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43 ブランコット王国突破作戦

1年の時を経て、更新再開です!(^^)/

『老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます』と『私、能力は平均値でって言ったよね!』の2作品が共に日間ランキング2位となる原動力となり、そして『平均値』が書籍化される礎となってくれた本作品。

私の原点として、もう一度、ひと花咲かせて見せまっしょい!(^^)/

 バルモア王国王都、グルアを出発したカオル主従、いや、カオル一行は、間もなくバルモア王国とブランコット王国の国境に達しようとしていた。

 国境とは言っても、現代地球とは違い、そう大したものではない。

 なにせ、広大な国境線全てを見張るだけの予算も、人員もないのである。森や山岳部を越えれば、越境し放題であった。

 しかし、それを実行する者は、ほとんどいなかった。

 なぜか?

 答えは簡単、「そんなことをしなくても、普通にはいれるから」であった。


 パスポートがあるわけでなし、顔写真があるわけでもない。ただの書付など、偽造は簡単、持ち主から奪うのも簡単、ただの警備兵に本物か偽物かを見分けることなどできはしない。

 結局、国境検問所とは言っても名ばかりで、街道を通る馬車から積み荷に応じた税を取るだけの機能を持つ、小さな番小屋があるだけであった。馬車は、道のない森や山を越えることはできず、街道を通るしかない。

 そして、徒歩や、騎乗した者からは、持ち込み税は徴収されなかった。そんなことをすると、零細商人や個人の買い出しもままならず、弊害が大きすぎたのである。


 そしてカオル一行は、全員が騎馬であり、荷物が極端に少なかった。少し(かさ)()ったり重かったりするものは、全部カオルのアイテムボックスに入れてあるからである。

 つまり、国境はフリーパス。

 そのはずであった。


「……どうぞ、こちらへ」

 積み荷を調べられている馬車の列を尻目に、さっさと国境を通過しようとしたカオル達は、警備の兵士に呼び止められて、番小屋へと連れて行かれた。


御使みつかい、カオル様の御一行でございますね。王都まで御案内致します。

 すぐに馬車の御用意を致しますので、それまでの間、どうぞこちらでお休みを……」

 そしてカオルは、心の中で叫んだ。

(ど、どうしてこうなったあぁ~~!)


 カオルは、バルモア王国王都、グルアを出発する前に、友人やお世話になった人々、そして自分がいなくなると影響を受ける人達には、ちゃんと挨拶をして回った。でないと、突然姿を消したりすると、大騒ぎになってしまう。

 そして、組織立った引き留め工作や泣き落としが始まる前にと、さっさと出発したのであった。

 バルモア王国から内陸部に抜けるためには、海路を使いでもしない限り、どうしてもブランコット王国を通過する必要がある。そしてブランコット王国には、『アレ』がいる。

 そう、『アレ』、ブランコット王国第一王子の、フェルナンとやらである。

 話が広まる前に、ブランコット王国を突破したい。

 ブランコット王国で捕まると、色々と面倒なことになる。そう思ったカオルは、とにかく急いで、ブランコット王国の王宮や貴族達に話が広まる前に突破を、と思っていたのであるが、どうやら遅かったようである。


 ……と言うか、当たり前であった。

 あの男が、カオルの動向を探らせるための間諜を置いていないはずがなかった。

 そしてその間諜は、カオルが旅立つというこの超特大ニュースに、馬と騎乗者を数時間置きに替えての、国難級の緊急報告の時に使われる特別報告システムを使用することに、何の躊躇いもなかったのである。


 知らせを受けた王宮は、当然、大騒ぎとなった。

 あの『女神様の御友人、カオル様』が、ブランコット王国に来られる。この機会を逃すことは絶対に許されない、と。

 反対方向へ行かれる、という可能性は、ハナから除外していた。向こう側には、急峻な山脈と、その先にはアリゴ帝国があるだけであり、すぐに行き止まりの海となる。バルモア王国から旅に出る、と言うならば、それは内陸方面であり、そのためには、ここ、ブランコット王国を通過しなければならない。

 王宮の関係者、貴族達、そして勿論、あの男が全力で食い付き、入国と同時に身柄を確保できるよう、直ちに国境線を通る全ての街道に馬車と上級警備兵が派遣されたのであった。



 うむむ、マズい! どうしようか……。

 このまま王宮に連れて行かれれば、色々と問い質されたり、要望を押し付けられたりするに決まっている。それに、あの我が儘で傲慢な王子のことだ、昔私が働いていた食堂のみんなを盾にとって、何やら要求してこないとも限らない。

 また、私があの「カオル」と同一人物だと疑い、化けの皮を剥がしにかかってくる可能性もある。

 マズいマズいマズいマズいマズい!


