427 御用聞き 1
「御一緒します」
まだ、レイコと恭ちゃんが言葉を口にする前に、ファルセットがそう言った。
……まぁ、当たり前だよねえ……。
「いや、王様達にはもう何度か会っているし、宰相様も、みんないい人達だよ?」
「……御一緒、い、た、し、ま、す!!」
「……あ、ハイ……」
ま、そりゃそうか……。
王宮には、王様と宰相様しかいないわけじゃないんだ。
初めて王宮に連れて行かれた時の、私を利用しようとしていた貴族6人組とかもいるし……。
権力者の巣窟である王宮に、私ひとりで行かせる護衛はいないよねえ……。
「私も……」
「恭ちゃんは留守番!!」
「恭子は店番!!」
何か言いかけた恭ちゃんの言葉を遮って、私とレイコの言葉が続いた。
恭ちゃんを王宮になんか連れて行ったら、どうなることか……。
……せかいがはめつする……。
それだけは、絶対に阻止しなければならない。
今、私とレイコの心は、ひとつになった!
「……私も、お城に行ってみたい……。王様や王子様、お姫様達に会ってみたいよぉ……」
ぐっ……。
恭ちゃんのヤツ、泣き落としに来やがった……。
うるうるとした、縋るような目。
タチが悪いのは、これが演技じゃなくて、恭ちゃんの『地』だってことなんだよなぁ……。
昔は、これに絆されて、色々と後悔するハメになったもんだ……。
だけど、今の私は、昔の私じゃない!
「駄目!」
……そう。私は、この世界を破滅させるわけにはいかないのだだだ!!
「カオル、立派になって……」
「うるさいわっ! てめーも止めろやっ!!」
レイコのヤツ、他人事みたいな顔しやがって……。
「レイコは、恭ちゃんと一緒に、お店で店員達の指揮! 護衛は、ファルセットだけで充分だよ!」
野良巫女風情が、野外でならばともかく、王都内で複数の護衛を連れているのは、目立つ。
しかも、王宮に入るのにふたりも護衛を連れていると、何から身を護ろうとしているのか、ってことになる。
王宮内が危険な場所だと考えている。
王宮内で、武力を行使しようと考えている。
……共に、とんでもない不敬行為だよねぇ……。
そりゃ、マズいだろう。
なので、出家前は高貴な身分であった少女が、護衛と身の回りの世話をさせるための女性をひとり連れている、という、多分許容限度内であろう範囲に収めなきゃねぇ。
そして勿論、レイコを護衛として連れて行ってファルセットを恭ちゃんと共に店番に、などということが、ファルセットに許容できるわけがない、と……。
他に、選択肢はないんだよ、うん……。
* *
「陛下、来ましたッ!!」
「何っ! すっ、すぐに第1貴賓室に御案内するのだ! 丁重にな! 決して、失礼のないように!
おい、お茶と茶菓子を用意せよ、最上級のやつだ。急げ!
