。
嬉しいことや、楽しいこと……。
なぜか、嫌なことや辛いことは、記憶にありません。(^^ゞ
10周年に向かって、あと1年、頑張りまっしょい!!(^^)/