 だが、仮にも国境検問所の警備兵、振り切って逃げたりすれば、追っ手がかかるに決まっている。

 そして捕らえられれば、「国境を強行突破した罪人」という弱い立場に立たされて、どんな要求を吹っ掛けられるか、分かったものではない。

 うむむむむむむ……。


「カオル、る?」

 物騒なことを言い出すエミール。

 エミールには、出発前に、名は呼び捨てにするように指示しておいた。16歳になったエミールが、この世界基準ではどう見ても12歳くらいにしか見えない私を「カオル様」とか「カオルお姉ちゃん」とか呼んでいては、奇異の目で見られる。

 それに、今では12歳になったベルの方が、私より少し大きい。身長も、む、胸も……。

 すみません、見栄を張りました! 胸は、少し、ではなく、かなり、です……。


 設定は、ベルの方が年上として、ベルにも呼び捨てにするよう指示して、何度も練習させておいた。長年の癖で、つい「カオルお姉ちゃん」って呼んじゃうんだよね、ベル。

 いや、今現在ならば、自分が年上、という設定でも悪くはなかった。1歳2歳ならば、年上の方が少し小柄、というのも別におかしくはない。

 しかし、これから先、どんどん差が開いて行けば、そのうちおかしくなる。ならば、最初から自分が年下、ということにしておいた方がいい。

 と、今は、そんなことを考えている場合ではなかった。


っちゃダメ。ちょっと考えるから、現状維持で」

「……了解」

 番小屋に通されて席に着くと、木製のコップに入れられたワインが振る舞われた。

 このようなところの番小屋では、飲み物など、生ぬるい水くらいしかないはず。恐らく、私がこの道を通過するであろう僅かな可能性に備えて、わざわざ用意していたのだろう。1本で5人分、ぎりぎり足りたようで、何より。

 その苦労を無にしたくないので、少し飲んでみた。うん、生ぬるいけど、赤ワインなので、まぁ、そこそこ。


「……で、何の御用でしょうか?」

「あ、いえ、国王陛下から指示が出ておりまして、カオル様が我が国に入国されました場合、丁重にお迎えして、直ちに王宮へと御案内するように、と……」

 普通の警備兵ではなく、どうやら私を見つけて王宮へ連れて行くためにわざわざ待機していたと思われる、少し位が上みたいな兵士が、そう説明してくれた。

「で、どうして私がカオルだと?」

「はい、我が国の上級衛士は皆、一度はバルモア王国へ出向き、カオル様の御尊顔を拝見し、覚え込むこととなっております。一般の衛士は、何種類もの姿絵を見て覚えるだけですが……」


 ぎゃああぁ!

 なにソレ!

 絶対逃がさない、ってこと?

 どこまで執着するんだよ! ストーカーか!!

 最初は、カオル? 誰ソレ? って惚けようかとも思ったんだけど、どうも私がカオルだということに確信を抱いているみたいだったから、どうせ揉めるからと諦めて素直に認めたんだけど、正解だったか……。

 もし否定していたら、押し問答になって、そのうち殿下……、あ、いや、今は、「ロランド兄さん」だっけ、その兄さんか、婚約者のフランセット、そして次男のエミールが、切れて暴れていたかも知れない。特に、フランセットが。

 いや、危ない、危ない……。


 あ、今の私達の編成は、こういうことになってる。

 長男、ロランド。次男、エミール。長女、カオル。

 フランセットはロランドの婚約者で、ベルはエミールの婚約者。

 いや、全員兄妹にするという選択肢もあったけど、そうすると、2組のカップルがイチャイチャすると芳しくない噂が立ちそうな気がしたため、現実に応じた組み合わせにしたのだ。「ブラコン」、「シスコン」あたりならばまだしも、その上の、「近親なんとか」というような噂は、さすがに勘弁して欲しいので。