それと、宰相とヴァイスを呼べ!!」
……お茶や茶菓子の指示など、国王がわざわざ自分で出すようなことではない。
来客の取り次ぎ・接遇の担当者が、主語を省いてこのようないい加減な報告をし、なおかつ国王陛下がそれを咎めることなく、その意味するところを誤解の余地なく正確に理解する。
……そのような相手は、ひとりしかいない。
そして今回は、宰相だけでなく、王太子も巻き込むつもりのようであった。
自分が女神の御不興を買って、あるいは胃痛で倒れた場合に備えて、いつでも王太子が王位を継げるようにとの考えであろうか……。
確かに、今現在、この国……及び、この大陸全土……にとっての最大の危機、懸案事項はこの件なので、王太子によく理解させておくことは、必須事項であろう。
もし、女神の愛し子、御使い様のことを信じず、軽んじた態度を取ったりすれば。
……この大陸が、海に沈む……。
自分の身に万一のことがあった場合に備え、王太子に正しい知識、正しい認識を叩き込んでおくことは、国王として、いや、この大陸に住む者としての、絶対的な義務であろう……。
* *
「お久し振りです。
すみません、お言葉に甘えまして、またまた図々しく押し掛けてしまいまして……」
「いやいや、いつでも気軽に来てもらって構わぬぞ。女神にお仕えする巫女殿のお役に立てることも、市井のナマの話が聞ける機会も、大歓迎だ。
そういう機会がないと、国民達のことを何も知らぬ為政者になってしまうからな……」
おお、やはり、立派な人だなぁ、王様……。
こういう人がトップなら、この国は安泰だよね。どこかの国から戦争でも吹っ掛けられない限り……。
あ、ファルセットは、私の右斜め後ろに立っている。
勿論、武器を持って王様に近付くわけにはいかないから、剣は私が預かって、アイテムボックスの中に入れてある。
襲われたらどうするかというと、最初に斬り掛かってきた者の剣を奪って近くの敵を薙ぎ払い、敵が怯んだ隙に、私から愛剣……神剣を受け取る、ってことらしい。
だから、今、ファルセットはメイド姿なんだよね。
丸腰で騎士やハンターの恰好はおかしいし、警戒させちゃうからね、王宮の警備兵達を……。
ま、ファルセットの目付きや動きを見て、ただのメイドだなんて思う警備兵はいないだろうけど、非戦闘員の皆さんには、幾分かの安心感を与えることができているかもしれないよね。
確率的には、微レ存……『微粒子レベルで存在しているかもしれない』というくらいだろうけど。
……だって、ファルセットが全方位に放っている殺気とか、あちこちにガンを飛ばしている視線とかに気付かないなんて、相当な鈍感でないとあり得ないよね……。
というか、ファルセット、武芸には秀でているのだから、殺気を抑えるとか、強さを隠すとか、そういうことはできないの?
あ、今回初対面の人がいるな。
17~18歳くらい?
ここの人種は欧米系だから、私達には年齢が分かりにくいんだよね。
子供の年齢は大体分かるようになったけれど、このあたりの年齢は難しい。
身体の大きな14~15歳くらいから、25~26歳くらいまでの間だとは思うけれど……。
あまり幼い顔付きじゃないから、未成年ってことはないよね、多分……。
今回私の相手をしてくれるのは、王様、宰相様、そして初対面であるこの人の、3人らしい。
余程信用してくれているのか、護衛とかは同席していない。いいのかな……。
まあ、王様や宰相様も、若い時には武術を嗜んだだろうし、この若い人は結構強そうな気がする。
……王様の護衛かな?
いや、それにしては、ちょっと服装が豪華すぎるか? 帯剣していないし……。
どちらにしても、私が何かしようとすれば、素手の王様ひとりでも簡単に取り押さえられるだろうから、問題ないのか……。
そして、ファルセットが何かしようとすれば、近衛兵が1個分隊いても意味がないから、同じく、問題ないのか……。
「ヴァイスとは初対面だったな。息子……、王太子だ」
「ええっ、王子様!!」
王子様には、あまりいい印象がないんだよねぇ、私……。
私が知ってる王子様って、フェルナンとか、その弟とかだものなぁ……。
ロランドは王兄、その弟は王様だったから、あのふたりは会った時から既に王子様じゃなかったし……。
まぁ、王宮での知り合いが王様と宰相様のふたりだけ、というのは心許ないし、そもそも、バランスが悪すぎるよね。
普通は、取り次ぎ役の人だとか、せいぜい下っ端の方の大臣さんひとりくらいと顔見知り、くらいだろう。
王宮にふたりだけいる知り合いが王様と宰相様なんて、普通、あり得ないよねぇ。
だから、ひとり増えれば……、って、王太子殿下が加わっても、大して変わらんわっっ!!
先週、本作『ポーション頼みで生き延びます!』の書籍11巻が刊行されました。
よろしくお願いいたしますううぅ〜〜っっ!!(^^)/