 どう見ても貴族で、騎士にしか見えないロランドと、ザ・平民、平民の中の平民、という雰囲気のエミール。もし突っ込まれた時は、父親が下女に産ませた、継承権のない平民扱いの弟、と説明する予定だけど、そんなことを聞いてくる者は、多分いないだろう。貴族の家庭の事情に口を挟むなど、命知らずもいいところだものね。

 ま、そういうわけで、若いうちに諸国を旅して知識と経験を積むように、と、旅に出された長男と、お付きの者として同行する腹違いの弟。そして、それぞれの婚約者。

 更に、2組のカップルのお目付役として同行する、妹カオル。


 私は、傷ひとつない、細くてつるつるの手や、どうにも平民らしくない雰囲気とかで、世間知らずの下級貴族の娘、というあたりが適役だろう。

 それに、エミールだけでなく、ロランドやフランセットが、自分や他の者より優先して私を護ろうとするだろうから、それを奇異に思われないためにも、私は「護られてもおかしくない立場」にしておく必要がある。

 ……設定に無理がある?

 いいんだよ、こういうのは、「嘘なら、もっとそれらしい嘘を吐くだろう」と思われて、却って信憑性が増すんだよ! うるさいな、もう……。

 あ、ロランドは、もう、呼び捨て。

 いくら王兄殿下とはいえ、私の旅に勝手にくっついて来てるだけなので、もう、王族扱いじゃなく、ただの『旅の仲間』でいいよね。他のみんなは全員呼び捨てなのに、ひとりだけ『殿下』じゃ、面倒だ。

 それに、普段『殿下』とか言っていたら、そのうち人前でポロッと言っちゃいそうだし。

 一応、本人の了承は取った。……断れるはずがないよね、まぁ。



「では、馬車の御用意が整いましたので、こちらへ……」

 警備兵がそう言って案内しようとしたが、私はそれをばっさりと斬って捨てた。

「あ、結構です。別の馬が引く乗り物に乗ったりしたら、エド達の機嫌が悪くなっちゃいますから!」

「え……」

「じゃ、お邪魔しました!」

 そう言って、さっさと席を立つ私と、それに続く4人。

「ああっ、ま、待って、待って下さい!」

 追いすがる警備兵を無視して番小屋から出た私達は、さっさとエド達に騎乗して出発した。

 ちゃんと話はしたし、ただ「馬車で送る」というお誘いを辞退しただけだ。これならば強行突破にはならないだろう、と思ったので。


 大混乱に陥って、大騒ぎとなった国境検問所を後にした私達は、馬を走らせながら、大声で話をした。

「先触れ、出ましたかねぇ!」

「ああ、とっくに出てるだろ!」

「じゃあ、追い抜きますか!」

「ああ、追い抜くか!」


 多分、後から、馬車と、さっきの警備兵も追いかけてくるだろう。

 でも、そんなのには追いつかれないから、関係ない。

 先触れの伝令より早く王都に着き、用事を済ませて、王宮が報告を受けて対応する前に脱出する。そのためには、12時間の先行が必要だ。

 王都さえ突破すれば、伝令の早馬より速く進めば、先を遮る者はいない。

 このメンバーと、王族用の名馬、そしてエド一家。プラス、回復ポーション。

 うん、何の問題もない。


 私は、景気づけに叫んだ。

「ハイヨー、シルバー!」

『また、その名前かよ! いったい、どこの馬に浮気してるんだよ、嬢ちゃん!!』

 エドに怒られた。

 ……すみません。



以後、更新は、毎週木曜日の午前零時に行う予定です。

次回は、今週の木曜、12日零時の予定です。

『平均値』、そして、同じく更新を再開しました『8万枚』(水曜零時更新)共々、よろしくお願い致します。(^^)/


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― 新着の感想 ―
ろうきん・のうきんからこちらへ ……あれ?俺コレ読んでるよ? 分かりました! 第一次の連載が終わったとこで 途切れてたんです そこでブックマークから外してたのが失敗でした^^; ということで …
しゃべる馬はエドだけど、掛け声は「ハイヨー、シルバー!」になるよねぇ。
[一言]  『私、能力は平均値でって言ったよね!』もTVでアニメを拝見しました!  この話の前書きを拝見して、lemioで2周目を見始めました!
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